メディアグランプリ

私はバイトで、禊する


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記事:龍子 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
貴方にとってのパワースポットは、何処だろう?
私は、誰にでも自分だけのパワースポットがあると思っている。
家がパワースポットという人もいれば、自然の中!という人もいるであろう。
神社や仏閣、古墳が落ち着く、という人もいる。
それぞれが心地良いと感じる場所、ここにいくとパワーをもらえると感じる場所。
それがパワースポット。
私のパワースポットは、職場である。
 
私は週一回、寺掃除のアルバイトに行っている。
以前から素敵だなぁと思っていた場所。
何度か来客を連れて、その寺の庭を見に行ったこともあった。
歴史ある建物。
とても大切にされているのがよく分かる、古いけど清潔で整った印象の寺である。
 
そのお気に入りの寺で、清掃バイトを募集していると聞いたのは、近所の友人と久しぶりに会った時だった。
『忙しそうだけど、週一回、固定曜日で寺の掃除バイトしない? 』
唐突にその友人に言われた。
 
彼女が私のお気に入りの寺で働き始めたのは3年前。
正直羨ましく思う自分がいたのは事実である。
でも、私は掃除が嫌い、苦手分野である。
一瞬の羨望を打ち消して、私には掃除なんて出来ない、と情熱の火を消した。
いいなぁ、と心の底で思いながら。
 
それから1年経って先程の問いかけが私にやってきた。
私は、予定を詰め込むタイプの人間である。
フリーランスを良いことに、月の9割を仕事や仕事につながりそうな遊びに注ぎ込んでいる。
予定を詰め込んでいる自分が好きである。
でもそんな詰め込みスケジュールを投げ打ってでも、私は寺のバイトに行きたくなった。
ここで働かせて下さい!と気分はジブリ映画の主人公。
前のめりに、採用の会社に連絡し、翌日には家から2時間かかる本社に面接に行き、即合格!
晴れて憧れの寺で、アルバイトを始める事になった。
 
やってみて、まず驚いたのはその広さ。
外側から見るよりも、実際潜入してみたらかなり広い。
1日をかけて、流れが決まっている。
まずハタキかけ。
最初の頃は、なれぬハタキかけを15分やっただけで、二の腕は筋肉痛、腱がビリビリしたもんだ。
次に、雑巾でテーブルや台の上を拭いていく。
毎週拭いているので、あまり汚れてはいない。
基本的に、とても清潔な寺なのだ。
 
次は玄関。
マットや傘立てをどかし、大理石の上をほうきで掃き、ホースで水を流してから、ワイパーで水を落とす。
その後に、雑巾がけで水気を取る。
晴れた暑い日は、すぐに乾き、冬場の寒い日はなかなかスッキリ乾かない。
それでも黒い大理石に、庭の風景が鏡のように映ると、自分の気持ちも晴れるように嬉しくなる。
一緒に働く相方と、玄関の水まきと拭きあげ作業を『禊』と名付けて、毎週楽しんでいる。
 
禊を終えたら、客間にハタキをかけ、拭き掃除をしてから、掃除機をかける。
来客用トイレの清掃をする。
トイレ掃除の締めは、床のモップかけ。
玄関の禊と共に、私が好きな作業である。
これを完了すると、午前の部が終わる。
 
午後の部は、広い本堂に移る。
最初は、やはりハタキ。
たくさん窓があるので、結構大変である。
本堂、隣接するすべての部屋、渡り廊下にハタキをかけたら、拭き掃除。
歴史ある寺の中には、私の何倍も長く生きているであろう仏像があちこちに祀られていて、乾拭きする時は毎回ご挨拶を欠かさない。
私は決して仏像マニアではないが、仏像というのは、威厳があって、なかなかカッコ良いのである。
今更ながら、仏像好きな方の気持ちが、少しだけ分かった気分である。
 
広い広い本堂内に掃除機をかけたら、いよいよ仕上げに入る。
私の中の、ザ・修行僧という仕事。
床の水拭きだ。
暑い日も寒い日も、膝をついて床を拭く。
歴史ある建物は、外気とほぼ同じ温度。
真冬は、床下からのすきま風に芯から冷えを感じ、手の感覚が無くなるくらい体が冷える。
真夏は、ただそこにいるだけでガマの油のように、汗が滴り落ちてくる。
クーラーの効いた部屋が大好きな私には、有り得ない苦行が真夏の床拭きである。
お寺にアルバイトに行くようになって、良かったことがたくさんある。
その中の一つに、自然の環境、自然な温度に抗わず、身を任せられる自分になれた事だ。
暑さ寒さに文句を言わず、自然に調和する。
普段のスマホ漬けの日々とは打って変わり、デジタル封印し、アナログな自分になる。
それが意外なほどに、気分が良い事に気づいたアルバイト。
苦手だと思っていた掃除も、寺だと楽しい。
何より空気感が、とても気持ち良い。
加えて高級な線香の香り、法事用の立派な花束、至る所に生けられている美しい花々。
日常では感じ得ない事が、寺に来ると五感フル稼働で敏感に感じられ、とても贅沢な時間になる。
日常の雑多な時間を忘れ、常に忙しい脳内が黙る。
 
普通に暮らしていたら、なかなか寺で働く機会はないかもしれない。
でも寺に行って、しばしその場の空気感を感じたり堪能する事は可能である。
 
日常、雑務に追われている方こそ、スマホやPCから離れて脱デジタル生活をしてみてはいかがしょう?
きっと今まで知らなかった、自分の一面に出会えると思います。
 
 
 
 
***

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2021-06-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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