ミッション~秘密基地を築城せよ~
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ozuka(ライティング・ゼミ平日コース
家庭内が、静かに、しかし、着実にピリつき始めていた。
我が家は狭い。
仕切りがなく、個室がない。
そんな中で、コロナ禍に突入した。
妻と二人、一緒の部屋で働くことが増えた。
リモートワークにより、部屋がさらに狭くなった。
ささいな、取るに足らないケンカが増えた。
もちろん、一緒にいたい。
けれども、一人だけの空間、一人だけの時間が少ないということは、ストレスになるのだろう。
近頃は、「コロナ離婚」という言葉も聞かれる。
そんなことは、万に一つもないだろうが、リスクは減らさねばならない。
早いうちに手を打って、コロナ禍での、最適な過ごし方を見つけねばならない。
そう思った。
ストレスを発散できる、自分だけの時間や空間が、短時間でも必要だと思った。
小さい頃から、「秘密基地」を作ることが好きだった。
自分だけの空間で過ごす時間は、特別なものだった。
押し入れの中、屋根裏、大きな木の上、色々な場所に秘密基地を作った。
そこに、好きなおもちゃを集め、眺めることで、悦に浸っていた。
秘密基地は、男のロマンだ。
「ああ神様、私に秘密基地を。秘密基地という名の書斎をください」
そう願わざるを得ない。
一人になって、
「いゃっほい!!!」
となる瞬間がほしい。
その場所にいるだけで、テンションがガツンと上がるような。
心が揺れ動く瞬間を、生活に埋め込みたい。
しかし、そう願ったとて、部屋は増設されない。
せめて1時間、いや、30分だけでも、一人になる時間を作れないだろうか。
「妻にバレずに、秘密基地を築城する」
家の中を戦場にした、ミッションが始まった。
ミッション成功のため、戦略を立てる必要があった。
妻の行動パターンを分析した。
まず、リビングやダイニングはどうだろう。
しかし、動画を見ようとすると、気配もなしに、ヌッと覗いてくる瞬間がある。
妻の目は、鋭く光っている。
ダメだ、少なくとも、隔てられた空間である必要があると思った。
そうすると、思いつく場所は、二箇所しかない。
「トイレ」と「バスルーム」だ。
トイレはどうだろうか。
残念なことに、私はお腹が弱い。
おそらく、トイレに30分以上籠ると、妻に心配されてしまう。
私の欲望のために心配をかけるのは、本意ではない。
トイレは諦めよう。
残されたのは、バスルームしかない。
バスルームであれば、監視の目をかいくぐれるのではないか?
しかし、湯船につかる習慣がない。
めんどくさがりな私は、シャワーでささっと済ませてしまう。
湯船に浸かれば、健康にいいことは分かっている。
けれども……
「30分以上、湯船に浸かっていられるか?」
そう聞かれると、無理だ。経験則が言っている。
習慣として固定化されていないことが、長く続くはずがない。
自分のことは、自分が一番分かっている。
まして、湯船に30分以上いたとして、何をするのだろうか。
「いゃっほい!!!」
となる瞬間を作れるのだろうか。
楽しいイメージが、全く浮かばなかった。
思考回路は、袋小路に入った。
秘密基地にできそうな場所は、この家には存在しない。
ミッションは、インポッシブル(達成不可能)だと思った。
この家に、ユートピアは作れない。
そこでふと思った。
他の人は、このご時世に、どうやって一人の時間を作るのだろう。
ZOOMで飲み会をするたびに、友人にインタビューをした。
カフェに行く人、漫画喫茶に行くという人。
ホテルには、宿泊無しのリモートワークプランがあるらしい。
ただ、毎日外に出るわけにはいかないだろう。
家の中に秘密基地を築城した人、
テンションが上がる空間を創造した人は、
なかなか見つからなかった。
そんな飲み会のさなか、ふと目を引いたものがあった。
注意を引いたのは、話の内容ではなく、ワイヤレスのイヤホンだった。
「その耳にかかっているやつ、なんですか?」
友人に聞いてみた。
「骨伝導イヤホンだよ」
骨伝導イヤホンは、音漏れが大きかったり、重いイメージがあった。
しかし、それはとても軽そうで、音漏れを気にしている様子もなかった。
「リモートワークしてても、子供の声が聞こえるのが、かなり便利。耳塞がないから」
「あと、防水だしお風呂で使えるの、けっこういいよ」
友人はもともと、そのイヤホンを、奥さんにプレゼントしたそうだ。
だが、あまりに便利だったので、自分でも購入したという。
骨伝導イヤホンが、お風呂を秘密基地にしてくれるのではないか。
そんな予感があった。
脳を通さずに、無意識でAmazonのボタンを押していた。
ワクワクしながら到着を待つ。
宅配便が来た瞬間、開封した。
実際に、耳に装着する。
軽量で、つけている感覚すらほとんど無い。
久しぶりに、湯船にお湯を張る。
その瞬間から既に、テンションが上がっている。
骨伝導イヤホンをつけて、湯船に入る。
バスルームで使っても、問題なさそうだ。
何より、耳に水が入っても不快感がないのは、骨伝導イヤホンだからこそだと思った。
ジップロックにスマホを入れ、好きなアニメを見る。
バスルームが、私だけが観客の映画館になった。
解放感と、妻に気づかれていないという高揚感に包まれた。
バスルームが、私だけの秘密基地になった。
そこでふと、足音が聞こえた。
骨伝導イヤホンは、耳を塞がないため、外の音もよく聞こえる。
「湯加減、どう?」
まさか、妻が脱衣所に来るとは思わなかった。
しかし、骨伝導イヤホンは、音漏れがほとんどない。
耳と耳をくっつけなれば聞こえない、そういうレベルである。
妻には、私がバスルームという名の映画館にいることは、バレていない。
「いい湯加減だよ」
ドキドキしながら答えつつ、高性能の骨伝導イヤホンを、心の中で賞賛する。
思いがけないメリットもあった。
湯船に入ることが、習慣になった。
骨伝導イヤホンは、湯船に浸かるための、やる気スイッチだったのだ。
最近、目覚めもよい。
湯船につかることで全身が温まり、自律神経が整ってきているかもしれない。
加えて、一人の時間をエンジョイしつつ、YouTubeで、新しい知識のインプットを始めた。
どこが出典かも分からない、使い古された名言に思いを馳せる。
「行動が変われば習慣が変わる」
「習慣が変われば人格が変わる」
「人格が変われば運命が変わる」
たった一つのデバイスを購入した。
そんな行動が、いい習慣に繋がるとは、思ってもみなかった。
結果的に、秘密基地を築城でき、妻とのささいなケンカも減っていった。
湯船につかる習慣ができた結果、体も少し健康になった気がする。
副次的に、新しい勉強も始められた。
習慣で、人格まで変わるかは分からないけれど、運命は変えられるかもしれない。
一つ、大きな懸念がある。
「骨伝導イヤホン in バスルーム」の効果は抜群だと思った。
世間で広まると、どこからともなく妻にバレてしまう可能性がある。
妻にバレると、妻も長風呂をしてしまうだろう。
つまり、私の秘密基地が崩壊してしまう。
「骨伝導イヤホン in バスルーム」
どうか、この場限りの、秘密にされたし。
***
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