メディアグランプリ

“メイク”という魔法の正体


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:林明澄(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
目のすぐ近く、瞼に絶妙な長さと太さで線を引く。眠気をこらえながら、目には入らないように、でも目からは離れすぎないように慎重に手を動かす。
 
朝起きて、歯磨きやお手洗いを済ませた後、朝ご飯の準備をしながら私は毎日20分かけて化粧をする。鏡に向かうその時間は一日をスタートさせるスイッチだ。洗面台に漂ってくる焼けたトーストのにおいと徐々に化粧で彩られる自分の顔が、眠たい私の体を覚ましてくれる。
 
下地とファンデーションを顔全体に塗ってベースを作った後、私は一つ一つのパーツを整えていく。上まぶた(アイホール)にはアイシャドウを塗り華やかに。次に睫毛に沿って目の横まで茶色いアイラインを引く。目の上や外側までひく線は、錯覚で目を大きく見せてくれる。鼻が低い事がコンプレックスの私は、鼻筋の脇にも影に見せるシャドウ(茶色の粉)を縦に入れ、中心を少し白くする。そうすることで、陰影の錯覚が生まれて鼻が少し高く見える。くちびるにはリップクリームと口紅を塗って、頬にチークをまとわせる。最後に眉毛を描いてバランスを整えておしまい。
 
面白いことに、毎日同じように顔を描いていても、少しの角度や長さで顔全体の印象は変わる。全体のバランスがとれてうまく描けたなと思える日には、それだけで一日がハッピーになる。
 
ちなみに、美しさや可愛さには、一定の法則性がある。描く顔は左右対称に近い方が良く、眉毛と目の距離は近い方が可愛く見える。髪色と眉の色は揃えた方が垢抜けた印象になるし、アイシャドウとチークの色は同じ系統にした方が顔全体のまとまりが良い。実際、私も髪を茶髪に染めてからは、眉マスカラ(眉毛につける茶色い液)で眉毛も茶色にしている。
 
誰しも毎日生きていると、楽しいことも辛いこともある。旅行やデートなど、楽しみな用事がある日には、化粧をしながら一日を想像しワクワクする。大変そうな仕事が立て込んで、あまり気分が前向きになれない日には、好きな音楽を聞きながら化粧をする時間が「まあ今日も一日頑張るか」と私の心を前向きにしてくれる。いわば、化粧は私の毎日のエネルギーなのだ。
 
毎日同じ事をする化粧だが、実はその内容は少しずつ変えている。お出かけの時にはオレンジやピンクの明るいアイシャドウやラメを塗って華やかにするし、仕事の時には清楚を意識してアイシャドウやアイラインは敢えて引かなかったりする。その日着る洋服や行く場所に応じてアレンジするメイクは、私の気持ちのバロメーターの役割も果たしているのかもしれない。
 
私が初めてメイクをしたのは、1年前に初めてコンタクトレンズをつけた日だった。小学生からずっと眼鏡をかけていた私にとって、コンタクトレンズをつけて初めて見た自分の顔は新鮮だった。「こんな顔だったんだ」と自分が自分じゃないような感覚になったのを覚えている。この顔を可愛くしたい(可愛くなりたい)と思い、私はその前の年の誕生日に友達にもらって引き出しに入れっぱなしだったアイシャドウをつけてみた。ちなみに、この“可愛くなりたい”という感情は、“異性にもてたい”という感情よりは“ありのままの自分をもう少し好きになりたい”や“在りたい自分に近づきたい”という思いに近かったように思う。アイシャドウをつけたのは顔の中のほんの一部だったけれど、自分の顔色がパッと映えて明るくなったように感じた。芸能人みたい……。憧れの手の届かない存在の人たちに少しだけ近づけたような気がした。その後、YouTubeを見ていて、瞼だけでなく目の脇(下瞼の外側)にも入れるといいと知った。その通りにアイシャドウを入れてみると、まるで韓国のアイドルみたいな雰囲気になった。それら変化を見て、私は“メイク”を面白いと思った。
その後、ファンデーションもアイライナーも使ってみたくなって、私は次々化粧品を買い足した。最初は一つ一つの違いや用途を理解することが難しかったけれど、徐々に理解できるようになった。
初めてメイクして友達と遊びに出かけた日、私はワクワクとドキドキが入り混じる何とも言えない高揚感を感じた。変になってないかなという不安と自分の外観を自分で作れる喜びに、心がフワフワした。「雰囲気変わったね」「いいね」「可愛い」友達の誉め言葉が嬉しかった。
 
その後、社会人になり化粧を本格的に始めて半年がたった。化粧は、仮面や整形などと違って劇的に見た目を変えてくれるわけではない。あくまで一時的なもので、化粧を落とせばすっぴんだ。
でも、だからこそ良いのではないかと私は思う。本来の自分の姿を残したまま、少しだけより良くしてくれるメイクの存在が自分に自信をくれる。ありのままの自分も大切にしつつ、シンデレラタイムをこれからも大切にしていきたい。
 
 
 
 
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2021-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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