いつの間にか好きになっていた
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:中家 緑(ライティング・ゼミ日曜コース)
8ヶ月前。
引っ越したばかりで、地理感覚が全くないころ、朝早くそこら中を散歩しまくっていた。
何か面白いものに出会うんじゃないかと。
お寺を見つけ、さらには五重塔まで見つけて嬉しくなった。
自分の部屋から見えていたのは、ここだったのか。
ようやくたどり着けた。
すっかり気に入って何日か通っていると、朝の6時台だというのに体操をしている集団を見つけた。
何やってるんだろう……。気になりながらも一度は通り過ぎた。
だけど、やっぱり気になると引き返し、こっそりすみの方で動きをマネして体を動かして、終わったらさっさと帰ろうと思ったとき、赤い帽子のおじさんに捕まった。
「名前は?」
「え、みどりです」
「はい、今日から仲間のみどりちゃんです。みんなよろしく」
えええええええー!?
来るって言ってないんですけど……。
何このおっちゃん。
グイグイ来るやん。
周りを見れば、私より若い子なんておらず、みんな親世代かそれより上の人ばかりだった。
みんなこっちを見てる……。
「……よろしくお願いします」
有無を言わせぬ圧力を感じ、これはやばいことになったぞと一人悩む。
本当は行かなければいいだけなのに、それも悪いような気もして、通うようになった。
20人くらいいるかな。
雨の日以外は毎日やっているらしい。
これを毎日やってるん!?
この30分もある結構ハードな体操を!?
すごいなぁ。
私もこの歳になってもみんなと同じくらい、いやそれ以上に動ける体でいたい。
その一心で真剣に取り組んだ。
体操を終えると、お風呂に入らないと気持ち悪いくらい汗をかいた。
毎日2回お風呂に入るなんて思わなかった。
何度かそのハードさに辞めたくなるかもと思ったが、不思議とみんなと毎日顔をあわせるのが楽しみになっていた。
あるとき、
「みどりちゃん、先生の隣でやってくれ」
「動きが大きくて、みんなの力になるから」
と。
そんなこと言われたことなかった。
誰かの役に立てるなんて思ってもみなかった。
その頃にはすっかり馴染み、みんなに馴れ馴れしく話しかけることができるようになった。全員の名前は覚えていないけど。
毎朝数分あうだけの関係。
「今日は遅刻したね」
とみんなに言われ、思えばあれは可愛がられていたゆえのいじりなのかもなぁ。
「これ食べる? 見た目はピーマンだけど、ものすごく辛い唐辛子だから、気をつけて食べてね」
と、本当に本当にえぐいくらい辛い唐辛子をもらったり、
「若い頃は行けるときにいかなあかんよ」
と、昔の写真をわざわざ持ってきてくれて、登った山を一つずつ説明してくれたり。
たくさんのおじいちゃんおばあちゃんができた気がして、でも、みんな無邪気で。
すっかりここの居心地が良くて、だんだん離れがたくなっていた。
ここに住んでいる理由は、この体操に来るためだとも思うようになった。
みんな大好きで、何か恩返しをしたかった。
料理教室で習った月餅を作って持っていくと、飛ぶように売り切れた。
みんな喜んで食べてくれて、これなら売れるぞ! と褒めてくれた。
あれ、おかしいな。私がお礼をしたはずなのに、こっちがまたたくさんもらってる気がする。
こんなはずじゃなかったのになぁ。
返しきれない恩がいっぱいあるのに、私の都合で引っ越すことを決めた。
いや、決めてしまった。
他にやりたいことが見つかってしまったから。
ここにとどまることが難しくなってしまったから。
いろんな言い訳を自分の中で並べて、みんなに言うときにあっさり言えるように、練習した。
「来月末に引っ越すから。またじきに遊びに来るよ」
報告すると、みんなの顔が曇った。
え? いなくなるの?
寂しいねぇ。
ずっといたらいいのに。
わかってた。ここの人たちは優しいから、悲しんでくれるって。
でも、どこかで私一人消えたくらい、どうってことない。
笑って送り出してくれるやろう。大した問題じゃないよって。
最初からいなかったんだから。
そう思う自分もいた。
だから、誰も傷つかない。寂しいなんて言わない。
だから大丈夫。
勝手に引っ越しを決めた私は悪くない。
そうか、私は自分を守るためにそう思いたかったんだ。
私の決断は間違ってないって。
みんなの気持ちを無視してた。ひどいな。
もしかしたら、私が思うより愛されてたんじゃないかな。
私が気づいてないだけで、
思ったより存在感あったかもしれないなぁ。
もしそうだったら、私が居てよかったって思ってもらえてるのかも。
そうだったら嬉しい。
せっかく覚えた体操も、多分一人じゃしないから、動画を撮らせてもらうことにした。
どこに居てもみんなと一緒にできるように。
きっとここに来なきゃ、ここでの暮らしは楽しくなかった。
このコミュニティに参加できて幸せだった。
本当にいい人たちに出会えた。
孫のように思って仲良くしてくれた人もいた。
ありがとう。
本当はまだまだみんなと一緒に体操をしていたい。
できればずっとここにいたいけど……。
また来るよ。
絶対くる。
だから、みんなげんきでいてね。
清々しい気持ちでみんなが見送ってくれたから、
私も、また新しい場所でこれから頑張れそうです。
ありがとう。
***
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