小学生の娘が放った名言から学んだ、当然の権利を主張するということ
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記事:須賀泉水(ライティング・ゼミ10月コース)
「あの~、雑誌の付録についてたくまちゃんの物差しなんですけど~。くまちゃんの絵がはがれちゃってて~」
突然娘の声が聞こえてきたので見に行くと、誰かと電話で話していた。
「すごく楽しみにしてたので、交換してもらいたいんですけど~」
おいおい、小学5年生にして親に相談もなくクレームの電話ですか。しかもそれ、付録じゃないですか。
おぬしやるなぁ……と思って聞いていると、どうやら新しいものを送ってもらうことになった模様。住所や名前などを丁寧に伝えて、「よろしくお願いします」と電話を切っていた。
当時娘が必ず買っていた、ニコプチという小学生女子向けの雑誌。
子どもからのクレームの電話に、即ご丁寧に対応してくれた。
二日後には新しいくまちゃんの物差しに、謝罪のお手紙とおまけのシャープペンシルを同梱したものが娘宛に届けられた。シャープペンシルのデザインは、娘がお気に入りの物差しと同じくまさんだ。
「やっぱニコプチ最高~!」と開封して大喜びしていると思ったら、また電話をかけ始める娘。わざわざお礼の電話ね。えらいなぁ。親の教育が良かったのかしら? と思って聞いていると。
「あの~、新しい物差し届けてもらってありがとうございました。一緒に入れてくれてたシャーペンもすごくかわいいです! でも、芯入れても出てこないんですけど~」
なんと、お礼じゃない! またクレーム言ってる! どうなってんだ親の教育! 恥ずかしいからやめて!
思わず受話器を取り上げそうになったが、娘が自分の意志で始めたこと。
最後まで見守ってみようと、口出しするのをなんとか、なんとか耐えた。
電話を切った娘に、「おまけでもらったものだし、仕方なくない?」と聞いてみたところ、
娘は平然と、こう言い放った。
「当然の権利でしょ?」
娘の一言に、まるで時間が止まったのか、私が止まったのか。
当然の権利を主張することが当然のようにできない私は、思考停止させられるほど驚かされた。私のフリーズを溶かすように、娘は続ける。
「楽しみにしてたくまちゃんの物差し、絵がはがれてたら悲しくない? せっかくもらったシャーペン使えなかったら、使えませんって言うのは当たり前じゃない?」
はい確かに、あなたの言う通りです。「当然の権利」は、むしろ名言です。
小学生の娘相手に、返せる言葉は何も出てこなかった。
そんなことでわざわざ電話をする娘を恥ずかしいと思った自分こそが、恥ずかしいと思った。
そもそも、クレームは正当な権利であり、しつこく苦情を言う人=クレーマーとは違う。
そんなことも理解できず、私はこれまでの人生で、娘のように正当な権利を主張せず、どれだけ勝手に損をした気分を味わってきたのだろう。
それだけでなく、その損した気分を、人のせいにしてはいなかっただろうか。
美容室に行けば、あと数ミリ前髪を切ってほしいことを伝えられず、家に帰って自分でカット。その出来栄えの悪さを美容師さんのせいにしては損した気分になっていた。
焼肉屋さんでお会計した後、レジの人がうっかり忘れてミント味のガムをもらえなかった。欲しいと言えない自分を棚に上げて、お口直ししたかったのにと、アルバイトの女の子のせいにして損した気分になっていた。
私が飲み込んできた正当な権利の主張レベルは、娘が2回も電話をしたことに比べるととても低い。
遠慮をしたり、相手の顔色をうかがうことを重視して、勝手に損した気分になっては人のせいにする。原因は、言えなかった自分にあるのに。けっこう最低だな。
こんな最低な自分とはもう、おさらばしよう。
損した気分でお腹いっぱいになるなんてもったいない。
正当な権利を主張できる娘からそう学んだ私は、最低を卒業するために行動に移すことにした。
卒業第一弾のチャレンジは、「キャベツのおかわりください」が言えなかった、とんかつ屋さんにて。
この正当な権利を行使せず、「あ~、最後の一口はキャベツで〆たかったのになぁ」と、忙しそうに働くお店の人を恨めしそうに見つめるだけの私をやめて、手を上げて権利を主張してみた。
「少々お待ちくださーい!」
とんかつ屋さんのおばちゃん(と言っても私よりお若い)は、たーんとお食べ! と言わんばかりに、私のお皿にキャベツのおかわりを盛ってくれる。
何だこの爽快感は。今までできなかった正当な権利の行使って、こんなにすがすがしい気分になれるのか! この時おかわりさせてもらったキャベツの美味しかったこと!
とんかつ屋さんで、最初の一盛りのキャベツを食べ終えると、いつも思い出す娘の名言。
「当然の権利でしょ」
この言葉のおかげで私は、損した気分を人のせいにすることがなくなったと思っている。
あれから10年。
断捨離ができない娘の机の引き出しには、くまちゃんの物差しとシャーペンが2本ずつ、今も大切そうにしまわれている。
***
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