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私が無敵になった夜


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:みっこ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
Q:あなたにとって「旅」とはどんなものですか?
A:私にとって「旅」は「レースゲーム」のようなものだった。
 
旅をする時、私は必ずゴールを設定していた。
それは、「○○を食べる」だったり、「○○を
見る」だったり、時には「○○を体験する」と
いう時もあった。そのゴールが決まった後は、
ゴールのことしか頭になかった気がする。
準備をしている時も、旅の当日も、ずっと。
 
こんな風に、ゴール目掛けて一直線に進む!
その様子が「レースゲーム」に似ていると
感じたのだ。
 
数年前の旅行の時も、そうだった。私は夫と
ともに、日本一星空のきれいな村を訪れた。
そこは長野県阿智村、銀河もみじキャンプ場。
 
知人から聞いた話だと、この星空は何度見ても
圧倒される、特別な星空らしい。肉眼で見た
阿智村の星空は、写真の何十倍も何百倍も
きれいで感動したとか。
写真を見た私も、その美しさに心を奪われた。
「よし、阿智村の星空を見に行こう!」
この瞬間、旅のゴールが決定した。今回の旅の
ゴールは、「日本一の星空を見る」こと。
 
よし! そうと決まれば、絶対にゴール
してやるぞ! まずは、準備が肝心。
 
ネットを使って、周辺の観光情報やグルメ情報
などを調べた。オートキャンプについても調べた。
キャンプ初心者の私達でも手軽にできるとはいえ、
やり方や持ち物など未知の領域だったから。
さらに、この地を訪れた人のYouTube動画を見て、
予行演習までした。準備をしながら考えるのは、
ただ一つ。私の頭の中は、ゴールした時のことで
いっぱいだった。
 
これで準備は完璧!
そう思う半面、1つだけひっかかることがあった。
それが天気だった。1週間前から、天気予報を
チェックした。天気予報ではいつも快晴だったが、当日まで油断できない。
 
そして迎えた当日。
その日の天気は、予報通りの快晴。
 
雲1つないなんて、絶好の星観測日和だ!
ついてる! 朝から有頂天だった。
 
まだ明るいうちに、銀河もみじキャンプ場に
到着した。オートキャンプ場のエリアに車を
停め、お弁当やお菓子を食べながら夜を待った。
 
そうこうしているうちに、辺りが暗くなって来た。
そろそろ、星を見に行こうかという話になった。
 
オートキャンプ場から日本一の星空を観測した
観測地までは、歩いて数分。車から外に出る前、
夫と1つの約束をした。
それは、観測地に着くまで、絶対に空を
見上げないこと。
 
レジャーシートと厚手の毛布を持ち、
懐中電灯で照らしながら歩く。
時折、上を見上げそうになるのを我慢しながら、
観測地へ向かった。
 
観測地に着くと、早速レジャーシートを広げた。
その上に寝っ転がって、上を見上げようとした時だった。
 
「あれ? 星なんて、全然見えないじゃん」
どこからか聞こえてきた。
 
え!? そんなはずないでしょ。
だって、日本一の星空だよ?
 
そう思いながら見上げた空に、星はなかった……。
……いや、多少はあったが、明らかに写真とは違った。
 
え!? なんで星が見えないの!?
 
実は、きれいな星空を見るには、
月齢(月の明るさ)が重要だった。
その日は、あいにくの満月。その月明かりは
想像以上のものだった。
星の光は、月明かりで隠れてしまったのだ。
 
他の人たちも、私と同じ気持ちだったのだろう。
残念そうにテントへと戻っていく。
ゴールに辿り着けなかった私は、あっけなく
ゲームオーバーとなった。
 
「ここの星空は日本一きれいらしいから、
楽しみにしててね」
「楽しみだね」
数分前の夫との会話を思い出し、申し訳ない
気持ちになった。
 
夫に謝ろう……と思った瞬間、夫がぽつりと
こう呟いた。
「こんなにきれいな月、見たことない」
 
そう言われて見上げた空は「星の見えない空」
ではなく、「月のきれいな空」に変わっていた。
 
私も夫も、旅のゴールは同じだったはず。
「日本一の星空」を見ること。
でも、ゲームオーバーしたのは私だけ。
夫は、ゲームクリアしているように見えた。
 
そうか! 旅は「レースゲーム」じゃない!
「スーパーマリオ」だったんだ!
 
「スーパーマリオ」のゲームには、
「隠しゴール」が存在する。これらは通常ゴール
とは別に存在する、特別なゴール。
なんとなく入った土管が「隠しゴール」への
「ひみつの入口」で、通常とは違った道のりで
ゴールを目指せる……といった具合だ。
 
どこに隠されているのか、分からないのが
「隠しゴール」。それはいつも予測不可能。
見つける方法は準備じゃなくて、ただ目の前の
ものを楽しむこと。
ゲーム中に土管に入ってみたり、ブロックを
叩いてみたり、まっすぐにゴールを目指す
のではなく、寄り道しながら見つけていく
しかないのだ。
 
夫は、その「隠しゴール」を見つけていた。
「日本一の星」という通常ゴールではなく、
「きれいな月」という「隠しゴール」を。
 
思い返せば、夫はいつも、ゴールにたどり着く
には無駄にも見える寄り道をしていた。
普段は使わないライトや寝袋を珍しがったり、
道端の珍しい草や木に目を向けたり……とにかく、
いかなる時も「ひみつの入口」を探索していた。
 
それに対して私の「ゴール」は、たった1つだけ
だった。きっと、それも間違ってはいない。
もしかしたら、通常ゴールである「日本一の星空」
を見て、感動のラストを迎えていたかもしれない
から。でも、それだと旅の楽しみは1つだけに
なってしまう。
 
もし、「ひみつの入口」に飛び込んで、
たくさんの「隠しゴール」を見つけられたら……
きっと、楽しみは無限大に広がるに違いない。
 
旅はただの「レースゲーム」じゃない!
「スーパーマリオ」だったんだ!
そう思った瞬間、私の目の前には、スーパーマリオ
の世界が広がった。
 
あの夜から、私の旅は変わった。
 
マリオが土管に入るように、新しいお店に入って
みる。それは、「ひみつの入口」で、新しい発見が
待っているかもしれない。
 
スターは見つからなかったけど、私は無敵。
どこへでも行けそうだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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