狂った方位磁針
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:橋本 とおる(ライティング・ゼミ12月コース)
『方向音痴のギモン』
リビングに置かれた雑誌に目が留まった。
思わず表紙を開く。
『方向音痴の人は「ここからまっすぐ3つ目の交差点まで進んだら、コンビニの角を左に曲がってください」という前後左右で指示されれば迷わないのに、「ここから見て南東の方角を目指してください」と言われると指せないことが多いようです』
方向感覚が良い人は頭の中に二次元的な地図を描いて道を理解するようだが、方向音痴の人は『ストリートビュー』のような”ルート的な”イメージで道を理解するらしい。
―私じゃないか!
そう、私は”極度の”方向音痴だ。
これまで道に迷った回数は数知れず……
面接会場からの帰り道、開放感に浸りながら「なかなか駅に着かないな」と思ってスマホの地図アプリを確認したら、駅と真逆の方向に30分歩いていた。
またある時は、ホームセンターに向かう道を予習してきたのに、通る道が工事中でルート変更しなければならず、10分で行ける道を30分ぐるぐる彷徨っていた。滞在時間より移動時間のほうが長かった。
私は行ったことのない場所に行くとき、車はカーナビ、徒歩では地図アプリがないと不安で出歩けない。「道案内お願いします」とアプリに頼んでも、「目的地周辺に到着しました」と案内が途中で終わってしまって、目的地周辺を彷徨ったこともある。
「最後まで案内してよ!」と思っている方向音痴の人は私だけではないはずだ……
雑誌の特集の中に『方向感覚テスト』なるものがあった。点数が高ければ高いほど方向感覚が優れているらしい。ちなみに満点は7点で平均点は4.2点とのこと。
面白そうなのでやってみた。
結果は―”1.26点”
ひっく! 低すぎる! ほぼ底辺じゃないか!
私は自分の点数を見つめてハッ! とした。
低すぎる点数に思い当たることがあった。
それは、初めて地元のラーメン屋さんに1人で向かうときだった。
部活の先輩が車で何度も連れて行ってくれたお店だから、道は頭に入っていた。最近全く行っていなかったので、念のためラーメン屋さんまでのルートを前日に確認した。私の準備は抜かりないはずだった。
「交差点を2つ過ぎたら左折」
迷いなく車のハンドルを左に切る。
……異様に道が狭いけど、私の頭の中の地図は「正確だ」と言っていた。
「突き当たりを右折……えっ?」
右折できたが、そこはアスファルトの道路ではなく……農道? とにかく舗装されていない道だった。車一台が通れるギリギリの道幅で、すぐ右側には川が流れている。
「この道じゃない気がする……」
引き返そうとしても坂になっていたため、アクセルを踏みながらバックしなければならなかった。しかもハンドル操作を少しでも誤れば川に真っ逆さまである。
バックは無理だ! 進むしかない!
「もしかしたらこの先に、元の道路に復帰できる道があるかも」という期待を胸に車を走らせると突然身体が浮いた。
まさにジェットコースター! シートベルトをしているのに身体が浮くことがあるのかと思うくらいのデコボコ道。
対岸前方から走ってきたスクーターのお兄さんがこちらを見て笑っている。
向こう岸で散歩している老夫婦が「なにやってんの?」という顔でこちらを見ている。
―本当、なにやってるんでしょうね……
車体をジャンプさせながら前だけを見て進む。
進んでも進んでも川を渡れる橋は見当たらず、ここから抜け出す道も見つけられなかった。
「行き止まり……」
現実を受け止めきれず、頭が真っ白になった。
Uターンしたくても狭い一本道。進んでみた結果行き止まり。すぐ隣は川が流れていて、バランスを崩したら川に真っ逆さま。おまけに道は舗装されていないデコボコ道……
ヤバい……ヤバいヤバいヤバい!
「助けを! 誰か助けを呼ばなければ!」
スマホに手をかけようとして動きを止めた。
―助けを呼ばれた側も困るのでは?
それに、こんなことで助けを呼んだら自分の醜態がさらされて、世間の笑いものになるのは必至……
恥をさらすのは、スクーターのお兄さんと散歩中の老夫婦に留めておきたい。
―私はゆっくり深呼吸をして、静かに覚悟を決めた。
目の前の土地の状態を観察する。
頑張ればUターンできるかもしれない広さがある気がしてきた。川に向かって傾斜しているが、切り返しの方法によってはやれるかもしれない。
……怖いけど、勇気を振り絞れ! できる! 私ならできる! きっとやれる!
決勝戦の演技を前にした体操選手のように、目を閉じて自分ができるイメージを頭の中に思い描く。
何度も「できる!」と自分を鼓舞した後、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
人間、覚悟を決めればなんでもできるのかもしれない。
車を動かしているときの記憶は無かった。気がつくと私は車のUターンをやってのけていた。目頭が熱くなった。
その後、ジェットコースターのようなデコボコ道を引き返し、無事に元の道路に戻ることができたのである。
後で分かったことだが、ラーメン屋への道は「交差点を3つ過ぎたら左折」が正解だった。
地図が読めない方向音痴であるがゆえに、命の危機に晒されるなんてこの時まで考えもしなかった。
『方向音痴を治す有効なトレーニング法はまだ確立されていません』
地図アプリやカーナビが開発されて便利な世の中になった。しかし、それに頼りすぎると人間がもともと持っている『空間認知能力』や『方向感覚』は使われず、ゆくゆくは消滅してしまう懸念もあるそうだ。
現に私は、自分の『空間認知能力』や『方向感覚』を失いかけている。
災害が起きたら景色も変わるし、アプリやカーナビも当てにならないかもしれない。そんな時、どの方向に逃げたらいいのか判断できるだろうか……
自分の命を守るためにも『”極度の”方向音痴』から『方向音痴』くらいにしなければ!
私の狂った方位磁針を直すのは難しいかもしれないが、とりあえず雑誌の中の『方向音痴の対策』にあった、『曲がる順番と曲がり角の目印を覚えるように注意を払うこと』を意識してこれから生活してみようと思う。
***
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