ダイビングで見えたもの
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:飯髙裕子(ライティング・ゼミ2月コース)
私は、海が怖い。正確に言うと波が怖いのだ。
赤ちゃんの私を抱いた父が、波打ち際で笑っている写真。私はといえば、泣きそうな顔だ。
母の話では、初めて行った海で波しぶきを頭からたっぷりと浴び号泣したらしい。
これがトラウマになったんだと、私は信じている。
実際、泳ぎは苦手だし、海に入ると陸から離れるにしたがって、戻れなくなる不安で胸がドキドキしてくるのだ。
こんな私が、数年前から沖縄の海に潜っている。
事の始まりは、同窓会だった。
同窓会の行方不明者リストに載っていた私を、担任の先生への年賀状の住所から拾い上げてくれた幹事のおかげで、数十年ぶりの同窓会に出席した時のことだ。
長くダイビングをやっている友達に「一緒にやらない?」と誘われた。
海が怖くて苦手な私はそんなこと考えたこともなかった。
ところが、である。
友達から見せられた海の中の写真を見てこの景色を生で見たいという思いが沸き起こったのだ。
翌年の春、私は小さなダイビングショップのドアをたたいていた。
ダイビングをするには、装備がいる。
ウェットスーツに重いボンベ、目と鼻を覆うマスクにフィン(足ひれ)。陸上ではとてもじゃないが長時間たっているのもつらい。
プールでの最初の練習で、マスクを着けて呼吸をするためのレギュレーターをくわえると息苦しくて死にそうになった。水への恐怖も忘れて思わず水の中に顔をつけていた。
しかし、これが私の海への恐怖を軽減する武器だと分かったのは、水に潜った時だった。
水の中では、浮力でボンベの重さは感じないしその酸素のおかげで呼吸もできる。
マスクのおかげで目にも鼻にも水が入らないし、私の苦手な水は何ら影響を与えないのだ
無事にライセンスを取得した私は、その年の梅雨明けに沖縄へと向かったのだった。
沖縄の海は、潜るポイントまでボートで移動する。
ボンベを背負って歩くことがないのは、初心者の私にはありがたかった。
ポイントに停まったボートの下をのぞくと、深い青色が広がっている。水面を見ると少しドキドキした。
装備を付けてボートのヘリから後ろ向きに倒れるとボンベの重さで、否応なく、海の中に吸い込まれていく。
海底に降りてもっと深いところまで潜っていく。そこに見えたのは深い青とそこに生きている命。ただそれだけだった。自分の呼吸する音しか聞こえない。まるで宇宙のよう。まったく怖さはなかった。
母親の胎内にいた記憶があるのだろうか。とても静かな気持ちになっていくのを感じた。
海の中で、私は命のすばらしさと力強さを見せられた気がした。
海から上がった後に、私は今まで感じたことのない満足感と、喜びを感じていた。
なぜなんだろうと思った。ただ海がきれいだったとか、楽しかったという気持ちでは十分ではなかった。
それは、自分が作っていた壁を壊すことができたからではないのか。
得意なことや興味のあることは、とことん追求したいけれど、最初から苦手意識のあるものは、つい敬遠しがちになるのが今までの私だった。
そのもっとも大きなものが海だった。
たいして泳げないし水も怖い。そんな私が海に潜ることができたのは、立ちはだかる大きな壁に真正面からぶつかるのをやめて、方向を変えたからではないかと気が付いたのだ。
人は、生きていると、いろいろな壁にぶつかる。ほんの小さな壁もあれば到底乗り越えられないと思えるような大きな壁もある。
でも、その壁は実は自分が作り出した壁ではないのか。壁には隙間があったり、よく見ると高さにも差があったり、乗り越えなくても回り込むことができる道もあるはず。
無理に乗り越える必要はないんだよ。これは自分には無理。そう思ったらすべて終わってしまう。可能性は0なのか、もっといろんな方向を見てごらん。きっと道は見つかる。
そんな風に背中を押された気がした。
ダイビングを始めてから、私は少し変わったと思う。今まで自分がやりたいことを家族や忙しさを理由にやらずにいたのだが、そういうのはやめようと思ったのだ。
やりたいことはとりあえず、自分の中でやると決める。そうすると、何が必要でどうしたらいいのか、選択肢はたくさん出てくることに気が付いた。
一歩踏み出すことで状況はどんどん変わっていくこともわかった。
たくさんの方と出会い、不思議と自分がやりたい方向に進んでいく。
これからも壁を作ることはあるだろうけど、それは必ず、乗り越えられる。
そう信じている。
***
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