メディアグランプリ

一人で暮らすということ


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記事:飛鳥(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
最近、一人暮らしを始めた。
一人で行動することが好きなマイペースの私は、社会人になってお金が貯まったら絶対に一人暮らしをしようと心に決めていた。家族は嫌いではないし一緒にいて楽しいが、それ以上にソファーを一人で占拠できたり、家族に遠慮せず長風呂できる自由さに憧れた。
物件が決まったときには、子供の頃に自分だけの秘密基地を見つけたときのような、ワクワクした気持ちになったものである。
 
久々に会った祖母に実家を出ることを伝えると「もしかして結婚するの?」と聞かれた。残念なことにその予定はないし、彼氏すらいない。それどころか、人と住むのに向いていない気すらする。
一人暮らしで大変なことと言えば「自炊」だという声を聞くことが多い。私も実家にいるときは母がキッチンを自分の城のように守っていたため、料理をする機会はほとんどなかった。だが、短い期間であるものの留学していた頃に多少の自炊は経験していたため、一人で暮らすことに不安はなかった。
 
そんな私に試練はすぐに訪れた。引っ越し2日目にデスクが届いたときのことである。実家に住んでいた頃は、リモートワークをする私の仕事場は自室の勉強机。小学生のころから使っていた馴染みの机であるが、仕事で使っているゴツいPCにはちょっと似合わない。そんなわけで、この引っ越しを機にPCデスクを購入したのだ。
届いた荷物を前に、呆気にとられた。届いたのはデスクではなく、組み立てデスクキット。自分で組み立てる商品だったのである。
気を取り直したのもつかの間、段ボールを開き畳一枚ほどの大きさの天板が現れた時点で、私はそのまま段ボールを閉じた。これを一人で組み立てるなんてとても無理だ。
「彼氏もいないんだから可哀想でしょ」という理由で、後日実家から手伝いにきた母が手伝ってくれ、2時間近くかかってデスクはやっと完成した。余計なお世話だ、とは言えなかった。それどころか、私は重い天板を少し支えているだけで息が上がるほどで、ほとんど何の役にも立たなかった。「こういうのも主婦の仕事なのよ」と母は涼しい顔で言う。主婦はすごい。
 
仕事がリモートワークの私は、平日はゴミ出し以外でほとんど家から出ることがない。週末の数少ない外出のついでに大型スーパーで一週間分の食材を調達する。
一週間分の献立を考えながら、スーパーで買い物かごに食材を入れていく。なんだかやけに買うものが多い気がする。持参したエコバックには入り切らず、5円の大きめレジ袋を一緒に購入。両手に食材の入った袋を抱えて、家に帰る。この重さではまるで筋トレだ。食べるのは私一人のはずなのにこんなに食材が必要なのか。毎週そう思うのだけど、一週間経って次の週末を迎えるころにはいつも冷蔵庫はすっからかんなのだ。
 
家に帰ると、持っていたビニール袋の中から甘酸っぱい匂いがする。袋の中を覗くと、夜食用に購入したカットパインのパックから汁が漏れていた。他の食材のパックや袋もベトベトしている。やってしまった。どんくさい私はいつもこの調子だ。
個別に袋に入っていた食材は全て出し、パックごと冷蔵庫に入れる食材は軽く濡らした布巾で汁をふき取る。これで匂いはだいぶ収まった。たまたまカットパインをエコバックではなくレジ袋に入れていたのは不幸中の幸いだった。一人で暮らすって大変だ。
 
いい歳してこの有様では将来が不安だ。自分で作った鶏の照り焼きはみたらし団子かと思うほどに甘くて完食できなかったし、麺がふにゃふにゃになってしまった焼きそばは私の知っている焼きそばではなかった。
別に難しい料理を作っているわけではないのに、自分で作るご飯が美味しくない。「慣れれば料理も上達するよ」落ち込んでいると母に慰められたが、こんな状態で本当に上達するとは思えない。ひとまず鶏の照り焼きと焼きそばはトラウマなので当分は自分で作ることはないだろう。
 
だが不思議なことに、料理も買い物も洗濯も家具の組み立ても、「誰かにやってほしい」とは思わないのだ。やっぱり自分で食べたいものを作れる、好きなときに好きなだけ家事をできるという自由さが楽しい。
今ではデスクより大きい本棚やテレビ台も一人で組み立てられるようになったし、「これは美味しい」と思える料理を作れることも増えてきた。たまに料理の失敗をすることもあるが、友達に話して笑いの種にしている。ウーバーイーツは使わない。
 
一つ進歩して自分で出来ることが増えるたびに、思い出すのは母の顔。私の物心ついた頃には母は器用で、小さい私を抱えながら、不在がちな父に頼らずなんでも一人でこなしてしまう、頼れる存在だった。母は自分のことだけでなく小さい私の世話までしていたわけだから偉大だ。
自分はまだ「初心者の一人前」だけど、これから「本当の一人前」になることができるだろうか。そしていずれは母のような「偉大な一人前」になれるように、これからも精進を続けていくのだ。
 
 
 
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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