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運動オンチの私がマラソン大会に出て知った、究極の娯楽


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北見 綾乃(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
運動が得意か?
そう聞かれたら、0.001秒で食い気味にこう答える。
「いいえ」
小さい頃から、運動会や体育の授業については何一つとして、いい思い出がない。どれだけ運動オンチかということなら、軽く一晩語り尽くせる。悲しいことに。
 
鉄棒では、何と「まえまわり」からつまずいた。
かけっこをすれば、50mをまさかの10秒台。
持久走大会の前は風邪をひくことに全力を傾け、
バレーボールの得意技は顔面打ち。
前屈ですら床に手がつかない……。
運動偏差値を出したら、「これは体温ですか?」という数字がでてくるだろう。
 
でも、今になって、私は走るのが好きだ。
 
私が走り始めたのは今から10年ほど前、30代の終わり。何かに感化されて「死ぬ前にしたいコト」をリストアップしていた。100個くらいあげようと思っていたのに、20個くらいで早々にネタが尽きてきた。
仕方なく「富士山登頂」の横に、苦し紛れに「ホノルルマラソン完走」と書いた。その少し前、久しぶりに会った幼なじみが「ホノルルマラソンを6時間で完走したの!」と誇らしげに話してくれたのが頭に残っていたのだろう。
しかし、一旦書いてしまったら、不思議と本当に挑戦してみたいと思った。もしチャレンジするなら、少しは体の動ける今のうちから準備しなくては、永遠に死ねなくなってしまう! ということで急に走り始めた。それが発端だった。
 
最初は、私と同じコースを毎朝スタスタ歩く健脚おじいさんがライバルだった。こちらは軽快に走っているつもりが、歩いているはずのおじいさんをなかなか抜けない……。どういうこと!?
 
自己流でただ走っているだけでは上達しないかもしれないと、マラソン教則本を読み、元陸上部の友人たちに相談した。すると、多くが容赦なく「まずは10kmを60分で完走することを目指しましょう」などと平気で言ってくる。どうやら初心者が始めの一歩としてかかげる目標レベルらしい。試しに、自分がどれ位のペースで走っているか、近所の3kmコースを走ってみた。すると23分。1kmあたり8分近くもかかっている計算になる。
 
3分の1に満たない距離で1kmあたり8分もかかっているのに、10kmを60分だと……!? ガクゼンとした。読んでいた本を思わず床に投げつけたくなる。
いや待て。ホノルルマラソンには制限時間がないのだ。決して速くなくとも、42kmという長さが走りきれればいい。まずは気にせず、マイペースに行くことに決めた。
 
3か月くらい経ってようやく成長の手ごたえのようなものを感じてきた。今まで苦しかったペースが、知らないうちに出ていることに気付く。そうなると、トレーニングにも力が入ってくる。
 
心肺に負荷をかけて、速く走れるためのスピード練習もやり始めた。高校時代は帰宅部で青春を置き去りにしてきた私だが、 気分は“一人陸上部ごっこ”だ。スピード練習に出かけるときは、その苦しさを思って憂鬱で足が重かったが、「せめて人並みに走れるようになりたい」という思いが強いモチベーションとなり、何とかキツい練習も踏ん張ることができた。
 
半年が経つ頃、なんと当初無理だと思っていた“10kmを60分以内で走る”こともできるようになっていた。ランニングは結果が明確に数字になって表れる。今までこんなにダイレクトに成長が見えるものがあっただろうか! 運動から遠ざかっていたインドア派の人間だからこそ、余計に感じたのかもしれない。
 
そして、意を決し、フルマラソンの大会に参加登録をした。私が走り始めた日から約1年後に開催されるという大会だ。当初の目的だったホノルルマラソンは、行くまでの金額的ハードルが高すぎたため、ひとまず当日に家から行くことができる茨城県の大会を選んだ。いよいよフルマラソンに挑戦だ。それから毎週末、何時間とかけてせっせと20kmや30kmという長い距離を走った。
 
しかし、大会まで2日だというとき、無情にも熱が出た。頭も痛い。数年ぶりの急な体調不良だった。
1年間、この日のために頑張ってきたようなものなのに、もしかしたら出られないかもしれない。よりによってこんなタイミングで……。あまりにくやしくて、風呂場でも布団の中でも子供のようにボロボロ泣いた。それにしても、悔し涙なんて、何十年ぶりだろうか。私にもこんな熱い気持ちが残っているということに驚きもした。
 
一度はあきらめかけた大会出場だったが、前日寝て過ごしたことで、当日は奇跡的に元気になり、無事スタートラインに立つことができた。その日は冷たい雨が降っていたが、スタート前には1万人以上のランナーが一斉に集まって熱気にあふれていた。さあ、この運動オンチの私がフルマラソンを走る!
 
「もうすぐスタートだね。でも、そこは本当のスタートラインじゃない。マラソンを走ろうと決めた日、走り始めた日が真のスタートだよ。この日のために、もう千キロ以上走ってきて、残りはたったの42km! もうほんの少し。楽しんで」
直前に友人がくれたメッセージをお守りに、私は大会のスタートを切った。
 
半分まではあっという間だった。順調に走っていたが、それまで走ったことのない距離、32km過ぎのあたりでペースを保つことが難しくなってきた。今まで感じたことのないしんどさ。あと10km……。なのに、1km、1kmが果てしなく長く感じる。正直辛い。辛すぎる。なんでお金を払って、時間をかけて、私はこんなことをしているんだろう? でも、友人のメッセージとこれまでの練習が私を何とか支えてくれた。あれだけ頑張ってきたのだ。とにかく足を交互に動かしていればいつかゴールはやって来る。
 
やがてゴールが見えてきた。最後の力を振り絞って、ゴールゲートをくぐり抜けた。
ボランティアスタッフの方々から口々に「おめでとうございます」と声をかけていただき、体の芯からじわじわと喜びが広がっていった。よかった、私、走り切れたんだ。
タイムは4時間13分。1kmあたり6分のペースで走りきったことになる。最初10kmですら無理と思ったペース。自分としてはでき過ぎの結果だ。素直に誇らしい気持になった。
 
普段は仕事でも、勉強でも、労力を最小限に、成果を最大にする“効率化”をひたすら求めていた。それはもちろんある意味正しい行動だ。しかし、アスリートでもないのに、数ある効率的な交通手段を一切無視し、自分の脚だけで無謀ともいえそうな距離を走るマラソンというものにチャレンジしたことで、私は初めて知った。
 
努力っていうのは、究極の“娯楽”なのかもしれない。
 
それまでの私は、どちらかというと努力なんてものはただつらいだけの、するだけ損なものと思っていた。それを乗り越えた先にこんな喜びの世界が待っていたなんて。もし私が難なく42kmを走れたとして、あの風呂場での悔し泣きも、ゴール後の感動も無かっただろう。
 
帰り道、大会の中であんなに辛い、もうやめたいと思っていたのに、すぐ次の大会を探している自分がいた。また、次のゴールを求めて。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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