ゴスロリ系女子と理系男子の攻防
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記事:山本三景(ライティング・ゼミ12月コース)
のどかな午後のカフェ。
私は紅茶を飲みながら雑誌のページをめくる。
なんて幸せなんだろう。
しかし、そんな穏やかな午後を終わらす、不穏な足音が確実に近づいていた。
まだ、SNSがそんなに発展していない頃だったので、たとえ食べログで点数が高いお店だからといっても、いつも混んでいるわけではなく、穴場的なお店が結構存在していた。
その日訪れたカフェは、通路をはさんで禁煙席と喫煙席が分断されていた。
夜になると喫煙席でタバコを吸う客が増えるが、昼間は喫煙席であってもタバコを吸う客はそんなに多くなかった。
私は奥の禁煙席に座った。
喫煙席の様子もよくみえる席だった。
喫煙席に一人、大学生ぐらいの眼鏡をかけた男子が座っている。
薄いストライプのシャツの上にネイビーのVネックセーターを重ね着したクールそうな彼を、私は勝手に「理系男子」と名付けた。
店内の客は私たち二人だけだった。
「いらっしゃいませ」
10代ぐらいの女の子が二人、店内に入ってきた。
服装は全体的に黒色で統一。
白のフリルが付いた大きな襟。
ウエストがキュッとみえる黒のビスチェ。
ポワンとした形のボリュームのある黒のスカート。
スカートにボリューム感を出すため、白のパニエを中にはいている。
そして、頭には黒のリボンが付いたヘッドアクセがついている。
二度見せずにはいられない。
フランス人形ですか? と言いたくなるようなフォルム。
そう、これはゴシック・アンド・ロリータといわれるファッション。
完璧な小悪魔的ゴスロリ系女子が降臨した。
彼女たちは入り口から理系男子の横を通り過ぎ、そして私の横を通って禁煙席の一番後ろの席についた。
しばくすると、後ろからなにやらゴニョゴニョと聞こえてくる。
(なんか言ってる)
そう思いながらも私は紅茶を飲み終え、帰ろうと思っていたその時だった。
カッ、カッ、カッ
ヒールの足音が近づいてくる。
そして、後ろのゴスロリ系女子二人が私の横を通り過ぎて喫煙席へ向かった。
嫌な予感がした。
彼女たちは理系男子の横で止まった。
そして、一人の女子が言った。
「私たちのこと撮ったでしょ! 知ってるんだからね!」
穏やかな午後の空気は一変した。
彼女が言うには、理系男子が自分たちの写真を盗撮したと……
写真を撮られ慣れている彼女たちは、写真を撮られることに敏感なのだろう。
きっと嫌な思いをしたこともあるのかもしれない。
ただ、彼の迷惑そうな表情をみて、彼は彼女たちに興味がないと私は思った。
彼は淡々と
「撮ってないですよ」
と、すごく嫌そうな顔をして言った。
表情が「勘弁してくれ」と言っている。
しかし、彼女たちはまくしたてる。
「絶対撮ったって!」
そして、彼が否定する。
「いや、だからあなたたちを撮ってないですって」
しばらくこの押し問答が続いた。
私は帰りたかったが、緊張感で席を立つことができない。
しかし、彼女たちは熱い。
それに反して彼は冷静だった。
彼女たちは「絶対撮ったもん!」を言い続ける。
(ああ、それは弱いよ……)
攻めているのは彼女たちなのに、詰められている気がして胸が痛い。
「絶対」という言葉はあくまで彼女たちがそう思っただけであって、「たぶん」「おそらく」という推測の域を出ていない。
相手を説得させるには感情だけでは難しい。
しかし、理系男子も腹が立ってキレそうなものだが、嫌な顔はしているものの、ずっと敬語で話していた。
そしてようやく次の展開。
データを消すように彼女たちは要求した。
「別にいいですよ」
どうやら理系男子は落ち着いた店内とナポリタンの写真を撮っていたらしい。
そして、それについては誤解させてしまったのなら申し訳ないと謝った。
「消しましたよ」
彼は言った。
なんだか彼女たちは不完全燃焼のような感じになり、感情の行き場をなくしているように思えた。
ここで、店員さんが登場し、理系男子に写真について注意をして一応丸くおさまった。
ここまで見届けて、私は会計をして店を後にした。
「あなたもみてましたよね!」
なんて巻き込まれたらどうしようと、店内で息をひそめていたため、久しぶりに空気を吸った気分だった。
あのやり取りをきいていると、彼女たちが不利に思えた。
しかし、彼女たちは終始強かった。
「だって絶対そうだもん!」
根拠のない自信という武器ひとつで挑んでいった。
私だと、言葉の最後が自信なさげに終わるだろう。
「だって、そう思ったから……」と後ろは濁してゴニョゴニョしてしまう。
彼女たちの「撮られた」と感じたことに嘘はなかった。
そこから先、「なぜそう思ったか」を突き詰めていき、不快に思ったことを説明することができたのなら、誤解される原因を作ってしまったことを、もっと早く彼は謝ったかもしれない。
そっちのほうが不完全燃焼にはならなかった気がする。
ただ一つ、腑に落ちないことがある。
彼と彼女たちの間には「私」という障害物があった。
彼女たちは、「私」を通り越して彼が彼女たちを撮ったと思ったのか?
もしかしたら私は息をひそめなくても空気だったのかもしれない。
***
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