あの時、私はあの花の写真に希望をもらった
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記事:大越桂(ライティング・ゼミ12月コース)
ご近所さんとの立ち話で、
「花に興味をもった時が、自分の花が終わったときらしいよ!」
という言葉に正直ドキッとした。
家の中から公園の桜と庭先の春の花を愛でていた時に言われた一言だった。
昨日、コンビニで四季の雑草図鑑を買ってしまった自分を後悔した。
もう私の花は終わったのかもしれないと自分の顔がちょっとひきつるのがわかった。
抗いたくないが、人生100年とすればもう人生の半分は生きた。今自分に花があるかと言われれば、残念ながらない。いつでも現役! なんてそんなパワーもない。
人生にあと何回かのチャレンジと、人の役にたてればいいかくらいの欲しかない。
もう充分好きに生きてきて更に自分の欲を満たすのは欲張りだろうとさえ思っていた。
小さい頃から、家の庭はいつも沢山の木と花でいっぱいだった。おばあちゃんは朝から晩まで土いじりをして庭と温室でお花を育てていた。だから、花なんて当たり前に周りに咲いていたし、よくよく観察しなくともそこにあるものだと思っていた。ご近所の人に、これは何の花? 何の木? と聞かれても私は何ひとつ答えられなかった。でも何の問題もなかった。
「おばあちゃん、呼んできます!」
といえばよかったから……。
それが、今はもうおばあちゃんはいない。
その後に庭の手入れをしていた父もいなくなった。
「このお花の名前はなあに?」
「この木、なんていう木だっけ?」
と、大人になってからも通りがかりの人に聞かれて何も答えられないのはさすがに恥ずかしくなった。なので、少しずつではあるが、庭を散歩して庭木や花の名前を覚えるようになった。
花より団子だった自分が、花も団子も好きになるとは思わなかった。
ましてや花を嬉々として人に贈ることになるなんて想像もできなかった。
花をプレゼントする時なんて、「あ~、私は大人になったんだなぁ」と感じるものだった。
人にプレゼントするのは食べ物や使ってしまって残らない消えものがいい。
歳をとって自分の好みがだんだんと固まってきた時に、他人にあわないものを贈るのは失礼になることもある。下手をすれば大きなゴミになりかねない。
それより、食べ物やお花、お酒など短時間でなくなるものの方が相手に負担になることもない。その中でも男性や女性を問わずお花をあげるのはなかなかの楽しみでもある。大人だからこそのサラッとできる贈り物なのである。
好きな花屋さんとのおつきあいで、贈る相手のことをおしゃべりしながらその人にあう花束を作ってもらう。私の方もどんな雰囲気に作ってくれるかが楽しみだし、花を渡した瞬間が好きなのだ。人が花束を抱えている姿を嫌いな人などいないだろう。
想像するだけで、うれしくなる。
子供の時には、大人になったら花や庭木を好きになるなんて思ってもみなかった。
私はその周りを元気に走りまわる子供でしかなかった。
花をもらったり、あげたりすることが嬉しく思えるようになったのは、大人になって歳を重ねたからに他ならない。
若いうちは、動いているものが好きだという。
そして、歳をとると動きの少ない静かなものを好んでいくという。
忙しい仕事生活の中で、たまに旅行して山や川や海などの自然にふれてゆっくりとした時間をすごすことは、ストレスを解消し自分のバランスをとるのに必要だった。
年齢とともに忙しさで時間に追われることにも落ち着き、植物や周囲のものをゆっくり眺めて面白いと感じられることは自然のなりゆきだったのかもしれない。
花はいつか枯れて落ちる。人の若さもいつかは終わる。
私にとってそれは儚くせつなくはあるが、諸行無常なのだと年をとって知ったのだ。
だから焦らずともゆっくりとものが見られるようになったのだ。自分がどんな花であれ、最期まで背筋を伸ばして枯れていきたいと。
数年前、青山の骨董通りまで足を延ばして田島一成さんの「WITHERED FLOWERS」という展覧会を見に行った。
ネットで紹介記事をみて自分にはそれを見る事が必要な気がして美容室の帰りに訪れたのだった。
枯れていく花の瞬間や、霧をふいたその瞬間の美しさを切り取った写真は、唯一無二のもので二度と同じ写真をとることはできないだろう。そして、それは田島一成さんならではのアートだった。
ただ、被写体をそのまま撮るだけではなく、その姿に水や光や色を加えることでさらに美しいものへと変化させていった。
花はありのままがいいと思っていた。そして枯れた花にはそのままの美しさがあると思っていた。
でもそこに手を加えることによって枯れた花が一気に美しく蘇った。それが私にとってはとても美しいと感じられたし、なぜか勇気をもらえた。それは作られたもので、人工的なショットなのかもしれないが、切り取られた瞬間は紛れもなく美しいと感じさせられた花だった。
歳を重ねていくにつれて、自分を変化させるのはメイクなのかお洋服なのか、あるいは色恋なのか自信をもてる考え方なのかはわからない。でも何かしらの希望を私はその花の写真からもらえた気がした。
昔、おばあちゃんに、なんでお花が好きなの? と聞いた時の答えを思い出した。
「花は裏切んね~」と。
それは、沢山の人に嫌な思いをさせられた悲しさからきた言葉というよりも、手間暇かけて育てたものが綺麗な花を咲かせてくれることに対する安心にも似た気持ちだったと思う。
私は、自分の花が終わったことを案じていたはずが、やはり最期まで自分を尽くして誰かを安心させる花になれたらと思いなおした。
***
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