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パクパク金魚を救い出せ!

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤田朋伽(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「お母さん、金魚買いたい! 金魚がほしいの」
「飼ってもすぐに死んじゃうよ。やめておきなさい」
「いやいや、飼いたい」
 
わがままが通り金魚が家にきたのは
私が小学生の時だ。
 
前に飼っていためだかの水槽に水草と金魚をうつした。
とてもかわいい赤い金魚で、毎朝エサをやりながら
眺めていた。
 
ところが家にきて、数日で金魚は
水中で口をパクパクするようになった。
それでもエサを食べるし元気に泳いでいるから
あまり気にしなかった。
 
それから少したったある日、水槽を覗いたら、
金魚が白いお腹を上にして浮かんでいた。
全く動かない。
私は、泣きながら家の庭に穴を掘って
金魚のお墓を作ったのだ。
 
「ほらね。金魚は水が合わない場所にくるとすぐに弱っちゃうのよ。
水槽で口をパクパクしだしたらもう弱っている証拠なの」
 
数日前、金魚が水中でパクパクしていたことを伝えると
母はこう言った。
 
弱っていたと知っていたら
何か出来たかもしれないのに……心の中でそう悔やんだ。
 
 
それから何年か経って、
あの時のパクパクしていた金魚のようになったのは自分だった。
苦しくて苦しくて。
息が出来ない。
でもここから抜け出せる気はしない。
それは私が新卒で入った会社で感じたことだ。
 
 
システムエンジニア、いわゆるSEは、
私が新卒で就職活動をしていた時代には求人も多く
給料も高く、なんとなく、やりたいことがなかった私は
採用され、そのまま入社したのだ。
 
確かに給料はよかった。
教育もしっかりしてくれた。
しかし、息がしにくい、そんな風に思ってしまうような
雰囲気の職場だった。
 
まだパワハラなんて言葉がない時代。
常に誰かが上司に怒鳴られていた。
見せしめのように前に呼び出され怒鳴られる。
もちろん誰も助けない。
 
残業も多かった。
朝9時の始業に対して、会社を出るのは23時。
その後飲みに連れて行かれることも多く、
結局帰宅は3時近く。
 
トラブルがある時は徹夜で対応し、シャワーだけ浴びに
家にかえってまた会社に行く……そんな生活だった。
 
疲労と睡眠不足の中で怒鳴られていると
自分の存在価値がどんどん下がっていく。
私はなんて出来ない社員なんだろう。
ダメな人間なんだろう。
ダメだからもっと頑張らなくては。
 
 
辞めたいと思うこともあったが、
それでも、折角入った会社だから。
せめて5年はがんばらなきゃ。
家を出て一人暮らしをしてすぐには戻れない。
なんだかんだ給料はいい。
自分の中からいろんな声が聞こえて辞めることもできなかった。
 
どんどん息ができなくなる。
苦しい。
 
そんな金魚のような私を水槽から出してくれたのは
親友だった。
 
胃潰瘍になって、どんどん痩せていった私に
高校時代の親友は会社を辞めるように言ってくれた。
 
最初は何も分かっていないくせにと思って
聞き流していたが、何度も説得される中で
 
「今の姿は普通じゃないよ。
仕事なんていくらでもあるんだから辞めてもいいんだよ。
あなたはダメじゃない。大丈夫」
 
こう言ってくれたのだ。
 
もっと色々と言ってくれたがこの
「大丈夫だよ」にとても安心することができた。
 
「辞めてもいいんだ」
「私はダメじゃないんだ」
ホッとした気持ちとそれでも不安な気持ちが
入り混じっていたがこの言葉で、
私は水槽から抜け出すことを決意できた。
そして数か月後に会社を辞めて実家に帰った。
 
その後は改めて自分のやりたいことを考えて
就職活動をし、無事に自分がやりたいと思える仕事をしながらも
パワハラセクハラがない環境にうつることができたのだ。
 
前の会社で続けていた同期は、8割がうつ病になっていた。
長期休業を取らざる得ない人も多かった。
 
 
金魚は苦しくて口をパクパクさせながらも
水槽を自らの意思で出ることができないのだ。
苦しい状況に慣れてしまう。
そして動けなくなる。
苦しさを感じていることにすら罪悪感を
感じるようになっていく。
 
そしてじわりじわりと心と身体が病んでいく。
 
だからこそ、私も親友のように
少しでも心や体が蝕まれている、
そんな予兆がある人がいたら
声を掛けたいと思っている。
 
現代社会では、水のあわない水槽の中にいる人が
たくさんいる。
 
そしてその多くは自分から声をあげられない。
自分からそこを動くことができない。
 
そこから動き出すには多くの場合
周りの人の助けが必要だ。
 
だから私はどんな小さな違和感でも、
それをキャッチしたら声をかけ対と思う。
 
人の領域にそんなに簡単に入れないとか
声をかけて勘違いだったら恥ずかしいとか
むしろ迷惑がられると思ってしまう気持ちも正直ある。
 
でも勘違いだったらそれでいいのだ。
それがわかれば笑顔で
「勘違いでよかった」
と言えばいい。
 
違和感を飲み込まずに、口に出していこう。
もう金魚のパクパクを見逃して悔やむことはしたくない。
 
もしあなたの周りにもパクパク金魚がいたら
気にかけて欲しい。
 
面倒くさがられるかもしれない。
余計なお世話と言われるかもしれない。
 
でも金魚が白いお腹を上にして浮かんでしまってからでは遅いのだ。
それは最終的にあなた自身の気持ちを救うことにも繋がるのだと思う。
 
さぁ、パクパク金魚を救い出せ!
 
 
 
 
***
 
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2022-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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