お電話ありがとうございます
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:和田 理惠子(ライティング・ゼミ2月コース)
「大変お待たせいたしました。お電話ありがとうございます。お客様相談センターでございます」
センターの開始時間直後、一斉に電話が鳴りはじめる。
お客様相談センターとは、メーカーや販売店などと購入者をつなぐ、お問合せを受け付けるコールセンター窓口だ。
「そちらに○○さんってお人、おらんね?」
お電話を取った第一声が相当頭に来ているお客様のの声だ。
電話をかけて、音声ガイダンスの無機質な声を聴き、ようやくつながった電話。
イライラして、お客様のボルテージは最高潮での入電だ。
「申し訳ございません。大勢の対応者がおりますので、よろしければ本日はわたくしがお伺いいたします。恐れ入りますがお客様の情報をお伺いできますでしょうか?」
あまり、お待たせできないがお客様の情報を確認しないことには、話ができない。
「あー、何度もそっちには電話かけとるけん。そげん、せからしいこといわんでよか。○○さんに代わってくれりゃあええっちゅう言っちょる」
お客様―、そうは言われましても、お客様がどなたで、今まで何度もご連絡いただいているような口ぶりでお話しされているところを考えると、きちんと確認しないと話が進まないんです。まずいですー! 第一、オペレーターが大勢いるので、どこの拠点か、何を案内しているのかわからないと、適切なご案内が出来ないんです―!
心の中で必死にお客様へ叫びつつ、努めて冷静に話しかける。
「それでは、本日のお問合せの内容を先にお伺いさせていただきます」
「こないだ話しちょった○○って人は、おらんとね? リモコンのスイッチ押してもうんともすんとも言わんで、○○って人が電池の向きがさかさまだから入らないって怒りよった。わしは○○って人が言うから、新しい電池ば買うてきたけん、なんで怒られなかいけんと?」
どうやら、お客様は地方の方で、こちらのオペレーターに何かを標準語で言われて、カチンときたのだろう。
もしかしたら、オペレーターがお客様の方言が分からなかったのかもしれない。言い回し一つでお客様の気分は変わる。
「それは、大変申し訳ございませんでした。○○という者がお客様のご気分を害してしまったということでございますね。わたくしからお詫び申し上げます。大変失礼いたしました」
「あんた、名前なんて言いよる? 何回もお宅にで電話したけん、そのたんび出るお人が違うけん。いい加減覚えられないっと」
「わたくしは和田と申します」
「ああ、和田さん言うっちゃ。うちの近所にも和田っておるよ」
「さようでございますか」
和田なんて名前は日本全国に居る。お客様が、近所の和田さんについて話し始めないとも限らない……なかなか話が進まないが、ここはじっくり構えていったほうが良さそうと判断した。傾聴の姿勢に徹する。
「あんた、わしが買うたものが壊れたんじゃ。どうしても動かなくって困ってるけん。どげんしよればよかと?」
ようやく、第一段階突破。お客様の口からお困りごとが出てくれば、今の段階ではとりあえず信頼してもらえたようだ。
「それでは、お客様がお求めになったお品物のご案内を差し上げたいのですが、やはりお客様の情報をお伺いしてからでないと、詳しいご案内が出来かねてしまいます。恐れ入りますが、お伺いできますでしょうか」
お伺いした情報で、なんとか今までの経緯を記した履歴を確認できた。
どの履歴にも『温度感高め』と記載されている。温度感高めとは、クレームに発展したりその手前でもかなりお怒りになっている様子を指す。どうやら、方言で話すお客様とオペレーターがかみ合わず、お客様がキレてしまったようだ。
ご年配のお客様や、北や南の方言の強い地域の方々とお話しすると、全く何を言っているのかわからず、ひたすら困惑してしまうことがある。言い回しを変えて何度も聞き直すうちに、ドカンとキレてしまう。それはそうだろう。自分は普段しゃべっている言葉で話しているのに理解してもらえないなんて悲しすぎる。でもこちらも対応するからには、お伺いしないとならないこともあるのだ。恐れ入りますがキレないでください……。
余談だが、自分の言い分が通らないとキレてしまわれるお客様もいる。あろうことか、消費者センターに訴えるとまで言い出す方も。伝家の宝刀をふりかざすといったところか。
商品をご購入いただく側ではあるが、決まりごとに則ってご案内する。
例えば返品したいという場合、ご購入の際、返品規定を必ずお伝えする。にもかかわらず、返品したい、でも返品規定は守らない。こっちは金払って買ってやったと言わんばかり。返品受付しないなら、消費者センターへ言う。
言っていただくのはあまりよろしくはないけれど。でもそれはお客様の判断にお任せするが、自分の言い分が通らないからって、こちらの対応が悪いというクレーム。そんなことをいちいち言ったところで消費者センターも忙しいのだ。
ことばは悪いが小学生が、「そんなことすると先生に言いつけるからねー」って言っているようなものだろう。言いつけられた先生に、「それは違うでしょう」と諭されるのと同じく、消費者センターも相手にはしないと思うが。
「お客様、この度は□□製品をご購入いただきありがとうございました。そこで、動かないというお話しでした。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。電池も新しいものとお取替え下さったのですね。お手数をおかけしました」
「あんた、わしが言うてること分かると? 前のお人は、何度も聞き返すもんだからせからしいって思うちょった。ほんで、どうすればよか?」
製品の取扱説明書を確認し、使い方を案内する。
お客様が取扱説明書を読めば、案外簡単なことだってお判りいただけるような案件だった。
仕事柄も含めて私は取扱説明書が好きだ。企業が、製品を作って便利に或いは、快適に安全に使用できるように記載しているのが取扱説明書だ。いわば企業から購入者へのお手紙なのではないかと思っている。
こうすれば使えるよ。こんな機能があるからぜひ使ってみてね。ここをいじっちゃうと危ないよ……。
細かく小さな文字でびっしりと書かれた、取扱説明書を読まない方も大勢いる。とくにこのお客様はご年配の方だ。そんな細かい文字を読むのは嫌だと思ったんだろう。
取扱説明書に記載された、大事なところを抜粋してお伝えし、メモを取っていただく。
「分かりやすう教えてくれてありがと。こんな簡単なことやったと。えろう時間かけてすんませんな」
「こちらこそお時間をいただき申し訳ございません。またなにかありましたらお気軽にお問合わせをお待ちしております」
ご納得いただけてなによりだ。
終話し対応履歴を記入する。そこまでが一連の流れだ。
そして次の電話が鳴る。
「大変お待たせいたしました。お電話ありがとうございます。お客様相談センターでございます」
***
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