人目を気にしすぎる私が、視線から解放された日の話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:園田 美穂(ライティング・ライブ福岡会場)
気になる。気になる。気になる。
どうしても気になる。
「気にしすぎ」
そう言われたって、気になるんだ。
私はとにかく昔から『人の目が気になる』それも病的に、だ。その病は、学生時代に発症した。
中学生。人への意識が強まる多感な時期。私の学校では、男女で机を向かい合わせた数人の班で昼食をとることが決まりだった。その並びはもう最悪だ。全員に食べ方を見られている。気がする。そんな気がしているという、痛すぎる自意識過剰を炸裂させているだけなのだが、そのせいで食べ物が喉を通らない。正確には箸を持つ手が小刻みに震え、口まで運べないというなんともおかしな光景だ。結局残した弁当は持ち帰り、母にはダイエット中だとごまかした。
大人になってもこの人目は、私をつきまとった。
真夏の出勤ラッシュ。人をかき分けながら電車に乗り込み、自分のポジションを確保する。走って乗り込んだせいもあり、だらだら汗が流れ落ちた。よく効いた空調のお陰で少しずつその汗はひいていくが、ふと、こんなことが脳裏をよぎった。
『あれ、今日のTシャツって汗結構分かるタイプのやつだったような。まって。もしかして今、背中に汗染み浮かんでる感じ? 後ろの人見てるよな。絶対見てるよな』
そう思った途端、毛穴からじわじわ汗が出始める。この人目というものは、汗をもコントロールしてしまうのだ。この話しを友人にすると、
「えー! 気にし過ぎでしょ。人は自分が思ってる程見てないって」
そう笑って返すこの人は、相当たくましい。一人でランチに行く場所は、女子が入りやすそうな難易度低めのカフェではなく、サラリーマンでぎゅうぎゅうに埋めつくされた回転率のいい定食屋だ。そのたくましい姿はランチだけにとどまらず、一人居酒屋もやってのける。カウンターに座り、まずは飲み物を注文する。頼んだのは可愛らしいカクテルではなく、キンキンに冷えたメガジョッキビールだ。たくましい。なんてたくましいんだ。もうそのたくましさで、草食男子を噛みちぎりそうだ。
私にとってひとり外食とは、透明のガラス張りの家に住んでいるようなものだ。『あーカツ丼食べたい。いやでも、カツ丼がっつくところ見られたくないな。ハンバーグにしとくか』周囲の視線を意識した料理を選び、食べ方にも気を遣う。少し遠くで会話をしている女性の、ちらっとこちらを見て笑うその瞬間さえ気になってしょうがない。そうやって食べる料理は、ほぼ味わえないまま終了する。
そんなこともあってひとり外食を避けて生きてきたが、どうしても通らなければならない状況に陥ったことがあった。それは仕事で一ヶ月間の研修を命じられ、一人で県外に行った時の話。
「ホテルの周辺繁華街だから、食べるものには困らないと思うよ」
そう社長に言われたが、私の問題はそこではない。もちろん繁華街に足を踏み入れることはなく、近くのコンビニで食べ物を調達していた。そんな生活を3週間ほど続けたある日、通い慣れた道を歩いていると風に乗ったいい香りが私の鼻をかすめた。
『カレーだ。どこからだろう』
その匂いに導かれるように歩いていくと、そこにはレンガ造りのカフェがあった。前に出ていた看板の写真を見ると、四角にかたどられた白ご飯の隣に、控えめな量のカレールーがかかっている。このお洒落なつくりのカレーを見る限り、ここに来ているのはSNS系女子だと推測される。あー無理だ。非常に無理だ。カレーは食べたいが、そのキラキラに飛び込むのは自殺行為だ。
食べられないことがわかった途端、執着心が私の中を支配した。口の中も受け入れ態勢が完璧に整っている。もうこうなったら、選択肢は『カレー』この一択だ。
はやる気持ちを抑えながら、入りやすそうなカレー屋を探した。駅前にある店はカレーで有名との噂だが、人が多過ぎて即却下。次の店は、スーツ男子に埋め尽くされていて却下。その次は、店内見えずに恐怖心で却下。
そして行き着いたのは、年代を感じる喫茶店。看板には手書きで書かれた『カツカレー』の文字が。
『ここなら入れるかも』
ふーっと深呼吸をして、店のドアをゆっくり開けた。
「いらっしゃいませ〜。お一人様ですか?」
そう、今日は見ての通りのお一人様だ。『いえ、後からもう一人きます』の(あ、私一人じゃないですよ)アピールはできないのだ。
「はい、一人です」
ここを突破さえすれば、第一ミッションクリアだ。店の奥に通されて、やっと席に座ることが出来た。そして次のミッションは注文だ。今日は可愛らしいサンドイッチを頼もうとしているのではない。ごつごつモリモリ、カツカレーだ。その可愛らしさのかけらもないカツカレーを、どうしても食したい。お冷を持った店員がこちらに向かって歩いてくる。うるさく響く鼓動を抑えながら私は注文を決意し、大きく息を吸った。
「お客様〜、お連れ様が揃われてからご注文されますか?」
なぁぁぁぁぁーーーーーーにぃぃぃぃぃーーーーー! ? ! ?
さっき一人って言いましたよね? 声は小さかったかもしれないけど「はい、一人です」って間違えなく言いましたよね? 倒れたはずの敵が、背後から襲いかかるのは出来ればなしでお願いしますね? ? ?
「あ、あの。一人です」
「あ! お一人様ですね。大変失礼致しました」
なんだか笑いが出てきた。もう別にいいじゃん。見られようよ。見られてしまおう。どうぞ私をご覧くださいませ!
「注文いいですか? このカツカレーで。はいそうです。この、ごつごつモリモリカツカレーで」
人生諦めも肝心だ。そう思った途端、なんだかどうでもよくなった。そしてよくわからないしがらみからも解放された気がした。
「お待たせしました。カツカレーです」
ごつごつモリモリカツカレーは、今までのどのカレーよりも美味しく頂けた。
***
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