メディアグランプリ

日比谷線のホームにジャングル・クルーズに船が滑り込みそうになった話


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記事:佐藤 みー作(ライティングゼミNEO)
 
 
テレワークと出社、どちらが自分には良いのか?
テレワークがメインで出社は出張扱いとするなんていう企業のニュースを目にする。
コロナ感染が収まりつつある今日この頃、単なるメディア上の話題ではなく、自分ごとの問題とし考えている。
 
その日も、テレワークと出社のメリットとデメリットを頭の中でリストアップしながら、有楽町で有楽町線を降り、日比谷へ向かい、日比谷線に乗り換える。
乗り換えの改札口を通り抜け、階段を降り、六本木行きの2番線ホームに降り立つ。
 
「まもなく、2番線に~」
 
その声に、思わず胸がはっとし、頭を上げ、ホームを見渡す。
「あの駅員さんだ!」
 
その駅員さんは見た目はごくごく普通の駅員さんである。
普通過ぎて、一度見たら必ず忘れるぐらいの見た目である。
しかし、彼の電車の接近放送は一度聴いたら忘れられない。
しかも、いつも会えるわけではないし、決まった日時に会えるわけでもない。
2、3か月に1度あるかないか、忘れた頃にいつも偶然遭遇する。
 
その駅員さんは、マイクのグリップを親指と人差し指と中指で握り、薬指と小指をグリップの下にくぐらせている。
ややくせの強いマイクの握り方は、彼がただ者ではないことを現わしてしているかのようだ。
 
そして、発せられる声。
その駅員さんが万が一、「次は中森明菜さんで、北ウィングです!」と言って、ホーム先頭にある階段から中森明菜が下りてきて、夜のヒットパレードがいきなり始まってもなんの違和感がない。
 
その駅員さんが万が一、”Ladies and Gentlemen, please welcome~“といきなりどこかの国の美女を紹介して、その美女がホームの後方にある階段からきらびやかなドレスを揺らしながら優雅に降りてきても全く驚かない。
 
それくらい、その駅員さんのお声はものすごく良いのである。
 
「2番線に六本木行きが10両編成で到着いたしまぁあぁす!黄色いブロックの内側でお待ちくださぁあぁい!」
 
そして、しゃべり方。
抑揚たっぷりで、語尾が強調されたアナウンスは、所謂、抑揚のない駅のアナウンスとは真逆である。
特に低音の深みが身体に響く。
 
日本語のアナウンスに続き、その駅員さんは英語のアナウンスを続けた。
 
“The local train departing at 8:45 bound for Roppongi will be leaving from track 2. Please stand behind the yellow warning blocks.”
 
破裂音の発音が素晴らしい。
まるで、カタカナの右肩の上についた小さな破裂音の記号が彼の口から勢いよく飛び出して、宙を舞うようである。
低音の響きも抜群である。
 
そう、それはまるで、ディズニーランドの館内アナウンスのよう……。
といつものように酔いしれていると、気付けば、日比谷線の日比谷駅のホームに突然、南国の木々が生い茂り、向い側の1番線が見えないくらい覆いつくし始め、ジャングルに変身した。
そして、いつの間にか、ディズニーランドのジャングル・クルーズのアトラクションが現れる。
 
ディズニーランドのジャングル・クルーズと言えば、これといったディズニーキャラクターは全く現れない地味目のアトラクションである。
アトラクションだけ浅草の花やしきに突然移設されても、全く違和感なく営業できるような代物である。
しかし、一度、船に乗船し、スキッパ―と呼ばれる船長になんちゃって南国の秘境のアマゾン川にガイドされると、絶対に危なくないはずの象が、本当に暴れ出すような気がするし、スキッパ―に「ああああ、あぶない気をつけて!」と言われると思わず、身体をかがめてしまうし、生存率10%のツアーだと言われても納得してしまうようなそんなアトラクションだ。
 
その駅員さんのアナウンスの仕方はまさにジャングル・クルーズのスキッパ―のそれだった。
彼のせいで、ディズニーランドのアトラクションが今、日比谷駅の日比谷線の2番線に出現している。
 
暗いトンネルの中をのぞくと、2番線のホームにジャングル・クルーズの船が滑り込んでくるような気がする。
ホームから思わず身を乗り出す。
 
「黄色いブロックの内側にぃ、お下がりくだっさぁあ~いっ!」
そう、良いお声で注意されて我に返る。
 
暗いトンネルの中から滑りこんできたのは残念ながらジャングル・クルーズの船ではなく、銀色のボディの日比谷線の車両だった。
それでもまさかと思い、行き先を見るも「アマゾン」ではなく、「六本木」と書いてあることに落胆する。
向かう先は木々が鬱蒼と生い茂るアマゾンどころか、よりによって木が6本しかない。
 
出社のデメリットの代表と言えば、通勤があげられる。
通勤時間はもったいないし、混雑した電車は苦痛以外の何物でもない。
コロナの感染リスクも否めない。
その点テレワークは良い。
苦痛が排除される上に、通勤時間分を別のことに充てられるし、感染リスクも減らすことができる。
 
でも、テレワークでこの駅員さんに遭遇することは絶対にないし、日比谷駅の2番線で電車を待つたった数分で、わたしをディズニーランドのジャングル・クルーズにいざなわれるなんていう体験はできない。
出社しなかったら、こんな思わぬ楽しみに遭遇することはないのである。
だから私は出社しまぁ~す。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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