怒りの手相占い
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記事:小畑 泉彦(ライティング・ゼミ6月コース)
その日、私は猛烈に怒っていた。
職場で無礼極まりない振る舞いを行った相手に対し、人生でもトップ3に入るほどの憤りを覚えた。トップ3と言ってみたものの他の二つが思いつかないので人生最大級の怒りと言ってもいいだろう。語彙力が無いためこの怒りに共感してもらえる言い回しが思いつかないが、「怒髪天を衝く」という言葉がしっくりくるかもしれない。実際に髪が逆立つことはなかったが(むしろ最近は頭髪に元気がない)、私は怒りのあまり手がブルブルと震えてしまった。
緊張で手足が震える経験はあったが、怒りで手が震えたのは初めてだった。仕事に集中しようとパソコンのキーボードに手を添えてもキーがまともに打てないほどだった。怒りとはそれほどまで体に影響するのか。カトリック教会における七つの大罪の一つにも数えられるように、怒りは心身の安静を妨げる大敵なのだろう。
以前、怒りの感情をコントロールするというアンガーマネジメントのセミナーを受講した際、「怒りとは第二次感情である」と聞いた。出会った瞬間にいきなりブチギレる人はおらず(いたら怖い)、そこに至るまでの嫌悪や不満などのプロセスを経て、コップに注がれた水があふれ出るように怒りとして表出するのだという。
思い当たるフシはあった。それが蓄積して私の手を震わせるほどになったのだろう。その場で殴りかかりそうな熱量の怒りを、私は理性ある人間として必死にこらえた。過去に酔っ払いのケンカを仲裁しようとして殴られた経験はあるが、自らの拳で誰かを殴ったことはない。今回はオンラインの場だったのでそもそも殴りようがなかったのだが。
一日怒りの収まらなかった私は、何かしら気分転換を求めていた。酒でも飲むか? いや逆に怒りが加速してしまうかもしれない。運動でもするか? 平日の夜遅い時間、そして季節は真冬だ。これから運動する気にはなれない。しかしこのまま真っすぐ帰宅したのでは怒りを家庭に持ち込むことになる。それでは妻に申し訳ない。
あれこれ思案しながら夜の街を歩いていると、手相占いを見かけた。いつも同じ場所にいるので視界に入っていたが、気にしたことはなかった。ただこの日は感情の起伏が激しくなっていたせいか、この手相占いが妙に気になってしまった。占いなど信じたこともないが、私は足を止めて経験豊富そうに見えるその易者に声をかけた。
「仕事でちょっとイヤなことがありまして……。このまま今の仕事を続けるべきかみてもらえますか?」
易者は私の手をつぶさに見つめた。手のひらに刻まれている無数の線にいろんな意味があるのだろう。果たしてどんなことを言われるだろうか。初めての体験に私はドキドキしていた。
「あなたは……どこにいってもうまくやれる人ですね。外に出て行っても結果を出せるでしょう。ただ、このまま今の場所で頑張り続けることで感謝されることもありますよ」
どのようにでも都合よく解釈できることを述べられて期待外れな感もあったが、占いは案外こういうものなのかもしれない。他にも汎用性の高そうな言葉をいくつか並べ立てられ、私はウンウンとうなずきながら「早く終わらないかな……」という気持ちになっていた。最終的に払ったお代は3000円。このプライスが高いか安いか見当がつかぬまま家路についた。いつの間にか私の中で煮えたぎっていた怒りはトーンダウンしていた。きっと誰かに大丈夫と言って欲しかったのかもしれない。どうやら気分転換にはなったようだ。
さて、その後の私はどうしたかというと、今でも辞めずに会社に残っている。手相を見てもらったことが影響しているかといえばそんなことはないと思うが、あの日足を止めずに怒りを抱えたまま帰宅していたら違う結論を出したかもしれない。
ところで占い師は総務省の日本標準産業分類によると「その他の生活関連サービス業」に区分される(日本占術協会には全国約500名の占い師が登録されているらしい)。つまり我が国ではサービス業なのだ。経営者が社名を決めるときに占い師に相談するという話を聞いたことがあるし、子供を命名する際に姓名判断を気にする親も多いだろう。情報番組の占いコーナーをチェックするのが日課という人も少なくないのではないか。思った以上に私たちの日常は占いサービスに囲まれている。
こうして本稿を書いているうちにむかし流行った動物占いを思い出した。ネットでやってみたところ、私は「たぬき」だった。「愛嬌たっぷりのゆるふわ系」だそうだ。これからは怒りを表情に出さず愛嬌たっぷりで生きていこうか。
あなたも嫌なことがあったときは気分転換に何か占いを利用してみるのはいかがだろう。ただし信じるも信じないも自分次第だということはお忘れなく。たぬきより。
***
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