【魂の生産者に訊く! スピンオフ】本気で農業に取り組む人を応援する。6次産業化を実現した農家が語る、農業のリアルとは(後編) 湘南佐藤農園・佐藤智哉さん《天狼院書店 湘南ローカル企画》
2022/12/26/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
農業を6次産業化させることが盛んに言われてはいるが、傍で見ているよりもはるかに実現は難しい。前提として資金があるか? 利益は上がるか? そこを念入りにリサーチしてもいざ蓋を開ければ予想とは違う展開が待っている可能性だってある。
トマトの生産からピザ作りへチャレンジし、さらにキッチンカーから店舗へと見事に拡大を成功させた湘南佐藤農園・佐藤智哉さんに、6次産業化のその先の未来も含めた展望について伺った。
第1回記事はこちら。
スピンオフ回 キッチンカー記事はこちら。
前編記事はこちら。
佐藤智哉(さとう・ともや)/ 新卒後会社員として勤務。結婚を機に妻の実家である農家を継ぎ義父よりトマト栽培を伝授される。その後アイメック農法によるフルーツトマト栽培開始、その他野菜を中心に作付け。2021年、キッチンカーにて自家製トマトを使ったピザの販売を開始。2022年、小田急江ノ島線善行駅前にピザ店「畑のキッチン」オープン。
農業とピザが広げる可能性
以前スピンオフ回のインタビューで「農業とピザの2本の柱がうまく回ったらその先のことを考えたい」と答えていまして、それについてお話しします。
農家としての今後ですが、うちのメインのフルーツトマトはアイメック農法(土を使わない特別なフィルム栽培)なので、今までは夏を超えることができませんでした。昨年から土を使った「夏を超えるトマト」をフルーツトマトとは別の場所で作っています。
メインの生産物は圧倒的にトマトだけど、とうもろこしやいちごはもっと拡大したいですね。実験的に小さいハウスでいちご栽培にチャレンジしようと思っています。うまくいけば、まずこの店舗でいちごを使ったデザートを出してみたい。将来的にはいちご狩りなんてできれば楽しそうですよね。
ピザは関わる人を増やしながら拡大していきます。冷凍ピザの本格的な生産に向けて動いていて、実現したらこことは別に自前で工場的な場所を借りる、もしくはアウトソーシングで生産するなどを考えています。
あとは「ピザのフランチャイズをやりたい」という申し込みが何件かきています。ただ「ピザの作り方をゼロから教えてほしい」そうで、そうするとトマトを作るところから考えなければならず、農業も関わってきます。農業ってそんなに簡単にはできないので、うちのピザの作り方を1からお教えするのではなく、申し込み者の現地で採れた食材でピザを作り、その地域に根差したフランチャイズにした方がいいのかもしれないですね。
農業の知見を広める場所づくりを目指して
行政とのコラボの話も結構あり、藤沢市の経営企画室から「こども経営塾の農業版をやってほしい」と、アドバイザー的な依頼があります。藤沢市は子どものうちから経営感覚を身につけさせたいという考えがあるようで、藤沢駅の近くにある遊休地を提供してくれる話もあります。
行政の力を借りながら、子どもたちが農業を通じて経営を学べる場所を作れればいいと思っています。例えば子どもたちが物を作って加工して、それに値段をつけて売る。自分たちでマーケットを調べてどういう戦略で行くか考える。マーケティングの勉強にもなりますね。
農業と行政とのコラボだったら、自分と同じような子育て世代にアプローチするものがいいのではないでしょうか。自分がやっていることにいろんな人が興味を持ってくれて自分の考えと一致するのなら、行政の取り組みにも関わっていきたいです。
現在は藤沢市の農業委員をしていまして、農業面から行政と関わっています。農業委員の総会ではよく農地の話が出ます。実は藤沢市内の遊休地は約10haくらいしかありません。藤沢市は神奈川県の中でも他の市に比べて遊休地が少なくて、かなり使っている状態です。800haの農地のうち遊休地は約10haなので、遊休地が少ないこと自体はすごくいいことなんですが、逆に考えると空いている土地がそもそもないから新規就農者が現れてもその人たちが食べていくだけの農地を確保したくても場所がないのです。
藤沢市は新規就農者を受け入れる条件が比較的緩やかだったこともあり、他の市で新規就農を断られた人が藤沢に来るパターンが多かったんですが、今後はそれも厳しくなってくると思います。
新規就農をするには初期投資費用と運転資金がかかります。さらに農業で食べていくには、どのくらいの規模でどういう作物を作り、どこで売るのかなどの計画も立てないといけない。そうそう簡単に始められないです。残念ながら全員がそれだけの覚悟をもって就農希望している訳ではありません。僕らとしては農業を発展させたい気持ちはあるし、本気の人には協力するわけですから、就農希望者もより一層真剣に考えてほしい。
農業に一通り関わってきた立場で僕たちが何か力になれることがあるなら、新規で農業をしたい人の体験場所や、農業の知見を広める場所を作ってみたいです。うちは今も研修生を受け入れていて、研修の1年間の間に農業を覚えてもらい、希望があればピザの店舗も手伝ってもらったら農業からの多角経営のリアルも見ることができますから、研修後も役に立ちます。そういう人たちが羽ばたいていけるような場所を少しずつ作っていかないといけない。それは農業からの6次産業化を実現した一農家として、果たしたい役割だと考えています。
<編集後記>
農家が6次産業化に至るまでの道のりは決して平坦ではない。それを成し遂げてもなお、地域の農業の発展のため、「美味しいもの」のためにプランニングし続けている佐藤さんの心意気が、多くの人に受け入れられる姿を見てきた。今後も次なる成功を生み出していくのだろうと確信している。
(取材・文・撮影:河瀬佳代子)
畑のキッチン
神奈川県藤沢市善行7-3-1 クレール湘南 1F
定休日:月曜日
営業時間:11時〜14時(金・土・日は17〜20時も営業)
電話予約は070-2037-3100まで
H P:https://www.shonansatonouen.com/
※営業時間・定休日は来店前に店舗にご確認ください
□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(フォトライター)
東京都豊島区出身。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul
、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/ 連載中。2022年より料理写真・ポートレート等の写真を榊智朗氏に師事。
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