週刊READING LIFE vol.205

行動する勇気が出ない人へ送る、私の上京物語《週刊READING LIFE Vol.205 私だけのカリスマ》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/2/20/公開
記事:石綿大夢(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
東京に行きたい、夢に挑戦したい。
そういった想いはあるが、実際に行動できない人は多いのではないだろうか。地方から東京への移住者の大半が、大学卒業・入社などの人生の節目で、東京を目指している。だがタイミングを逃して、そのまま憧れを胸に抱きながら、地方で悶々と過ごしている人もいるかもしれない。
今回お話を聞いた役者・清水琴さんは、30歳を過ぎてから意を決して上京し、東京で役者としての活動を始めた、カリスマ的な行動力の持ち主だ。なぜ彼女はそのような決断ができたのか。行動できない全ての人への、彼女なりのエールを聞いた。
 
●プロフィール
清水琴/役者・ダンサー
大阪府出身。2004年、初舞台。以降、大阪を拠点にジャンルを問わず俳優として活動。一時、就職して業界を離れるも、夢を諦めきれず上京。
その後、俳優養成所アップスアカデミーを卒業。俳優、ダンサー、歌手など、ジャンルを問わず様々な活動にチャレンジしている。
 
―ご出身はどちらですか?
大阪です。地方といっても中心部の繁華街に近い、都会で育ちました。
 
―元々、大阪ではどのような活動をなさっていたんですか?
舞台や映像といったジャンルを問わず、役者として活動していました。梅田コマ劇場(現・梅田芸術劇場)で『夜叉ヶ池』という舞台を見て、役者になりたいと思って、養成所に通いました。そこで出会った仲間たちをきっかけに舞台に出演したり、映像関係の仕事をしたりしていました。
 
―印象的だったお仕事はありますか?
どれも印象的ですが、強いていうなら、一心寺シアター倶楽で上演した『Nuchi〜ニライカナイからのメッセージ』ですね。第二次世界大戦末期の沖縄地上戦をテーマにした作品で、物語の中で最初に亡くなってしまう女学生の役でした。自分の演技の出来によって、お客さんの反応が毎回違うんです。感動して啜り泣きが聞こえる回もあれば、全然聞こえない回もあって。ライブで行われる舞台の面白さも、難しさも感じた作品でした。
―一時、役者業を離れていたと伺いましたが
そうなんです。年齢的に20、25、30といった節目の歳って、将来のこととか色々考えるじゃないですか。地方の役者は、そのタイミングでこのまま地方で活動するのか/東京に出て夢を追うのか、二択を迫られるんです。昔から大阪を出て東京に行きたいという想いはあったんですが、その時の私にはそれを実行するのに必要なお金も勇気もなかった。それで自分の気持ちの弱さが嫌になって、就職しようと思ったんです。
 
―就職先は、ブライダル関係だったそうですね。なぜその業界を選んだのですか?
昔から母の影響で洋裁が好きだったんです。我が家には祖母・母と受け継がれてきたウェディングドレスがあるんですが、それをお直しして私も着られたらすっごく親孝行だなって。その技術を学ぶためにブライダル衣装関連の仕事につきました。
その後、メイクの資格も取りました。自分のアトリエを開くという目標ができて、そうなると美容師資格が必要だなと思ったんです。それで頑張ってバイトして美容師学校の学費を貯めました。
でも、そのお金が貯め終わったタイミングでふと思ってしまったんです。
このままでいいのかなって。
美容師学校の受験票と貯金通帳とを両手に持って、それを見比べながら思ったんです。一度きりの人生だから、やりたいことをやらなくちゃって。それでその場で受験票を破り捨てて、上京の準備を始めました。
 
―かなり急な決断だったんですね。周囲の反対とかはなかったですか?
もちろんありました。親には嘘をついて東京の物件を探しにいったりしていたので、バレて大喧嘩になり勘当されました。実際に上京するまでは友人の家に泊めてもらって。
そのうち親も熱が冷めて、私のバイト先に来て封筒を渡してきたんです。「困ったことがあったら使いなさい」って書いてありました。中身は使ってしまいましたが、その封筒はまだ大切にとってあります。
いざ上京するという日、両親それぞれに「30年間お世話になりました」って言いに行ったんです。あの時「まだまだ面倒見させてやぁ」といった父の背中と、エレベーターの窓越しに見た母の顔は一生忘れないですね。
それでも当時は、もう大阪には帰らない、本気でそう思ってました。そう思わないと失礼、というか。悲しい想いで送り出してくれた両親、そして何より決断した私自身に対して失礼だなと思ったんです。大坂を捨てる、それぐらいの覚悟で上京してきました。
 
―進学や就職などの“環境的な”要因で上京してきている人が多いと思うんです。でもそれだけじゃなくて、琴さんのように“心理的な”タイミングで行動したいと思っても、行動できない人も多いと思うんですが。
大前提として、日本人て「〜しなければいけない」というのに、囚われすぎていると思うんです。何かやりたいことがあるとして、別にそれを行動するもしないも自分自身の問題ですよね。
それでいて、やりたいことを行動に移せないということは、きっとその人にはそのタイミングじゃなかったということなんだと思うんです。私も最初に上京したいと思った18歳の時に、何の問題もなく上京できていたら、今まで出会ってきた大切な友人や仲間と出会うことはできなかった。その時に勇気が出なかったら、それはそれでしょうがないですよ。
何事も始めた時が、その人にとっての適正な時期なんだと思います。だから今勇気が出なくても、自分を卑下しないでほしいですね。将来行動しようとした時に、「あの時勇気が出なかった自分」も認めてあげて、それで歩んでいくしかない。今はそう思います。
 
「あの時行動できなかった自分」も、自分の中の一つの要素だ。情けない自分も、成功した自分も。成功も失敗も、全て含めて人生であり、そこでしか巡り会えなかった出会いがある。
そうやって行き着いた「今」を大切に、彼女は今やりたいことへの道を、一歩一歩歩んでいる最中である。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
石綿大夢(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

1989年生まれ、横浜生まれ横浜育ち。明治大学文学部演劇学専攻、同大学院修士課程修了。
俳優として活動する傍ら、演出・ワークショップなどを行う。
人間同士のドラマ、心の葛藤などを“書く”ことで表現することに興味を持ち、ライティングを始める。2021年10月よりライターズ倶楽部へ参加。
劇団 綿座代表。天狼院書店「名作演劇ゼミ」講師。

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2023-02-15 | Posted in 週刊READING LIFE vol.205

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