メディアグランプリ

女王様には手間がかかる


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記事:工藤洋子(ライティング2月コース)
 
 
あなたはどんなジャムがお好きですか?
 
柑橘系の果物を使って作るマーマレードは、チョコレートとの相性が最高だし、アプリコットや梅で作るジャムは鮮烈な酸味が特徴だ。優しい味わいのリンゴジャムは菓子パンに入れると素敵なジャムパンになるし、ブルーベリーは冷凍で手に入りやすいから、年中ジャムを楽しむことができる。
 
世の中にはいろんなジャムがあれど、やはりみんな大好きなのはイチゴジャムではなかろうか。春になったら、いや、今やクリスマス前から店先に並ぶイチゴは、その美しい赤い色が大人も子どもも魅了する。
 
息子が通っていた保育園でも、子ども達の一番人気はダントツでイチゴジャムだった。ブルーベリーとか他のジャムも美味しいと思うのだけど、子どもがキラキラと目を輝かせるのは間違いなく赤く輝くイチゴジャム。時折、手作りのイチゴジャムを園に持って行っていた私のことを「イチゴジャムのおばさん」と覚えていた園児もいたぐらいだ。おそらくその子達には私の顔がジャムの瓶に見えていたことだろう。
 
イチゴは、まさにジャム界の女王様だ。
 
そのイチゴジャムだが、レシピ本などには「簡単なジャム」として紹介されていることが多い。まあ、確かに手順が難しいものではない。しかし、料理において「簡単」であることは、必ずしも「手間がかからない」こととは同じではない。
 
イチゴジャムは簡単にできるけど、美味しくてしかも見た目にも美しく作るには、結構手間がかかるのだ。なんせ相手は女王様だから、
 
「わらわをジャムにしたければ、もっと尽くすがよいぞ」
 
とおっしゃるのである。
 
まず、女王様のお体をきれいに洗った後、髪をくしけずるがごとく、ヘタをひとつひとつ取らねばならない。イチゴはなんせ粒が小さいので今日のデザートに食べる分ぐらいならともかく、それなりにジャムにできる分量を処理しようとすると、そこそこ手間がかかる。
 
それから女王様には砂糖風呂に入っていただき、思いっきりふにゃふにゃなお体に緩んでいただく。砂糖の脱水効果で水分を出しておかないと、砂糖が焦げてしまうからだ。出た水分を一気に煮詰め上げて短時間に加熱しないと、女王様に含まれている赤い色の成分、つまりアントシアニンが褪せてしまうのだ。
 
きれいな色のイチゴを買ってきたのにここでコトコトなんて煮詰めてしまうと、なんだかボヤッとした色に仕上がってしまうから要注意だ。レモン汁、という酸を加えて赤い色をさらに鮮やかにするのも忘れてはいけない。女王様のご尊顔が曇ってしまうようなことは極力避けた方がよい。
 
さて、ここからが一番手間がかかる工程になる。
急いで煮詰めてしまいたいのに、イチゴを煮るととにかくアクがたくさん浮いてくるのだ。女王様は意外と鬱憤を溜めていらっしゃるとみえる。
 
このアク取りが、実にめんどくさい。
 
煮詰めている間、鍋を放置するわけにはいかないし、アクはすくってもすくっても無限に湧いてくる。できればアクだけをすくいたい。でも雑にやっていると、どうしても汁まで一緒に取ってしまうから、ここは忍耐あるのみ、慎重にアクだけを取りのぞく。
 
ジャム作りの経験があまりない人は、
 
「果物なら煮詰めればなんでもアクが出るものじゃないの?」
 
と思うかもしれない。
 
でもそれは違うのだ。
ブルーベリーでもリンゴでもイチジクでも、他の果物をジャムにするときはすくう程のアクは浮いてこない。
 
ブルーベリーなんて、ちょっと潰して煮詰めればあっという間にジャムらしきものが仕上がる。煮詰めすぎを注意しなくてはならないほどだ。おまけにあの濃い紫はイチゴのアントシアニンと違って色が褪せることはないから、扱いやすい。
 
リンゴは剥く手間があるのはイチゴと同じだけど、彼らは図体がでかい。同じ量を作るにしても、イチゴに比べて手間はかからない方だ。しかもリンゴは煮詰めてもアクはほぼ出ない。なんとも気安い素材といえる。
 
イチジクに至っては、手でペロリと皮を剥いたらほんの短時間煮るだけですぐにジャムになる。もっとも手間をかけずにジャムになる。
 
女王様だけだよ、こんなに手間がかかるのは。
だってイチゴは果実じゃなくて草だからね。
 
とにかく、せっせとアクをすくっていくと、だんだん水分が煮詰まっていき、少しずつジャムにとろみがついてくる。
 
もしもとろみが付かないとしたら、イチゴの果肉があまり潰れてないのかもしれない。とろみをつける成分はペクチンという。主に果物の種や皮の周りに多く含まれていて、イチゴの場合は果肉表面にあるゴマ、というか粒の周りにある。
 
果肉を潰しながらアクを取り、けっして煮詰まりすぎないように加熱する、という並行作業が要求される。
 
そして、煮詰まったらできあがり。
なんだけど、誰もが目を輝かせる美しい赤色をキープするには、できたところで急冷しなくてはならない。そうしないと、これまた色が褪せる原因になる。
 
ここまでの手間をかけてやっとイチゴジャムの完成だ。
 
ひとつひとつ説明すると、
 
「ああ、こんな手間のかかること、やりたくない!」
 
と思っただろうか。
 
でもこの工程、加熱の時間はほんの10分以下だったりする。
ヘタを取り、砂糖にまぶす時間をのぞけば、実はやはり簡単にできるのだ。おまけにイチゴはブランドイチゴでもない限り、安い。
 
我らが女王様は庶民の女王様かもしれない。
 
「美しい色に仕上がったようじゃの。褒めてつかわす」
 
それでは美味しく食べましょう。
いただきます!
 
 
 
 
***
 
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2023-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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