それでもやっぱり、私はバレエが好き《週刊READING LIFE Vol.215 日本文化と伝統芸能》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/5/15/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「ああ、本当に難しいよね……」
週に2回通っているクラシックバレエのレッスン。
毎回、レッスンが終わると、同じクラスで練習を一緒にしている方とにわか反省会が始まる。
ちょうどいいカンジに汗もかいているので、ビールがすこぶる美味しいのだ。
まあ、反省会がメインというか、昼間から飲みたいというのもあるのだが。
クラシックバレエのレッスンを始めたのは、高校1年生になった時だった。
宝塚歌劇を初めて観て、その世界に魅了されたことがきっかけだった。
こんなキラキラした世界があるなんて。
生の舞台を観たのは、多分あの時が初めてだった。
そんな宝塚歌劇の舞台の中でも、特に私は舞踊の優雅さには圧倒され、こんな世界があるんだと感動したものだ。
それから、しばらくすると実家の近くにバレエ教室が出来たことを母が教えてくれたのだ。
宝塚歌劇にハマり、今で言うところの推し活動をしていた私は、高校から準備をしたところで、当時、ベルばらブーム真っただ中だった宝塚を受験することすら不可能だとわかっていたものの、少しでも真似事のようなことをしたいと思っていたのだ。
その一つが、クラシックバレエのレッスンだった。
その願いが叶うことは、生まれてきてから、人生の中で一番くらいに嬉しかったことを今でも覚えている。
喜んでそのお教室に通うようになったのだが、少し時間が経ってわかったことがあった。
その教室は、バレエはバレエでもモダンバレエのお教室だったのだ。
いつまで経ってもトゥシューズを履かないことでやっとわかった次第だ。
それでも、バレエシューズを履き、バーというものにつかまり、レッスンをすることなど、クラシックバレエのレッスンと似通っていたことで私も納得したのだ。
それから、短大、会社員時代と、途中でクラシックバレエのレッスンから遠のいた時期もあったが、娘が4歳でバレエのレッスンを始めたことをきっかけに、私もレッスンを再開したのだ。
ちょうど、37歳の時だった。
今思うと、37歳は若かった。
どちらかというと、身体も柔らか方だった私は、すぐにカンを取り戻し、レッスンが楽しくのめり込んでいった。
バレエのレッスンでは、バーを使ったモノから、フロアで飛んだり跳ねたり回ったりといった、様々なパ(型)がある。
バーを使ったレッスンで、クラシックバレエの型、基礎を身に着け、フロアレッスンで応用し、やがては舞台で役を演じ踊るようになるのが目標だ。
ただ、このフロアレッスンでは高く跳んだり、回ったりしながら移動してゆくモノが多く、そうなるとなかなか大変になってくる。
美しくジャンプすることや踊りの順番を考えると、今度は手の振りを間違うし、全身を使って踊るということは、本当に難しく、毎回、反省会の内容が濃くなってゆく訳だ。
そんな時、その同じレッスンを受けている方はクリスチャンなのだが、バレエについて興味あることを教えてくれた。
キリスト教の神というのは、上(天)にいるとされている。
クラシックバレエは、キリスト教の文化圏で生まれたモノだから、キリストの影響を色濃く受けていて、ジャンプなど上へ上へと向く動作が多いというのだ。
確かに、バレエの基本姿勢では、まず身体を引き上げることを要求される。
背筋を伸ばし、頭の上から糸で引っ張られているようなイメージで立つように教えられてきた。
なるほど、全てが上への意識となっている。
あれほど苦労しているジャンプの類は、そもそもキリスト教の影響ということなのか。
私はクリスチャンではないので、なかなかピンとは来なかったのだが、そう言われてみると全てが繋がって理解できる。
そんな話を娘にすると、また興味深いことを教えてくれた。
日本は八百万の神様の国で、伝統芸能の能、狂言、歌舞伎などの舞は、下へ下へと意識が向いているモノだと言うのだ。
そんなことを言うのは、娘は大学時代の能楽部に所属していたからだ。
能ではすり足が基本で、膝を折り、中腰の姿勢をとる。
日本では、古の昔から神様は空だけではなく、身近に、地面にいると考えられていたそうだ。
だから、日本の伝統芸能はすり足、膝を曲げ、重心は下へ下へと向いているという。
ジャンプする所作もあるのだが、それは、より地面を強く打つための助走のためのジャンプなのだそうだ。
確かに、娘が出演した能の舞台を観ていると、ジャンプした後の着地の音がとても大きかった。
そちらに意味があったということを、今さらだが知ることとなった。
伝統芸能、文化というのはその国ごとにあると思うが、それらはその国が崇拝している神様の教えに基づいているとは、今教えられてなんとも感慨深いものがある。
そうなると、私がのめり込んでいるクラシックバレエは、クリスチャンではないものの、その歴史あるパ(型)に則って正しく美しく、ただひたすら習得してゆくしかないのだな。
そして、ジャンプを高く跳ぶ意味をあらためて考えると、ただカタチだけでなく少しばかり厳かな気持ちも湧いてくるような気がする。
身体を引き上げる時、これまでの大抵の先生が言われていた、「糸で天井から引っ張られているような」という表現も、神様の元により近くと言われると、また受け取り方も違ってきそうだ。
ただただ、宝塚歌劇が好きで始めたクラシックバレエ。
その華やかな舞台というのは、日々の地味な練習の賜物だということは舞台人でなくてもよくわかっているつもりだ。
神様に向けて、身体も、心も引き締めて意識を傾けることは、ただの踊りという楽しみ事だけではないように思えてきた。
私は、日本の伝統芸能に携わる機会はなかったし、熱心な仏教徒ではないものの、実家のお墓参りにはよく行っている。
そんな時、合わせた手の先は天へ向け、その頭はお辞儀をして下を向く。
それは、やはり八百万の神様への礼儀となっているのかもしれないな、と今さらながら想像している。
バレエのレッスンでは、キリスト教の精神、日々の暮らしでは日本古来の神様の精神に触れされてもらっているのだ。
そう思うと、なんだか日々の暮らしや趣味のお稽古すら、とてもありがたいことなのだとあらためて気づかせてもらえた。
いずれにしても、これからも大好きなクラシックバレエのレッスンを丁寧に受け、今出来る最大限の努力をして、楽しい時間を多く過ごしてゆきたい。
□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
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