週刊READING LIFE vol.215

鉄道オタクの育て方《週刊READING LIFE Vol.215 日本文化と伝統芸能》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/5/15/公開
記事:久田一彰 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部
 
 
「うわ、東京駅大混雑じゃん」
 
GW中のニュースを見ていたら、人でびっしり埋め尽くされている東京駅、「最後尾」と書かれたプラカードを持った駅員がいて、新幹線のホームまで辿り着けない様子が映し出されていた。
 
正月、お盆、GWという長期休暇の三銃士では、帰省の手段は飛行機、自家用車、長距離バス、列車などさまざまだ。その度に空港、駅、高速道路の混雑ぶりは、もはや風物詩である。この期間中のTV放映は移動手段という日本文化を映すようでもあり、鉄道・航空関係会社が安全に、定刻通りに運行させようとする技術は、伝統芸能と言ってもいいほどである。
 
特に日本における鉄道の歴史は、1872年(明治5年)10月14日に新橋―横浜間が開通したことで幕を開け、今でも鉄道の日として制定されている。その間、円滑化かつ快適に人々を移動させ、時間通りに目的地まで辿り着かせるという技術は、この約150年の間に蓄積され、駅伝のタスキのように受け継がれてきたとも言える。
 
日本の歴史の中で150年という期間は決して長いものではないのに、鉄道技術は世界でも有数のものになっており、技術支援という形でも世界へ羽ばたいている。
 
そんな素晴らしい鉄道のことを、たとえば日本文化と伝統芸能の一端を、3歳の息子にも見せたいという思いから、妻も私も一緒に、福岡県北九州市門司区にある「九州鉄道記念館」へ、このGW中に連れて行くことにした。もちろん私が鉄道好きということもあり、何度でも行きたいと思ったからだ。
 
ここ「九州鉄道記念館」は、鉄道博物館と公園が一緒になったような施設で、もともと1891年(明治24年)に旧九州鉄道会社の本社が建てられた。以降九州鉄道の起点として多くの旅客をそれぞれの目的地まで運んでいった。
 
ゲートを潜ると、巨大で黒い鉄の牛のような蒸気機関車「59634」が出迎えてくれる。国産の貨物機関車でその車体番号から「ごくろうさんよ」とも呼ばれ、多くの人の愛されてきた。ヘッドマークは、銀河鉄道999が掲げられている。
 
そこから車両展示場が始まり、蒸気機関車「C59 1」、電気機関車「EF10 35」・「ED72 1」、汽動車「キハ07 41」、特急「にちりん」、寝台電車特急「月光」、寝台車「スハネフ14-11」、石炭車「セラ1239」と、かつての九州大動脈である鉄道の歴史を支え続けた、立役者たちが再び舞台上でたたずんでいる。
 
息子のお気に入りは寝台車で、ベッドで寝転がり、カーテンをしめて寝る真似を続け、なかなかその場を離れようとしなかったくらいだ。
 
ようやくその場から引っぺがして、ミニ鉄道公園のミニ鉄道に一緒に乗った。一周130メートルの距離を、さながら運転士のようにレバーを引いて運転できる、「九州鉄道記念館」の目玉のひとつだ。九州を現在も走っている列車で、「ゆふいんの森」「885系かもめ」「787系つばめ」「883系ソニック」「813系近郊型列車」のどれかに乗れる。まるでガチャガチャのカプセルトイを引き当てるがごとく、列車が来るのを待つ。
 
今回は「883系ソニック」通称「青いソニック」と呼ばれる、息子が乗りたかった列車に乗ることができた。一緒に乗り込み、息子が運転士、私が車掌のように付き添い、ぐるりと鉄道公園内を回った。こうやって運転士を疑似体験でき、鉄道文化の担い手を育てるという意味では、とても有意義なものである。
 
ここまでは割と順調だったのだが、ここから息子の行動は、私の予想とは外れてきた。大人しく鉄道のことを見てくれたり、体感してくれたりするのかと思いきや、はしゃぐことに全力を注ぎ始めた。鉄道グッズ、おもちゃコーナーからなかなか離れようとしなかったり、館内を走り出したりと、親の気持ちとは正反対だ。まさに「親の心、子知らず」状態だ。
 
なんとか興味を持たせようと、石炭をくべる音や蒸気の音が聞ける場所に連れて行っても、「おしりふりふり〜」と言いながら、踊り始めたりしていた。唯一、昔発車ベルを知らせる音には興味を示したようだが、他は流れ作業的に、「ヘッドマーク」、硬券の「長距離切符」、「駅弁」などの常設展示コーナーを見て回った。
 
結局、1Fも2Fも落ち着いて見られることはなく、時には床に寝転がった我が子を無理やり起き上がらせる、「行楽地のお父さんあるある」を演じ続けて終わってしまった。
 
息子にはまだ早かったのだろうか、いつも電車のおもちゃ「プラレール」でも遊んでいるから興味があるはずなのに、とも思ってしまった。
 
でも文化や伝統芸能等いうものは一度見ただけでは、なかなか理解できず、成長して大人になってから、その素晴らしさに気づき、自ら触れてみよう、学んでみようと思うことがある。これと同じように、息子にも鉄道文化の素晴らしさを感じ取ってもらえるよう、機会があるごとに色んなものに触れさせようと思う。
 
博物館、美術館、水族館などの施設もそうだし、遊園地、公園、野球場、サッカー場でのスポーツ観戦もそうだ。息子がどのタイミングでどれに興味を持つかは分からないので、家族で出掛けていくのもこれから先どんどんと続けよう。
 
そして、息子を寝かしつける時のルーティンでは、「今日は何が楽しかった?」と問いかけ「今日行った電車が楽しかった」と言ってもらえるように、日本文化と伝統芸能に触れてもらおうと思う。《おわり》
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
久田一彰(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県生まれ。駒澤大学文学部歴史学科卒。
会社員とオヤジとライターを両立中。仕事・子育て・取材を通じて得た想いや、現在、天狼院書店『Web READING LIFE』内にて連載記事、『ウイスキー沼への第一歩〜ウイスキー蒸留所を訪ねて〜琥珀色がいざなう大人の社会科見学』を書いている。

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2023-05-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol.215

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