メディアグランプリ

中二病が長引いて、幻覚キノコに手を出しかけた


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記事:ネナムラ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
私のイタい過去の話だ。
 
若いころ、幻覚キノコに手を出す寸前までいったことがある。
幻覚キノコとは、いわゆる「マジックマッシュルーム」。
摂取すると幻覚作用を引き起こすので、娯楽用薬物として悪用される毒キノコだ。
 
私は、友達の親から「あの子と一緒に遊ぶなら安心」と言われてきた優等生タイプだ。
非行に走っていたわけではないし、悪い遊びの好きな友達もいなかった。
 
なのに、どうしてキノコに手を出そうとしたのか?
 
 
話は、私の中学時代にさかのぼる。
父が「大麻は良いもの」という話をどこかで聞いて感化されたらしく、それを娘の私に語ったのだ。
 
父としては、面白い話を聞かせてやろう、という程度の気持ちだったと思う。
しかし、私にとって父は「物知りですごい人」だったので、影響は強い。
それまで持っていた大麻の怖いイメージが簡単にくつがえり、「良いもの」という認識に変わってしまった。
 
まずいことに、私は何かに関心を持つと、どんどん掘り下げる習性があった。
そのせいで、大麻以外の薬物についても興味を持つようになっていく。
 
夏休みの自由研究では、違法薬物についてのレポートを提出した。
インターネットのなかった時代なので、家から遠い大きな図書館に行って本を借りた。
それらの本を熟読し、薬物をタイプ別に分類して、原材料、もたらされる精神症状、流通状況などをまとめ上げたのだ。
 
その力作ぶりは、薬物への興味の強さを物語っていた。
当時、私は中学2年。
まさしく中二病だったと思う。
とはいえ、法を破る気は一切なかったので、何か行動を起こすことはなかった。
 
 
時は進んで、2000年代。
私は20代になっていたが、あろうことか中二病は健在。
薬物への興味をひっそりと持ち続けていた。
 
ある日、気になるニュースを耳にした。
幻覚キノコを摂取した人が錯乱し、救急搬送されたという。
幸い大事には至らず、その人はすぐに退院して通常の生活に戻ったらしい。
 
それはもちろん、「幻覚キノコは危険」という趣旨のニュースだった。
しかし私は、都合の良い要素のみをキャッチし、こう思った。
「幻覚キノコって合法なんだ!」と。
 
それ以来、幻覚キノコを試してみたいと考えるようになった。
違法じゃないんだから、どこかで売っているんだろうと思った。
そして、ついに見つけてしまったのだ。
 
いつも行く繁華街へ買い物に行ったときのことだ。
だらしない服装の中年男性が路上にシートを広げ、何か売っているのを目にした。
それまでは、そんな路上販売には興味を持たなかった。
しかし、そのときの私は、「おや、これは……」と思ったのだ。
 
近づいてみると、やはり。
売られていたのはキノコだった。
干からびた茶色いエノキのようなものが数本ずつ、小さなビニール袋に入れられて、ずらりと並んでいる。
これこそ、幻覚キノコに違いない!
 
ただ……。
そのキノコは、あまりに不潔そうで不気味だった。
ビニール袋はシワっぽく、内側には茶色い粉が付着している。
「あれを口に入れるのか……」
そう思うと勇気が出ず、その日は買わずに帰宅した。
 
それでも、ようやく入手のめどがついたのだ。
うれしくて仕方がなかった。
そこで、おかしな話なのだが、私は父に報告した。
「大麻は良いもの」と言っていた父なら、面白がってくれると思ったからだ。
 
ところが、父から返ってきたのは、私にとっては予想外の言葉。
「……危ないな」
一言だけ、そうつぶやいたのだ。
 
ゾーッとしてしまった。
大麻ならいいが、キノコは危ないということなのか?
そもそも、かつて私に「大麻は良いもの」と言ったのは、若かった父のいっときの気まぐれだったのか?
父の真意は分からなかったが、それはもう、どうでも良かった。
自分が危険な企てをしていたことに気づき、心の底から怖くなってしまったのだ。
 
私は黙り込み、その日の父との会話はそれで終わった。
これを境に、キノコはもちろん、薬物への好奇心はきれいに消え、私はようやく中二病から卒業した。
くしくも父は、まいた種を自分で刈り取ってくれたことになる。
ほどなくして、幻覚キノコは法によって禁じられた。
 
 
不潔そうだったキノコの見た目と、父の「危ないな」の一言。
このどちらかが欠けていたら、私はキノコに手を出していたと思う。
そうしたら、長年の好奇心を満たすだけで済んでいただろうか?
 
そもそも、私が見たあのキノコは、冷静に考えてみると正体不明だ。
不気味な袋入り乾燥キノコの姿には、脱法品の怖さがそのまま表れていたように思う。
合法な薬品であれば課されるような規制や検査は、当然ながら受けていない。
誰が何を採取してどう加工したか、知るよしもないのだ。
 
それに、当時の自分の心理を考えると、キノコに手を出してしまったら、
「コレが大丈夫だったから、アレも大丈夫かな?」
と、ほかの薬物にも、いつかは手を出したんじゃないかと思うのだ。
 
 
最近、テレビ番組やYouTube動画で大麻の話を耳にすることが増えてきた。
医療用大麻の解禁の是非について議論が交わされているからだ。
賛成者と反対者がそれぞれの立場から大麻の情報を発信していたりもする。
 
ここで解禁の是非を問うつもりはないが……。
ただ、中学生の私が聞かされたような話を、今は多くの子どもたちが聞いているんだなと思うと、ちょっと怖いのだ。
 
賛否両側の情報が得られる状況ではある。
とはいえ、自分が尊敬する人や憧れている人が「大麻は良いもの」とする立場であれば、影響を受ける子もいると思うのだ。
脱法品や違法品に目が向いていく子もいるだろう。
少なくとも脱法品の販売者は、興味がなければ目に入らないが、意外と身近で待ち受けている。
 
テレビやYouTubeで語られることだけに子どもたちが踊らされないよう、周囲の大人からも十分に話をしていく必要があると思う。
そして、その話をするときには、子どもたちを守るという観点を忘れずに。
 
興味本位な大麻の話を聞いて発症した中二病で、ついには路上販売の脱法キノコに手を出そうとした、イタい私からの提言だ。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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