メディアグランプリ

不器用な私が、やや田舎暮らしを始めた話


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記事:冨塚 美帆(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
朝は、窓から差し込む光で目が覚める。
 
今の季節は目覚ましよりも、光の方が早い。鳥の声が聞こえる。遠くじゃない、すぐそこの杉の木で鳴いているのだ。ウグイスなんて1日中、しかもGWあたりまで毎日ずーっと鳴く。そんなことを、この土地に来て初めて知った。
 
私は、夫に引っ張られるようにして東北に引っ越してきた。よく言う「田舎暮らし」というやつだ。とは言っても、車で3分走ればセブンイレブンがある。スーパーもある。ドラッグストアもある。ただ、本屋や映画館は隣街に行かないとない。街灯もない。のどかに暮らせる、やや田舎といったところだろうか。
 
最初に驚いたのは、野生の○○が山道によくいること。東京から車で引っ越してきた夜、キツネとタヌキとイノシシに出会った。キツネである。
 
「北海道にしかいないと思ってたよ、キツネって!」
 
勤務先の同僚に話したら言われた。ですよね、私もそう思いましたよ。でもね、いたんです。夜道で細長い目が車のヘッドランプに照らされていた。逃げ足がすばしこかった。
 
ちなみに他の彼らにも特徴があって、タヌキはどんくさいらしい。よく道の真ん中で寝ているとか。
イノシシは、もし車に突進してきたらこちらの方が負けるから、どうにかして逃げるしかない。イノシシにぶつかられて車がダメになった、みたいな話も、この土地に住む人にとっては割と聞くものだという。
 
こんなこともあった。台風が過ぎ去った日の夜、空を見上げると無数の星が見えた。
 
満天の星空って、きっとこのことを言うんだ。
そんなことを思った。
 
私はプラネタリウムが好きで、小さい頃からよく足を運んでいた。プラネタリウムでは最初に大体、その館に一番近い都市部の星空を見せる。都市の星空はビルの谷間にぽつぽつと見えるくらいで、明るいからぼやけている。次に、
 
「ではここから○○山に登ってみましょう! どんな星空が見えるでしょうか?」
 
などとアナウンスが入って、次の空が写される。そうすると、見える星がぐっと増えていく。空の黒は深く、明るい星はもっと明るくなり、暗くて小さい星が急に現れたようになるのだ。
 
「でもこれは、まだ本当の星空じゃないんです。○○山にも街の光がうっすら入ってきてしまうからです。今から皆さんに本当の星空を見せますね。本当の星空は、こんなふうに見えるんです」
 
そう言ってプラネタリウムで見せてもらった星空が、
自宅の上の、私のすぐ目の前に広がっていた。
観客は夫と私だけ。砂のような細かい星々と天の川が見えた。
 
「あ! 今流れ星!」
「……流れ星って毎日流れてるんだよ」
 
急に冷めるようなこと言わないでくれる? と思ったが、確かにその後も流れ星を見た。願いごともホイホイ叶いそうなくらい3つ流れていった。
 
こんなふうに、都会にはない自然の豊かさを、日々感じながら暮らしている。
 
……と、ここまでは何だか良い話(だと思う)のだが、暮らしは一筋縄ではいかない。
 
田舎ではあるが、「ポツンと一軒家」ではないので、ご近所付き合いがある。よそ者を良く思わない土地もあると聞いたりするが、幸いご近所さんはどなたもとても親切だ。
 
親切が、溢れんばかりににじみ出ているのだ。2人暮らしだというのに、紙袋にリンゴを7個とか、里芋を両手からこぼれるくらい頂いたりする。農家というプロから頂くものはどれも本当に美味しい。
 
ただ問題はここからで、何を返すかが思いつかない。
ご高齢でもちょうどいいものって、何? と。
 
他の移住者の方が
「頂いたものでおかずを作って、おすそ分けですって言って返したりしてますよ」
と教えてくれた。確かにちゃんと食べていることも伝わるし、違う家庭の味って新鮮に楽しめそう。ただ料理下手の私、それはかなりハードルが高い。
 
結局今は、仕事で東京に出たときに買ったお土産を渡したりしている。が、なんかこれじゃない感が強い(私の中で)。やっぱり自分の手で何かを生み出せる人はすごいな、と思う。
 
そうかと思えば、プチおばあちゃんになったような体験もした。
 
田舎の大きな家に引っ越したので、人を呼べるようになったのだ。
イメージは、幼少期に連れられて行って、おいしいものをたらふく食べさせてくれた、親戚の家。あの感じを、同世代の友人に向けて再現するのだ。
 
明るい時間はまずバーベキューから。串打ちした焼き鳥。カットした野菜に良く冷やしたビール。
 
おなかがいっぱいになった頃、
「すぐそこにタケノコ生えてるよ」
という話をする。自宅近くの藪でタケノコを掘り、ホームセンターで買った煮炊き用の金色の鍋に米ぬかと唐辛子を入れ、数時間煮る。粗熱が取れるまで放っておく。冷めたらパック詰めして、翌日帰る頃に持たせる。
 
夜は夫と二人でちょっとした料理と、ここぞとばかりに買っておいた酒を出す。ちょっとした飲み屋のようだった。
 
もちろん来客用の布団、食器、タオルなんかもぬかりなく。
なぜここまでするかというと、周囲に宿があまりないからだ。タクシーも走っているのを見たことがない。
 
来てくれた人が楽しんでくれていたらいいのだけれど。
私の方はどうだったかというと、大変すぎて後でめちゃくちゃ荒れた。慣れないことは徐々にやるものかもしれない。
「夫、こんな私でごめんよ」
と思う日々である。
 
引っ越したら、役割も、関わる人も、感動も大変さも想像よりずっと増えた気がする。田舎暮らしはメリーゴーランドのようにはいかない。ジェットコースターのように、私の人生をかき回していく。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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