「母親失格」からのギアチェンジ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:平沼仁実(ライティング・ゼミ4月コース)
「おかあさん、きらい!」
夕飯の最中に、突然息子に言われた。
イヤイヤ期真っ盛りの息子のその発言に深い意味はないことは分かっているし、これまでにも何度も言われたことはある。
それなのに、自分でも驚くほどの大きなショックを受け、涙が溢れてくる。
「母親失格」
そう言われているような気がした。
誰も言っていない言葉に傷つくなんて馬鹿げている。
その時の私はそれほどまでに気持ちに余裕がなくなっていた。
息子のイヤイヤは、最近ますますパワーアップしている。
入浴、歯磨き、そして特に手を焼いているのが毎朝の保育園への登園。
「やだ! ほいくえん、いかない!」
はっきり言葉にして自分の意志を伝えてくる。
あの手この手を使っても、だんだん知恵もついてきてこちらの思惑通りにはごまかせなくなってきている。
出勤時間が迫る中、綱渡りのような毎日だ。
それでもそんなイヤイヤはまだかわいい方で、私の頭を一番悩ませているのは、小学生の娘だ。
数年前に年の離れた弟が産まれてから、急に聞き分けが悪くなったり、弟に小さな意地悪をしたり、「問題行動」を起こすようになった。
これまでずっとひとりっ子として両親の愛情を独り占めして生きてきたのだ。弟への嫉妬から親に注目してほしくて、親の愛情を確かめたくてわざとそのような行動をしているのだろう。
いずれ現実を受け入れ落ち着くはず。
時間が解決してくれる。そう思っていた。
しかし何年経っても全く落ち着く気配はない。それどころかむしろますます悪化している。
着替え、トイレ、食事、歯磨き、入浴などの日常生活動作。
それに加え小学生になってから増えた、宿題、学校の準備、家庭学習など、毎日やらなければいけないこと。
なかなかやり始めない。やっと始めたと思ったら、途中で別のことをやり始めて最初にやっていたことを忘れる。一つのことをやり終えるのにとにかく時間がかかる。
その一つ一つに、「〇〇やったの?」「早くやりなさい!」と何度も何度も何度も何度も声をかけなければならない。
「やることをやってから、好きなことをやりなさい!」
自分のやりたいことばかりやろうとする娘と、やらなければいけないことをやらせようとする母とのバトルは毎日平行線だ。
さらに最近は、親に秘密で友達とお菓子を買いに行ったり(レシートやお菓子の袋が出しっぱなしで詰めが甘すぎるのだが)、自分の部屋で何やらコソコソやっていて親が近づくと慌てて隠そうとしたり。
約束を破ったり、小さな嘘をついたり。
「問題行動」は加速するばかりだ。
家で一緒にいる間中ずっと、私は眉間にしわを寄せてイライラしている。口を開けば小言ばかり言っている。
そんな毎日に嫌気がさし、疲れ果てていた。
娘にとっても良いはずがない。
けれどどうしたらいいのか分からないまま日々は過ぎていく。
そんな中、息子に突然言われた「おかあさん、きらい!」の一言。
母として自分を責める気持ちが止められないまま、友人に連絡をした。
「息子も今、反抗期でさ……」
久々に連絡をした友人も同じようなことで悩んでいたことに驚いた。
彼女には娘と同い年の息子さんがいる。
「ギャングエイジっていう時期に突入しているらしいよ。成長の証なんだって」
彼女が教えてくれた、ギャングエイジ期の子どもの特徴。
大人に干渉されない子どもだけの世界を持つようになる。
禁止されていることなど悪さをするようになる。
親に秘密をもったり嘘をつくようになる。
……なにこれ、全部娘に当てはまっている。
目から鱗だった。
気が付かないうちに、娘は成長し次のステージに突入していたのだ。
弟への嫉妬からくる「問題行動」だと思っていたものは、成長に伴う正常で健全な行動だったのだ。
そうとは知らずに勝手に「問題行動」のレッテルを貼ってしまっていたことに気づき、娘に申し訳ない気持ちになった。
しかし、そうと分かればこちらも行動を変えていけばいい。
希望がみえた気がして、私の心は軽くなった。
「やることやってから好きなことやりなさいって、家事とか育児とか全部やってからスマホ見なさいって言われてるようなもんだよね」
「自我が強くなる時期だから、子どもの主体性を大切にして、上から𠮟りつけたりしない方がいいらしい。見て見ぬふりをして見守ることも大事みたい」
痛いところを突かれているのに、その言葉がすんなりと入ってくる。
それはおそらく彼女が、同じように悩んでいる「同志」として同じ目線でかけてくれた言葉だからだろう。
子どもだって同じ。
上からではなく、同じ目線で。
やらなければいけないことと、やりたいこと。
親が決めたルールを押し付けるのではなく、同じ目線で話し合って、お互い納得する妥協点を探しルールを決めた。
すると、毎日バトルしなくても、娘はやらなければいけないことをやれるようになった。
子どもはいつの間にか成長し、新しいステージへと進んでいく。
その都度、親にもギアチェンジが必要なのだ。
***
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