医師が診察室を飛び出してまちに出てみたら
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:平沼仁実(ライティング・ゼミ4月コース)
「なんで分かってもらえないんだろう……」
医師である私の専門は家庭医療だ。
子どもから高齢者まで、とにかく何でも診る。まずは何でも相談に乗る。
病気だけでなく、そのひと全体、家族や生活背景、地域まで診るのが家庭医療だ。
家庭医として診療をしていると、様々な患者に出会う。
不要な検査や薬の処方を、どうしてもして欲しいと言って聞かない人。
受診のタイミングが早すぎる、あるいは遅すぎる人。
その都度、医師として正しいと思うことを説明する。
なるべく丁寧に、分かりやすく。
しかしどんなに話しても伝わらない。
お互いが納得できる妥協点を見つけられない。
そういったやり取りを繰り返すうちに、だんだん疲弊し無力感にさいなまれ、やるせない気持ちになってくる。
なんで分かってもらえないんだろう……。
けれども逆に自分が患者や患者家族として、診察を受ける立場になってみると、確かに「医者は分かってくれない」と感じることも経験する。
医療者と非医療者の間には、ギャップが存在する。
そのギャップを埋められればお互いにもっと幸せになれるのではないだろうか。
このまま診察室で患者が来るのを待ち、医師としての正しさを主張しているだけでは、きっと永遠にそのギャップは埋められない。
そうだ、まちに出よう。
診察室を飛び出して「人と人」として出会えば、「医師と患者」とは異なる関係性が生まれ、そのギャップが埋められるかもしれない。
でもどうやってまちに出たら良いのだろう。
「健康教室」のような形でまちに出ていけば、そこで出会うのはもともと健康に関心がありリテラシーも高い人だろう。
むしろそうではない人たちともっとカジュアルに日常の中で出会うために、医療や健康への敷居を低くするにはどうしたら良いのだろうか。
そのヒントを求めて、勤務地の自治体が運営する市民大学のようなものに参加した。
それは「市民自身によるまちでの活動」を支援するための連続講座で、講義を聞いて学んだりグループワークをしたりしながら、最終的には何かしらの「まちでの活動」の立ち上げを目指すものだ。
参加者の年代や職種は様々だが、「まち(での活動)に関心がある」という共通点がある。
「焼き芋を売りながらまちに出たらどうかな? 石焼き芋の石と医師をかけて……」
私の想いを聞き共感してくれた広告クリエーターのアイデアから、私たちのプロジェクトが生まれた。
メンバーは医師、看護師、広告クリエーター、フィットネスインストラクターだ。
まちのイベントに、焼き芋屋さんとして出店する。
石と医師をかけたダジャレが人々の興味をひきつけ、面白がってもらえる。
生きている限り、「食」に関心のない人はいない。
焼き芋という「食」を介在させることで、医療や健康に関心のない人にも関心をもってもらいやすくなり、買い物の「ついで」に立ち話感覚で気軽に話すことができる。
活動を始めた当初、自分たちが何者かを端的に伝えるために「健康相談」を前面に出していた。
焼き芋を買いに来た人に「健康のことで何か聞きたいことがあれば相談に乗りますよ!」と自分たちから積極的に声をかけていた。
するとその場で生まれる会話は医療や健康に関する話題が多くなり、症状や検査、薬の相談など、診察室とあまり変わらない内容になる。
そこでの関係性も「医師と患者」とさほど変わらなくなる。
そこに違和感を感じるようになった。
同じ医師という立場で行う、診察室の中での「診察」と、診察室の外での「相談」との違いは何なのか。
受診するほどでもないけど気になっていたことを「診察」より気軽に「相談」できて喜んでもらえると、こちらも嬉しい。
その一方で診断も処方も出来ない「相談」という中途半端さが、どこか無責任なようにも感じられる。
時には医療機関への不満を一方的に訴えるような重い内容の「相談」もある。
仕事ならプロフェッショナルとしてどんな相談にも乗る。
けれど仕事ではなく対価もない中で、こちらが苦痛を伴うような重い相談にも乗らなければいけないというのは、正直なところ負担が大きい。
とはいえ「健康相談」を前面に出す以上、それも受容しなければいけないのではないか。
実際に活動を始めてみて分かった「健康相談」を前面に出すことのメリットとデメリット。
それをふまえて何のために医師が診察室を飛び出すのか、改めて考えた。
家庭医の仕事は、人々の、まちの健康に貢献することだ。
健康とはただ単に病気がないということだけではない。身体も心も社会的にも満たされた状態、どちらかというと「幸せ」に近いのが、健康の定義だ。
医療だけでは「幸せ」はつくれない。
だからまちに出て、まちの人たちと一緒につくる。
「健康相談」はそのためのひとつの手段に過ぎない。
医師とまちの人が、診察室の中で「医師と患者」としてしか出会えない世の中から、まちの中で「人と人」として出会える世の中へ変わったら、まちが今より「幸せ」になるかもしれない。
そんな未来を夢みて、これからも試行錯誤しながらまちでの活動を続けていきたい。
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