散った花火と散らかったゴミと散文
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉田哲(ライティング・ゼミ6月コース)
浅草寺と東京スカイツリーをつなぐ導線には「すみだリバーウォーク」という歩道橋がある。東武鉄道の車両が走る橋梁の脇に掛けられていて、隅田川を横切りながら東京スカイツリーを望むことができる。以前仕事で取材したことをきっかけに散歩コースとしてよく利用している。
休日の散歩を日課にし始めたのは3年前のことだ。それまでは、「今週は仕事で疲れたから」とひたすらダラダラしてしまっていた。トイレと飯以外は布団から出ようともせずに、意味もなく永遠にスマートフォンをスクロールするのである。気づいた頃には日は暮れていて、何かしなければと焦って外に出るものの、コロナ禍だったので街は閑散としていて、やることが特に思いつかない。結局、最寄りのコンビニで酒とつまみを買い、帰って浴びるように酒を飲んで、気絶するように眠るのだ。次の日に起きて、痛い頭を押さえて歯を磨きながら、丸一日を無駄にしたことに罪悪感を感じ、心を痛めてしまう。心を回復させるためにダラダラ休んでいたはずが、余計に心が削られてしまっていたのだ。
この悪循環をどうすればいいか、当時お世話になっていた心療内科のカウンセラーに相談した。
「元気な時だけでいいので、とにかく外に出ることが大事です。何も考える必要はありません。公園でぼーっとするだけでもいいですし、図書館に行って本を読んでみたりするのでもいいです。普段家でやっていることを、外でやってみてください。陽の光を浴びると、脳内でセロトニンという物質が生成されて、精神を安定させたり、脳の動きを活発にさせたりしてくれるんです」
カウンセラーの言ったことを間に受け、よく散歩をするようになった。休日は、特に目的もなく、ただひたすらに知らない道を歩いている。道端にきれいな花が咲いていたり、空に虹がかかっていたりすることに感動するようなきれいな心を持ち合わせていれば、とても気持ちよく散歩できるのだろうか。いかんせん心が削られているので、ただ無心に目の前の道を一歩一歩進めているだけだ。ただ「休日を丸一日無駄にしなかった」という実績を作るためだけに、徘徊に近い散歩をしている。
東京の街は、何も考えないでも情報が錯綜していて、本当に疲れる。大声をあげて喧嘩をしているカップルや、着の身着のままに道端で寝転がっている酔っ払い。何を売っているか謎すぎるお店に、何を伝えたいかわからない看板広告。「なぜそうなったのだろう?」と想像力だけは掻き立てるくせに、答え合わせは永遠にできないモヤモヤが続く。
特に夏の散歩は疲れる。理由はただ一つ、暑いからだ。最近は特に、毎日のように猛暑日で、最高気温は35度を超えている。10分ほど歩くだけで、多汗症の僕は顔中から汗が吹き出て、シャツには湖のような大きな汗のシミができてしまう。30分ほどすると帰りたくなるのだが、家に帰ってしまうと、また罪悪感に襲われるような気がして、思考を止めてひたすら道を歩く。
情報にのまれた時は、よく川沿いの堤防の上を歩くようにしている。人だかりが多い中心街に比べれば格段に情報量は少ないし、汗まみれでもウォーキングやランニングをしている人たちに紛れることができる。特に隅田川沿いを歩くことが多い。向かう方角には、いつも東京スカイツリーがそびえ立っており、歩き続けていればいずれ辿り着くのではないかという小さな目的が生まれる。歩くことに目的が生まれるだけで、他に考えることがなくなりより無心になれるのだ。その最終地点として、「すみだリバーウォーク」を渡ってから電車に乗って帰るのがいつもの散歩コースになっている。
2023年7月30日。いつものようにすみだリバーウォークを渡った。すみだリバーウォークには「隠れソラカラちゃん」というのがあり、マスコットキャラクターの絵が橋梁の下と床板に小さく描かれてる。いつもそれを探しながら渡るのだが、すれ違う方の多くに「こんにちわ〜」と挨拶されてしまい、探すのが少し恥ずかしくなった。ゴミがいろんなところに落ちていて、それを拾う人がたくさんいて、なんだかいつもと違う様子だった。調べると、どうやら前日に花火大会があったらしい。「隅田川花火大会」といえば、毎年夏に行われるビッグイベントではないか。今年は、コロナ禍が落ち着き4年ぶりの開催で、史上最多100万人以上が集まったという。
すみだリバーウォークのほとりでベンチに腰を下ろし、コンビニで買ったポカリスウェットをぐびぐびと飲んで、隅田川越しの東京スカイツリーを眺めた。空は青く、陽の光がさんさんと光っていて、それが水面に反射している。きれいな景色とは対象的に、道端にゴミがたくさん落ちていて、それが昨日の活気をとてもよく表していた。昨日の100万人の気配がいまだに残っていて、それがなぜか心に染みた。コロナ禍において、僕と同じように部屋に閉じこもって荒んでいた人もいたのではないだろうか。どこかにいる同じ鬱憤を抱えていた人たちが、同じ夜空を見上げて、花火が散る度に憂いを晴らしていたのかと思うと、少しだけ豊かな気持ちになった。
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