泣き虫な太陽、息子のために北風とタッグを組む
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記事:パナ子(ライティング実践教室)
子供が不登校になると、夫婦仲に亀裂が入る。
大きな声では言えないが、正直なところ、まことしやかに囁かれているこの「不登校あるある」がこの一年半ほど我が家にもどっしりと鎮座していた。
7才の息子は1年半前、小学校の門をくぐるや否や、光のスピードで不登校になった。教室の前で座り込み、付き添いで行った私に抱き着いて離れず、泣きじゃくる彼を見て、最初は理解が出来ずに困惑した。しかし、それが毎日続くうち、次第に私も苦しくなっていった。
へその緒で繋がっていた記憶というのは、時に残酷だ。彼が感じた悲しみをダイレクトに受けすぎる。こうして二人は「新生活」に潜む形のないモンスターにやられる形で引きこもり生活に突入したのだった。
ほどなくして、夫婦のバトルが始まった。
夫は荒波に揉まれながらも家族のために働いてくれている社会的な生き物だ。だからこそ、夫の主張の中にも、息子に強くなってほしいという思いが溢れていた。
頑張れば学校に行けるという夫 VS いやいや今は少し充電させようという妻の戦いは夜な夜な続き、子供が寝静まった後、ゴングが鳴ることもしばしばだった。
その戦いの様相は、いわば「北風」と「太陽」そのものだった。
戦いの場にそれを持ち込むのは卑怯なのかもしれないが、息子の話をしているとつい泣いてしまう。若干病んでいた。泣き落としをするつもりはまるで無かったのだが、泣きすぎる私に音を上げた夫が「フリースクール」という選択肢を授けてくれたことにより生活は一変、戦いはいったん幕を閉じた。
しかし、フリースクールに慣れ親しんで8カ月が経とうとした頃、夫が言った。
「そろそろ、小学校に復帰する準備をしよう」
生活が安定していることもあって、私も息子も変化を好まなかったが、そうも言っていられない現実があった。フリースクールは高い。月に4万強かかる。仮にこれを小学校卒業までと考えると、一般家庭の我が家にはなかなかの痛手だった。
結局、夫が押し切る形で小学校への挑戦が始まったのだが、その方法は一瞬で私を黙らせた。一緒に登校して一緒に授業を受け、下校するまで全部の時間に付き合うという。在宅業務が叶う仕事スタイルだったため、夫は深夜と早朝にそのほとんどを割り振ったのだ。
おかげで最初は乗り気ではなかった息子も、一日中お父さんが一緒にいるという多大なる安心感に包まれ、次第に泣かなくなった。いつしか見えないモンスターもやっつけたようだった。夫は次第に学校にいる時間を減らしていき、最終的に朝さえ送れば、一人で授業を受け、友達と下校してくる、というまでになった。すごろくのコマを見事順調にすすめ、そのやり方は私を唸らせた。
北風もただのイジワルで風を吹かせているのではない、息子の成長のためなら何でもするという意思の強さを感じ、それは尊敬に値した。
しかし、息子にはもう次の試練がやってきていた。
1人きりでの登校チャレンジである。
夫が付き添い登校から完全に手を引いた後、バトンを受け取った私が毎朝校門近くまで送っていた。
次男を乗せた自転車をゆっくり漕ぎながら、その横を長男が歩く。他愛もない話をしながら時に息子が声を上げて笑ったりする。その時間は楽しく、雨天で大変な時もあったが結構気に入っていた。
だが「北風」こと夫の見解は少し違ったようだった。
本人のゆっくりとした牛歩のようなペースに対して、時にぐっと背中を押す。
「1人で一週間登校できたら、焼肉パーティをしよう!」北風の号令と共に息子の新たなチャレンジが始まった。
当の息子は、最初の一日こそ1人で行くことを怖がり渋ったが、その山を越えると二日目からは元気よく家を飛び出していった。結局一週間やり切った息子を称え、土曜日に近所の焼肉屋で盛大にお祝いをした。今日だけはジュースもアイスも好きなものを好きなだけの大盤振る舞いで、息子もとても嬉しそうにしていた。
そして言った。
「僕ね、お父さんみたいな仕事がしたい。だってかっこいいから」
北風に生き様を教えられ、息子の目に映る父は輝いて見えるようだった。
ただ、それで終われば万々歳なのだが、そうもいかないのが現実の生活なのである。
日曜、出張先に向かった夫が不在の食卓で、息子はしくしくと泣き出した。明日、1人で学校に行くのが怖いという。そして「せっかくお祝いしてもらったのに……、お父さんとの約束もあるし……」と目からポロポロと溢れだす涙を止められずに顔を真っ赤に大泣きしだした息子を私はたまらず抱き寄せた。もしかしたら一週間ギリギリのところで頑張っていたのかもしれない。今こそ、太陽の出番だ。
「大丈夫、大丈夫! お母さんいつでもついていくし! お父さんとの約束? 『お母さんの判断だよ』っていうから気にしなくていい! 明日はお母さんと一緒に行こう」
昨日のお祝いでは私だって「おめでとう! これからも頑張ろう」なんてエールを送ったりしたのだけれど、そんなの関係なくなった。へその緒で繋がっていた絆が痛い程に疼く。Wスタンダード上等! と全てを覆してでも、今は息子がとにかく安心感を得るのが先だ。
励まし続け、「おいしいね、おいしいね」と言い合った昨夜の食事でさえ「あんな近所の安い焼肉食べたくらいで、そんな重荷にならんでいい!」と焼肉屋をディスり始めたあたりで息子が笑いだした。よかった、笑う元気があるなら大丈夫だ。
こうして一週間の1人きりでの登校は一時休戦し、今朝は一緒に学校に行ったのだった。
息子が、強く世間に立ち向かう夫の姿に憧れを抱いているのも確か。でも私にだけこっそりと、弱音を吐き出してくる事もある。きっと息子は憧れと現実の間を行ったり来たりしながら、少しずつ世間というものを肌で感じているのだ。
繊細さゆえに人より傷つくことも多いかもしれない。でも、その分豊かな感性を見せて驚かせてくれることも多い。君らしいペースで君らしく成長してくれることを母は願う。
だから、なあ北風さんよ。
これからも強力なタッグを組んで、世間を旅していく息子を見守っていきましょうや。それが太陽からのお願いです。
***
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