メディアグランプリ

こどもが散らかすのは、芸術作品を生み出す創作活動の一環だった


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記事:久田 一彰(ライティング実践教室)
 
 
「あ痛っ!」
 
我が家のリビングに足を踏み入れた瞬間、足の裏に激痛が走った。凄腕のマッサージ師に足ツボをピンポイントで刺激されたような痛みだ。これがホラー映画のゾンビのように予告もなく襲ってきた。疲れて帰ってきた私にとって、さらなる追い討ちだった。
 
いったい私の足の裏に何が起こったかと思うと、どうやら車のおもちゃを踏んでしまったらしい。ゴジラなら一向に平気でそのまま歩き始めるだろうが、こちらはそうもいかない生身の人間だ。小さいながらもその効果は絶大で、私の歩みは止められてしまった。
 
よくよくリビングを見てみると、他にも数台、車のおもちゃが散らかっている。マットの柄に紛れて点在しているので、まるで忍者がマキビシを撒いて逃げ去って行ったような後だった。他にもカラフルなブロックも同じように散らかっているし、ソファの下にまでおもちゃがかくれんぼしている。
 
犯人はわかっている、ミニゴジラのような3歳の息子が遊び散らかした後だ。おもちゃでひとしきり遊んだ後、次々におもちゃを引っ張り出し、飽きたら棚や箱の中からおもちゃを出す。その度に、私や妻はその度に片付けるという攻防戦を続けている。もはやリビングはくつろぐ空間ではなく、息子の遊び場と化しているのだった。
 
さらに、ダイニングにまでその戦闘のあとは広がっていった。ダイニングの床一面、白い何かが漂っている。一瞬ギョッとしたが、正体はトイレットペーパーだった。よくもまあ、こんなに引っ張り出してきたものだと感心する。息子は散らかっているのも何食わぬ顔で、次の標的にしたおもちゃのブロックで何やら組み立ている。
 
その姿を見ているうちに、こないだはティッシュやウェットティッシュが引っ張り出されていたのを思い出した。
 
「いやいや、君には無限に出てくるマジックみたいで面白いのかもしれないけど、片付けるのは私やママなんだよ。限りある資源は大事にね」と言ったが、まだ理解していない様子だった。
 
「せめて自分で遊んだおもちゃは、どうにかして片付けるようになってくれないかな?」
 
そう思った妻と私は、ミニゴジラが寝静まった後に、「リビングお片付け大作戦」の作戦会議を展開した。遊んだ後に元の場所に片付ける習慣をつけて欲しいので、あの手この手で声をかけてみた。
 
「片付けないと寝ている間に、大事なおもちゃがどこかへ行ってしまうかもしれないよ?」
「ちっさいおじさんがおもちゃを持っていってしまうよ?」
とか言ってみた。
 
何度かは素直に聞き入れてくれてくれたが、次の日にはまた散らかしたまま、寝室へ行くのが繰り返された。まあ、習慣になるにはもう少しかかるだろう。思い返すと私も小さい頃何度も片づけなさいと言われたけど、一向に変わっていない。なんなら大人になった今でも自分の部屋は片付いてないままである。人のことは言えないか。
 
そうこう思っているうちに、赤いブロックだけを集めていた息子が、「しょうぼうしゃ〜」と言いながら、こちらに見せてくれた。
 
おお! ただただ遊んでいるだけではなく、きちんと学びになっているじゃないか! 色を認識しているし、その集まりも同じ仲間ということを分かっている。ブロックを組み立てるということも手先が器用になっている証拠だ。嬉しくて息子のそばに寄って、ブロックの消防車を受け取った。
 
すると次に息子はダイニングに行き、散らかっているトイレットペーパーの上に乗って、くねくねし始めた。
 
「う〜み〜〜〜」
 
サーフィンよろしく、トイレットペーパーを白い波に見立てている。
 
これにはハッとさせられた。息子の目を通して見ると、無造作に散らかっているトイレットペーパーはあっという間に波に変身したのである。そして「ふ〜ね〜」とも言ってくねくねしている。
 
間違いなくダイニングは、広大な海に変身した。
 
私の頭の中では、映画『タイタニック』のあのワンシーン、船の舳先でジャックとローズが大海原に向かって両手を広げている、が一瞬にして流れ出した。もちろんあのBGMもしっかりとついている。
 
やはりそうだ。こどもはただ散らかすというだけでなく、散らかす中から何かを生み出している。それは大人になった私たちからは想像もできない、もしかしたらみんな持っていたのだが大人になる途中でどこかに置いてきたのかもしれない、芸術作品として生まれている。
 
そうしてみてみると、このダイニングの海の散らかしたトイレットペーパーは、葛飾北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」にもとれる。観たこともないのに再現するなんて、もしかしたら、息子は芸術の天才ではなかろうか? そう思うほど親バカぶりが発揮される。
 
ならば、この先散らかしていても、ほほえましい目で見てやろうか。もちろん毎日キチンと片づけられるようになって欲しいが、いつかできるようになると信じて待つ。
 
果たして、どんな芸術作品が目の前で生まれるのか、その瞬間を楽しみにしながら遊びを見守るということも、親として大事なことかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2023-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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