僕の恋愛に君は関係ない
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記事:Kaochan(ライティング・ゼミ12月コース)
そう言い放ったのは、紛れもなく私の夫である。
結婚して17年目、ある日突然勤務先からクビを言い渡された夫が、妻である私の稼ぎで暮らし始めてから3年経過していた。
元々、物書きになるのが夢だった夫。
第二の司馬遼太郎とは俺のことだ! と豪語していた男だった。
だが、その言に反して「ものを書く努力」をしているようには見えなかった。
まだ、検索機能が未熟な時代だったから、私が見つけた新聞の広告の脚本家育成講座を受講し、その気になっていただけのクズ男だった。
きっかけは、カードローンの返済が回せなくなり「そろそろ働いてほしい」と頼んだことがトリガーになったらしい。
「俺は、司馬遼太郎になる男なんだ。労働などという下賎なことに時間を費やすなどおかしいだろ。生活を支えられないなら、お前がアルバイトでもなんでもしろよ」と言い放ったのだ。
だが、疲労が大敵である肝臓病の私は、これ以上の労働はできなかった。
そのことをしっかりと伝えた結果、僅かながらビデオ屋でアルバイトを始めた。
元々作家になって著書が映画化されるのが夢だったせいもあり、ビデオ屋は良い選択だと思ったが、実は裏があったのだ。
稼いだ金を、テニススクールで仲良くなった人妻との不倫の費用にするためだったのだ。
そのことに気がついたのは、アルバイトを始めて少し経った頃だった。
それまでは、いつも一緒にいるオシドリ夫婦と言われていた私達だった。
だが、ある日を境に一緒の外出も食事もしなくなったのだ。
アルバイト先の後輩から相談事されているとか、その後輩や脚本の仲間から誘われたからなどと理由をつけては、一人で出かけるようになった。
毎日のように、寝る前に空の財布をテーブルの上においてくる。
仕事に行く前に、その財布に金を入れろということなのだ。
つまり、その人妻とデートするためのアリバイ作りと資金稼ぎで始めたバイトでは不足するので私に集るという図式が出来上がった。
その不自然さに気がつくのに2ヶ月ほどかかったのは、クズ夫に惚れていたからだと思う。
本当に仲良く、いつもいつも一緒だった。
週末に会社の仲間に誘われても、夫を一人にできなくて、結婚以来一度も仲間と出かけなかった。
それが17年続いていて、その形態が突然崩れたのだから変化には気がつく。
そして、それを浮気だろうと推測はしていても、どこか心が否定していた。
だから、自分で認めるのに2ヶ月もかかった。
ある日、心臓が痛くなるほど動悸がし始めた。
どんなに考えても考えても、結論が出ない。
だから、紙に書いた。
これまでの夫の行動と今の行動を、一枚の紙に真ん中に線を引き、その左右に並べて書き入れた。
左右に30ほど書いたところで、結論が見えた。
浮気だ。
確信を認めるのが怖かっただけだ。
そう、自分の気持ちに素直になった瞬間、頭上から緞帳がスルスルと降りてくるのが見えたのだ。
緞帳は舞台の始まりと終わりに役割を果たす。
まさに、今目の前で終わりの緞帳が降りてきた。
あぁ、これで終わったのだなぁ……と、ため息のような深呼吸をした。
嘘つきのデート帰りと思しきクズ夫と、自宅近所の大きな橋の上で話した。
その流れで、さすがのクズ夫にも予想はできていたらしい。
橋の上で告げた言葉は、自分でも予想していない言葉だった。
「あなた、好きな人ができたでしょ」
疑問形ではなく、静かに断定している自分にもびっくりしたが、彼からの返事はなかった。
そこから2時間、たわいのない過去の話をして終わらせようとしたらしい。
最後に、もう一度同じ言葉を告げると、クズ夫は小さく頷いた。
その晩の詳細は覚えていないが、クズがクズらしい行動をとったのは、翌日に分かった。
共同で使っているパソコンでのメールのやり取りを見られないと思っているあたりが、クズらしい。
「バレた。でも、これでやっと思い通りにできるよ」という甘い言葉のメッセージを人妻に送っていた。
パスワードをかけていたと後で言い訳していたが、それ簡単に外せる設定なんだけどね。
そもそも共同のパソコンだし、全ての契約は私のアドレスからだから。
甘いというかアホというか。
自分の才能を疑わないクズ夫に、この家を出て自分の働きで食べていけと伝えたら、そんなことできるわけがないと反論された。
浮気しているその人妻と、これからも恋愛していくんだろ?
という私の問いへの答えが、冒頭の言葉。
僕の恋愛に君は関係ない
え?
その逢瀬に使うお金は私が稼いでるけど?
君が住む家も食事も私が負担してるけど、そして何より私はあなたの妻だが? と言った。
だから不倫は犯罪になるから、慰謝料請求の対象だと説明した。
彼の答えがふるっている。
どこの世界に、恋愛が犯罪になるのだ。
おかしいのはお前だ。
そして、夫である俺に稼ぎがないのだから生活する金は、妻であるお前が出すのが普通だと。
(この発言の源は、彼の生い立ちにある。それを書き切るには別のページを使いたいので、ここではその説明の言葉を止める)
その不可思議な発言で、私はやっと彼への思慕を断ち切る糸口を手に入れたのだ。
死ぬ思いまでして一緒になったから、簡単に切ることはできなかった。
だからこそ、浮気なんて認めたくなかったのだ。
その後、クズ夫は私の名義を勝手に使い、実家の父に金を借り出て行った。
そこに至るまで、なんと半年もかかった。
その直前、彼はこう言った。
「自分以上に、お前を愛せる男はいないよ」
隅田川テラスの風が、心地よく全身を撫でていく感触を纏いながら、その言葉が本当かどうか、知りたいとさえ思わなかった。
全ては、緞帳が降りた後なんだから。
***
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