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「人生は映画」……なのか? ~第一幕は彼との出会い~


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記事:Minori(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「人生は映画だ」というのはよく聞く言葉で、新しい表現ではない。
人の数だけ、一人称で語られる映画がある。主演、監督、脚本、演出すべて「私」。
ここで、自分の人生がどんな映画だったか、どれどれと振り返ってみる。
 
うーん。あの場面は驚きでしかなかったなあ。
あんな演出、必要だった?
 
主演以外のすべてが私以外の何かによって行われているとしか思えなかった。
気を取り直して、今の私が監督として私の人生を映画にするとしたら、と考えて第一幕に戻ってみる。
 
「私」の映画というからには、私のモトを形作る幼い頃や思春期に戻りたくなる。
仮死で産まれたり、生後一か月で祖母に預けられたり、高校生から一人暮らしをしたりと、それなりに面白いストーリーになりそうだが、しかし、私の人生の第一幕は、彼との出会いから始めたい。
 
今のところ、私の人生の助演男優賞をかっさらっていく予定である「彼」とは、敬愛する父でも、あらいぐまラスカルにしか見えない夫でも、たまに夢に出てくる初恋相手の小林君でもなく、息子である。
 
家族の縁が比較的薄い私にとって、「家族」に対する憧れは常にあったが、同時に、引き続き自分にはあまり縁のないものだとも思っていた。
まだ結婚をしておらず、コンサルタントとして、バリバリ夜中まで働く、26歳社会人駆け出しワーカホリックな私の内側に、生命体が存在すると知った夜。即喜びに溢れ、産む決意を瞬時にしたか、というと、まあ、そうではない。
 
まず、この生命体について責任を果たせるのか?と考えた。
仕事は、ある。多くはないが、一年やそこら休んだところで困らない貯金もあった。
子育てに自信は全くないが、子育てが得意な人や経験者に頼ることはきっとできるだろう。
 
……いける。(ここまで2分くらい)
 
次に、自分の気持ちを整理してみた。
当時私は、仕事も仲間も大好きで、毎日毎日仕事に打ち込み、そして遊び歩いていた。
子どもがいる人生というのは、おそらくこの日々を続けられなくなるに違いないと当時の私は寂しくなった。
(ここでプラス1分)
 
では諦めるのか。
……諦める? 何を? どっちを?
 
自分の内側に生命が宿り、その未来を自分が握っているということの重大さに思いがいたり、すべて停止しておそれおののくこと5分。ここで初めて私の中に一気に感情が流れ込み、その渦の中で泳ぎ始める。
 
ひと一人生み出すなんて大それたこと、していいの?
いいのっていうか、もういるし。ここに。
私に子どもが育てられるの?
できるできないじゃなくて、やるかやらないかってやつじゃない?
そんな無責任でいいの?
いやいや、だから、いいとか悪いとかでもなく、どうするかなんだよね。
せっかく仕事頑張ってきたんじゃん。ここからでしょ?
まあ、それはそうだね。
どうするの?
どうするのって、いったんストップだよね。
ストップした後は? 戻れるの?
わからないけど、私次第なんじゃない?
そんなに甘くないでしょ。
そうだね。甘くはないよね、多分。
 
怖くないの?
……怖いよ。
そうか、怖いんだ。
怖いよ。怖いけど……
 
感情の波に溺れること数十分。
私の中に、ゆっくり、ジワジワと、温かく、言葉にはし難い、不思議なものが、広がっていったのだ。
 
「私はもう、一人じゃないんだ」
 
小さい頃から私は、孤独感と共に生きていた。
母は早くに家を出ていたし、父もその後新しい家庭を持った。
いつしか、一人で生きていける人にならねばという焦燥感を抱くようになった。
勉強はどちらかというと好きだったし、得意ではあったけれど、それ以上に、一人で生きていくために、少しでも良い学校に行かねば、やりたいことよりも、一生食べていくにはどうしたらいいかと、子どもながらに考えていた。
 
でも、新たな生命が身の内に宿った私は、もはや一人ではなくなったのだ。
「この子と一緒に、生きていくんだ」
 
そして決断した私は、まだ25歳の駆け出しミュージシャンのあらいぐまラスカルに、
「私は産むことに決めたけど、あなたはどうしする?」と問いかける。
その時の困惑は想像に難くないが、そこからは、彼の物語。
 
あの頃はサスペンスばりにシリアスな空気が流れていたけれど、今思い返すとコメディにも思える。
ストーリーは思い通りには進まず、監督でも脚本家でもないじゃないかと思っていたけれど、それは私が、映画評論家になってしまっていたからなのかもしれない。
私は私の人生の監督であり、脚本家であり、演出家であるべきだ。
どの場面を切り取り、それを悲劇として描くのか、ほのぼの家族モノとして描くのかは私の自由だ。
エディターズカットやディレクターズカットももちろん自分次第。そして、死ぬ時に見るとかいう、走馬灯とはきっと、この映画のファイナルカットのことなのだろう。
 
私の悲喜交々、阿鼻叫喚、酒池肉林な映画は、息子の誕生後も撮影され続けている。
とりあえず第一幕のディレクターズカットでは、私が溺れたあの感情の激流の中、ディズニー映画のように楽しげなタコを登場させてはどうだろうか、とタコのような息子の頭に茫然としながら模索しているところである。
※息子と髪型の変遷はまた次回。
 
 
 
 
***
 
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2024-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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