メディアグランプリ

舞台の上に滝が出てくるアトラクションを観てハマったこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:義永 直巳(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「キャー!」
と、妙齢のご夫人たちが奇声を発しながら、嬉々としてビニールシートをかぶっている。水しぶきが飛んでくるたびに悲鳴を上げながらビニールシートを被っている観客たち。これは一体、何のアトラクションなのだ?と思っていると、私のところにも水しぶきが飛んできた。
「キャー!」
と、思わず叫びながら、事前に配布されたビニールシートを広げた。
 
これは、数年前に観に行った歌舞伎の一場面だ。舞台の奥に滝があり、水が滔々と流れ、その滝の中で役者が立ち回り(刀を使った演技)をしているのだ。役者が刀を振りかざすたび、足を跳ね上げるたびに水しぶきが客席に飛んでくる。時々、役者が水を被った犬のように、頭をプルプルと左右に振ったり、水たまりから足をあげるときに大きく振り上げる。すると、大粒の水しぶきが客席まで飛んでくるのだ。
水しぶきが飛んでくるたびに、客席から歓声が上がる。客席には妙齢のご婦人達が多かったが、そのご婦人達がまるで子どものように歓喜の悲鳴を上げながらビニールシートで水を避けていた。中には、ビニールシートを被らずに水を被っている人もいた。そんな演出に、思わず私は「楽しい」と思った。
 
舞台に滝が現れてその中で役者たちが立ち回りをするだけでなく、役者が縦横無尽に舞台を駆け回り、消えたと思うと違うところから出てくる。しかも、衣装もカツラも変わっている。一体いつの間に着替えたのかと思うような素早さだ。
あちこちに目をやりながらキョロキョロしていると、主役の役者が舞台の真ん中で、両手を振り上げ、目を大きく見開いて見栄をして決まる。ここぞというところで、視線を一気に集めるのが見栄の場面だ。一番美しい形で決まるその姿に目が釘付けになっていた。
女性の役をする女形の役者は、所作が美しく男性の役者とは違う惹きつけられ方をする。
お芝居の最後には、舞台から続く花道にいた役者が宙吊りになり、宙吊りのまま何度も見栄をしながら、大量の花吹雪ともに3階席の上の方へ消えて行った。
こんな楽しい芝居は初めてだった。ストーリーもさることながら、演出に驚かされた。また観たいと思った。
 
歌舞伎というのは、敷居の高い、やや堅苦しいものかと思っていたが、その時みたお芝居は、まるで目の前に繰り広げられる数時間のアトラクションのようだった。私の歌舞伎へのイメージがすっかり変わってしまった。
 
私が歌舞伎を知ったのは、20代前半の頃。従姉妹が当時歌舞伎が好きだったこともあり、一緒に観に行こうと誘われた。生憎、チケットが取れなかったため、一緒に観劇できなかったが、それ以来、歌舞伎というものが気になっていた。
初めて歌舞伎を観に行ったのは、それから数年後、京都南座の年末の恒例行事、顔見世に両親と祖母を連れて行った時だった。京都に住んでいるので、一度くらいは顔見世というものを観てみようという興味本位でチケットを取った。その時の演目は、古典歌舞伎で、両親は有名な役者のお芝居を観て感動していたが、私には少し難しく感じた。ただ、役者の所作の美しさ、お芝居の面白さは感じていた。
その後、しばらく歌舞伎は観ていなかったが、スーパー歌舞伎というものが上演されるとき、友人が観たいと言ったので一緒に行くことにした。幸い、前の方の席が取れ、前方で観劇したところ、目の前に繰り広げられたアトラクションにすっかりハマってしまったのだ。
スーパー歌舞伎から端を発した私の歌舞伎への興味は、やがて古典歌舞伎への興味へと向かっていった。時代背景などの理解も必要だったりするので、単なる趣味とは言え、事前にその演目の背景などを予習してから観劇するようになった。観れば観るほど、歌舞伎の話は事件が多く盛り込まれていることに気づく。基本、「不良の祝祭」と言われているのも納得できる。舞台での事件発生率がとても高いのだ。強盗、スリ、拉致監禁、公金横領、殺人などの犯罪や、不倫や略奪愛、不純異性交遊などが横行するのだ。高僧が美人スパイの色香に迷い堕落するという内容の演目など、まるでワイドショーのようなネタだ。歌舞伎というのは、それをいけてる感じに仕上げる、いわば「下世話の洗練」というものだ。時代とともに暮らしぶりは変わっていくものではあるが、人の本質というのはあまり変わらないのかもしれない。そんな下世話な話の中に、人間の本性が描かれており、そこに現代の人たちの心を動かすものがあるのだろう。
最初は歌舞伎のケレンという派手な演出の面白さに興味を持った私は、今では不良の祝祭を愉しむようになっている。日常の中に、このようなワクワクするような愉しみがあり、それが日常を彩るのなら、それもまた良いと思うのだ。
そして私は、来月も南座に足を運び、下世話が洗練された舞台を愉しむのだ。
 
 
 
 
***
 
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2024-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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