勉強が苦手な塾講師の、勉強嫌いな人との向き合い方
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記事:香月佑水(ライティング・ゼミ2月コース)
餅は餅屋ということわざがあります。
その道の専門家に任せた方が、うまくいくことが多いという例えです。
私は塾で講師を10年ほどしていますが、勉強が得意で塾講師になったわけではありませんでした。
むしろ逆で、高校時代、勉強についていけなくなったことから勉強するのが嫌になり、学校に行かなくなっていました。
当然、勉強には苦手意識がありました。
大人になって見える世界が広がり、不登校だった高校時代を振り返ったとき、心によぎることがありました。
(目の前の勉強のことばかりでなく、そもそも何のために勉強するのかとか、そんなことを考える機会があれば少しは違ったのかな)
その想いに共感してくれた人がいました。
その人と一緒に、子どもたちに勉強を教えながら、自然体験で興味を幅を広げたり、将来を考える場作りなどを織り交ぜた学びの場を、塾として始めることになりました。
勉強が苦手だったのに塾の仕事に就いたのは、偶然の縁でした。
だから勉強への苦手意識は持ったまま、始めることになりました。
そもそも塾といえば、勉強に何か問題を抱えている人が来るところだと思います。
私の塾も、勉強する理由に向き合う時間も作りつつ、普段は勉強の問題を解決することに多く時間を使っています。
自分のことを客観的に把握することってなかなか難しくて、私自身、どうして苦手意識を強く持ってしまったのか、塾の仕事を始めるまでは、よく分かっていませんでした。
高校時代の自分を思い返すと、こんな思いばかりでした。
頑張っているはず、なのに追いつけない。
いつの間にか分からないことが増えていく。
だから勉強は苦しいもの、として私の心に残っていて、どうしてできないのかはよく見えていませんでした。
教えるという立場になり、私が勉強を嫌いになった理由が見え始めました。
塾生たちが問題の解き方を教えてもらって練習したり、テスト前にもなるとさらに一生懸命勉強している姿は、昔の自分と重なるようでした。
(そうだ。私はこの、覚えることがたくさんありすぎる、ということが嫌だったっけ)
学校に行くと、毎日のように新しい知識を知ることになるため、日々何かを覚えるのは当たり前になります。
子どもの頃はあまり実感がありませんでしたが、学年が上がるごとに学習内容が少しずつ増えていきます。
(私の場合、勉強内容が増えたとき、取り急ぎ「覚える」ことで難を乗り切っていたのかもしれないな)
覚えることで一見、早く問題を解決できたように思えます。
ただ、いくら10代でまだ若いとはいえ、覚えられる量には限りがあるでしょう。
実際、中学生の頃まではついていけていた勉強が、高校に入って苦手になっていた私。
(勉強するときに、「覚える」ことに重きを置き過ぎていたのかもしれない)
そんなことを考えるようになりました。
だから、こう思いました。
自分が勉強苦手のきっかけになってしまった、むやみに「覚える」ことを減らしていけるように、塾の子たちと向き合っていこう。
塾は、分からないことを解決する場です。
だけど「分からない」と言われて、答えだったり正しい道筋を教えることを、少し変えてみよう。
そう考えたのでした。
もちろん、歴史上の人物の名前など、覚えないと仕方がないものもたくさんあります。
むやみに覚えることを減らすためには……そうだ。
勉強する本人にできるだけ自分で考えてもらい、先生の言葉ではなく、自分の言葉で納得した形として知識にする練習を、塾でしてもらおう。
それから。
「分からない」と質問されるたびに、
「この問題は、こう解くよ……」よりも先に、
「どこまで考えられた?」
というように、どこが躓いているのか確かめるようになりました。
塾生は教えてもらうために、まず、自分で考えたことを伝えなければなりません。
勉強に苦手意識がある人ほど、自分の言葉で伝えるのに時間がかかることを知りました。
(ただ覚えるだけなら、ここじゃなくてもできる。一つでもいいから、自分で考えたことを、自分の知識にして持ち帰って欲しい)
考えをまとめるため沈黙になる時間ができても、様子を見ながら待ちました。
分からないと言って、すぐに正しい道筋や答えをもらう方が、塾生にとっては楽だと思います。
塾は時間が限られているので、私にとっても楽です。
分からないのは塾生の方にであるにも関わらず、質問は私からであることが増えました。
答えの道筋を教えるのではなく、私が問題を解くときにそもそもどこに注目するのか、どの言葉の意味がわからないと解けないのか、問いながら導くようになりました。
限られた時間しかない中で、時間がかかることを敢えてするのは、逆行しているだけかもと思うこともありました。
私からの問いに、塾生が自分の言葉で答え、そして考えることで、暗記に頼ることを減らせるといいなという想いでした。
すると、「この問題が分からなくて……ここをこう考えて……」
私がフォローに入るなり、私から何も聞かずとも自分の考えを伝えるようになる人が増えました。
困っている部分をあぶり出して、困っていることだけを解決していく。
風邪の症状だから風邪薬を処方する、そんなお医者さんの様な気持ちでした。
そんなことを繰り返し始めると、保護者の方に
「ここで教わることが、一番わかりやすいってうちの子が言ってるんです」
と言っていただく様になりました。
私の中からも勉強嫌いの意識が薄くなっていたある日、塾生の言葉にハッとしました。
「先生ってすごいよね」
「え、なにが?」
「分からない人に教えるってことが、だよ。俺だったら、そんなの分かるだろってやり方だけ教えちゃう」
できるだけ、導こうとしていることすらバレないようにと思いながらやっていたけれど、その子にはバレていたようでした。
私が勉強苦手だったから、塾講師を続けられたのかもしれない。
勉強嫌いが勉強を教えるのもある意味、餅は餅屋、だったのかもしれないな。
「そうかな。君にもできると思うけど」
と答えながら、そんなことを思ったのでした。
***
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