かまぼこ板でできた私の首にハリを刺す
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:カキウチ サチコ(ライティング・ゼミ2月コース)
目が覚めた瞬間、首が悲鳴を上げていると気づいた。
いや、悲鳴を発したのは私の口からだ。「痛タタタタ……」
首が動かない、動かすと激痛が走る。いわゆる「寝違え」というやつだ。原因は明らかだった。昨夜、目を通しておきたい書籍と共にベッドに入ったことが悔やまれる。枕に角度をつけて、仰向けで本を読んでいた。専門性のある内容が私の眠気を刺激し、気がついたら寝落ちしていた。
私は寝つきもよければ寝相もよい。これが災いし、同じ体勢で首に負荷をかけたまま朝を迎えた。結果、非常事態を招いたのだ。
首の状態を確認すると、左右に動かしても痛みは発生しない。問題は上下の動きだった。天井を見上げる、あごを引く、これらの動作で激しい痛みが首を襲う。首の可動域は上に45度、下に45度くらいだ。今日は木曜日、普段の半分しか動かない首で仕事に行かねばならないのかと、憂鬱な気分になった。
満身創痍の私には、心の支えがひとつあった。週末に鍼治療の予約を入れたのだ。鍼治療は皮膚に細いハリを刺すことで体調を改善する。東洋医学の結晶は、きっと寝違えにも効くはずだ。
1年前までの私は、鍼治療を想像するだけで背中がゾワゾワしていた。整体やマッサージとはわけが違う。いくら免許を持っている先生でも、他人から体にハリを刺されるのは怖かった。しかし、勇気を振り絞って鍼治療に通ってみると、懸念は払拭された。
鍼治療は本当にすごい。首や肩の凝り・眼精疲労・便秘・冷え性・熱中症後の体調不良など、私のあらゆる不調を改善してくれている。中国4000年の歴史には感謝しかない。
鍼の先生と聞くと想像するのは、白髪・白髭のおじいちゃんかもしれない。少なくとも鍼治療を知る前の私のイメージはそうだった。しかし、心の中で「ゴッドハンド」と呼んでいる私の先生は30代の女性で、1歳の娘さんの子育て真っ最中だ。仕事を通じて知りあったので気心が知れており、体を預けることに抵抗はなかった。
施術中は美容師さんと話すような感覚でリラックスできる。何より、私の体の状態と施術内容を丁寧に説明してくれるのがありがたい。だからこそ信頼して体を委ねられる。
鍼治療を心の糧に、首に爆弾を抱えた2日間をサバイブした私。やっと訪れた土曜の午後、治療室に入った私は悲痛な声で、先生に助けを求めた。
「あらあら大変!」と、ゴッドハンド先生は私の首を確認し、首まわりのマッサージをはじめた。実はゴッドハンド先生、接骨院や整形外科のリハビリ科で働いた経験も持っている。多角的に体と向き合い続けるプロなのだ。
肩や背中の筋肉も、首に痛みが出ないよう緊張して、ガチガチにこわばっているようだ。普段より酷使している周囲の筋肉からほぐす必要があると教えてもらった。
マッサージの後、いよいよ鍼治療が始まった。
「首の神経に直接ハリを刺しますね。ほんの少しだけ神経を傷つけます。人間ってすごいんですよ。体が傷を治そうとして、血液と一緒に栄養や痛み抑制成分を患部に巡らせるんです。傷ついた神経に必要な成分が供給されることで、痛さが和らぐんですよ」
鍼治療は、人間が本来持っている治癒力を引き出すしくみなのだ。すごいなぁと驚いている間に、私の首にぷすっとハリが刺された。ズズーンと頭に抜ける刺激。この刺激を表現するのは難しい。肘をぶつけてジーンとする痛みの、さらに奥のほうに響く感じ。「痛い」とは若干違う。髪の毛がよだつような、むず痒いような、なんとも言えない感覚だ。
「首の神経は細いので、他の部位よりも鋭い刺激になるんです。不快に感じたら教えてくださいね」と言いながら、先生は続けてぷすりぷすりと刺していく。迷いのないリズミカルな指の動きに信頼を寄せつつ、裁縫セットの「はりさし」になった自分を想像する。
「あ、いまのは痛かったです? それともズズーンの刺激が強かった?」
なぜわかるのだろうと思ったら、刺したときの手応えに違いを感じるとのこと。
「こわばった筋肉や筋ほど、ズズーンがくるんです。刺したときの手応えは『かまぼこ板』みたいな感じですね。うまく刺さると神経が緩みやわらかくなります。カキウチさんの首と肩は凝りがひどいので、いつも『かまぼこ板』ですけどね」
私の首や肩は「はりさし」ではなく、「かまぼこ板」だったのか。どおりで毎回、ズズーンが多いと思っていた。パソコンとスマートフォンを多用する仕事柄、首と肩の凝りは職業病なのだ。
「さあ、首を上下に動かしてみてください」
先生に促されたので、恐る恐るこうべを垂れる。なんと、痛みを感じずに床が視界に入った。これほど即効性があるとは。3日振りに見る私のつま先、お久しぶり。
次は上を見上げてみる。私の首は最大可動域を記録した。1時間前の私と比べると冗談みたいに首が動く。上下にブンブン首を振ってみた。感動的だ。
「首を痛めて3日目なのがタイミングよかったです。痛めたばかりの炎症は鍼治療では治せないので」
なるほど、鍼治療の限界も教えてもらえた。
「先生、上を向くときだけ、まだ少し痛みが残っています」
唯一、気になった点も相談してみる。どれどれと私の首を触り、どの筋が痛むのかヒアリングした後に、先生は言った。
「その痛みは、慢性的な首と肩の凝り由来ですね。寝違えの痛みではなく、いつもお持ちの症状です。寝違えに意識が向いて、首と肩の凝りのことを忘れちゃっていましたね」
言われてみると、私はいつもこの痛みを抱えて生活していた。私の首と肩の凝りは根深い。いくらゴッドハンド先生でも、いちどでは取り除けないやつだ。お馴染みの痛みは、今日のところはお持ち帰りの運びとなった。
とはいえ、治療前の痛みレベルを10とすれば、治療後の痛みはレベル1か2だ。生活するのに支障がなくなった。この2日間、痛みが出ないよう神経をすり減らしつつ過ごしたのは、夢の中の出来事のようだ。ゴッドハンド先生のありがたみを噛みしめる。私のピンチを救ったのは1本のハリと、まさに神の手だった。
「痛みが消えてよかったですね!」とニコニコするゴッドハンド先生。頼もしい手さばきとのギャップも素敵だ。これからも一生ついていきます。
今回のピンチで改めて気づいたのは、自己管理の重要性だ。急性の不調はすぐ治療の効果が出たが、慢性の不調は回復に時間がかかる。先生のお手を煩わせないよう、自己管理もがんばりたい。痛みレベル0を目指して、首と肩の凝りに効くストレッチを今日からはじめてみた。
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