あれは私が捨てたキャベツの外葉だったのかもしれない
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記事:珠海(ライティング・ゼミ4月コース)
社会貢献ができる人になりたい。
そんな言葉を耳にすることがある。
毎年、季節の変わり目には野菜の値段が高騰する。
最近ではキャベツの値段が2倍近くになっていた。キャベツの代わりに価格安定のもやしやキノコ類を求めて、仕事帰りにスーパーへ立ち寄ったのは、閉店1時間前だった。
店頭には、まさかのキャベツが税抜き99円! 何の迷いもなく横に置いてあったポリ容器に、外葉を外してかごの中へ入れた。
そう、私はキャベツの外葉を捨てたのだ。
会計を済ませてスーパーの外へ出ると、キャベツの外葉が捨てられているポリ容器の横に、しゃがみこんで外葉を口に押し込んでいる女性がいた。一瞬目が合ったのだが、すぐに視線をそらして家へと向かった。
決して身なりが良いとはいえない白髪の高齢女性だった。全身は痩せており、窪んだ目の周りが、目の大きさを際立たせていた。
あの女性は、なぜキャベツの外葉を食べていたのだろう。あそこに捨てられた外葉は、閉店後には廃棄処分となるだろう。店員に言えばもらえるかもしれない。頼むこともできないほどの空腹なのだろうか。それとも摂食障害で食べたい衝動に駆られたのだろうか。
様々な考えや憶測が私の頭の中を巡り続ける。
彼女が隠れるようにして食べていたキャベツの外葉は、私が捨てたものかもしれない……。
世界には確かに貧困や飢えに苦しんでいる国がある。今日のパンすら手に入れることができない人々がいることも、マスメディアを通して知っている。
今この瞬間も、戦争をしている国がある。戦禍にいる人々が、食料を手に入れることが困難な状況にあることも伝えられている。
1945年に第二次世界大戦が終戦するまでは、日本でも戦争が行われていた。当時は多くの国民が飢えに苦しんだそうだ。
現在の日本はどうだろう。1970年代以降、飽食の時代と言われた時期を経て、現在は食品ロスも問題とされている。ダイエットのために食事量を減らす人がいる一方で、給食でしか食事が摂れない子どもがいる。
「食べる」という生命維持に欠かせない行為には、貧困という問題が隠されていたことに気づいた。
家に帰ると、クレジットカードの明細が届いていた。
興味があった美容液、仕事と趣味をかねたセミナーの受講費など、明細書の内容は多岐にわたる。ポイント還元のため、食品もクレジットカードで購入することもあるが、生命維持に必要な食費以外の項目が半分以上を占める。
幸せはお金で買えない、というが、私がお金で買った幸せと満足感がそこにはあった。
数日後、同じスーパーで、今度はレタスが安売りされていた。レタスコーナーの横にはキャベツと同様に、外葉を捨てるためのポリ容器が置かれていた。この日、私は外葉を捨てずにレタスを買った。
買ってきたレタスの外葉には、まだ土がついていた。1枚だけでなく2枚外さないと、中の柔らかい葉まで到達できない。外したレタスの外葉は、土の部分は水滴で泥状になっていた。
とてもその状態で食べる気にはなれず、外葉の泥を水道で洗い流した。
泥が落ちて、きれいになったレタスの外葉をかじってみた。
硬くて苦い。いつもサラダに使っている、内側のレタスは、なんて甘くて柔らかいのだろう。
あのスーパーで出会った高齢女性が食べていた外葉には、泥はついていなかったのだろうか。
レタスの外葉でこんなに硬いのだから、キャベツの外葉はもっと硬かったのではないか。もっと苦かったのではないか。
私が捨てたキャベツの外葉。
あの外葉は食べることもできる。
まだ働き始めたばかりの若い頃の私は、節約のために、キャベツやレタスの外葉を細かく切って調理していたことを思い出した。あの頃は、お好み焼きや餃子、ハンバーグなどの具材にしていた。
硬いから、調理が面倒だからと、捨てるようになったのはいつからだろう。
この日、レタスの外葉は、細かく刻んでチャーハンに入れた。いつもはシャキシャキとした食感を味わうため、内側のレタスの芯の部分を利用していた。レタスの外葉は繊維が多く硬い。細かく刻むことで、火の通りは良くなったが、いつものシャキシャキとした食感は得られなかった。
でも味は悪くなかった。外葉を2枚も使ったため、米よりも多くなってしまったが、満足感はある。残りの2枚の外葉も細かく刻み、中華スープに入れてみた。こちらは苦みが強調されてしまったが、食べられないわけではない。
お金を払えばおいしい物は手に入るが、廃棄する物も、工夫次第でおいしく食べることはできる。
不満ばかり言っている仕事だが、毎月一定の給料が支払われているおかげで、狭くとも雨風がしのげる家と、3食おやつ付きの生活が送れている。
あの日、キャベツの外葉を食べている女性に出会ったことで、自分がこんなにも食べ物を粗末にしていたことに気づき、今ある生活に感謝する気持ちを思い出した。
あの日の彼女の目は力強く、生きようとする意思を感じた。
生きているだけで、見知らぬ誰かに影響を与えることもある。
人は生きているだけで社会貢献をしているのだ。
***
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