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60の憂鬱


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記事:亀子美穂(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「ふん、何がおめでたいものか」
今月に入り、クーポン付きDMをよく受け取るようになった。
パソコンのメールにも、携帯のメールにも、郵便受けの葉書にも。
「お誕生日おめでとうございます! ささやかなプレゼントをお届けします。商品10%OFF」
それを見るたびにため息をついた。
そう、今月は私の誕生月。
それもただの誕生月ではない。
60歳。還暦。
 
古来より、60歳という年齢は特別な年齢だった。
赤いちゃんちゃんこを着て、お祝いされる年齢。
そして、少し前までは会社の定年の年齢。
第一線を退いてのんびりと余生を送ることを求められる年齢だ。
「今までお疲れ様でした」
とか言われて、大きな花束なんかもらって。
「私の会社員人生、とても充実しておりました」
とか、挨拶したりして。
今でこそ、年金がもらえるのが65歳に伸びたので、60歳で完全に引退できる人はほとんどいないかもしれないけれど、私がまだ若いOLだった頃は、そんなセレモニーが行われていたのだった。その頃、自分が60歳になった時の事なんて想像すらできなかった。当時の自分に60歳の人たちは、本当に老人に見えた。動作もしゃべり方もゆっくり。家では縁側で猫を膝に抱いて、お茶をすすっているんじゃないかなーなんて想像していた。
いろいろな事のピークを過ぎて、あとは枯れて終わっていく人たちというイメージ。
 
それが、である。
いざ自分が60歳目前になると、とてもとてもそんな枯れた人間になんてなっていない。
会社員として勤め上げたわけでもなく、何かを成し遂げたわけでもない。
その時々に流されて日々を過ごし、気づいたらもう60歳寸前。
自分の気持ちの中では、まだ何も終わっていない。ピークを過ぎるどころか、まだ始まってもいない。
それでもこのまま終わってしまうのか?
焦りを感じる。
 
終わりたくない。
せめて外見だけでも老いたくない。
サプリを飲んだり、筋トレをしたり。
「いつまでも若々しく」
午後のドラマの再放送を見ていると、そんなうたい文句のサプリや、しわやシミが目立たなくなる化粧品のCMだらけだ。
私だけではない。程度の差はあるのかもしれないけれど、だれもが年をとりたくないのだ。
 
なぜだろう?
確かに、年を取ると、肉体的に衰えて、昨日までできたことができなくなったりという事はあるだろう。
耳は遠くなり、目は近くも遠くも見えにくくなり、座って立ち上がるたびに腰が痛くなったり、階段の上り下りがつらかったり。
若かったころには思いもよらなかったことだ。
こんなはずではと感じるのは無理もない。
でも、それだけだろうか?
それだけだったら、外見が老人っぽく見えたって、別に関係ないはずだ。
運動能力と顔のしわの間に関連があるとは思えない。
ある年齢以上になると「若く見える」が誉め言葉になるのはなぜだろう?
若く見えるために高い化粧品を使ったり、しわを伸ばすための注射を打ったり、シミをレーザーで取ったりするのはなぜなんだろう?
 
やっぱり、どこかで、若い方がいいと感じているからだ。
60代よりは50代。
50代よりは40代。
40代よりは30代。
特に女性は、若い方が得だと感じる場面が多い。
いくら熟女とか大人の女も魅力的とか言われても、若い女性のほうがちやほやされるほうが多いし、その熟女と言われる女性も年齢の割に若く見えるという点で褒められていることが多いのが現実だ。
今はコンプライアンスが叫ばれて、面とむかって若いのがいいとは言われなくなったけれど、陰ではいまだに「あのババア」とか言われているのかもしれない。
 
マーケティングの世界でも、やはり老人はのけ者だ。
広告業界で用いられる、ターゲットとなる顧客の年齢別区分は
F1、M1が20歳~34歳、F2、M2が35歳~49歳だが、50歳以上は一括りにF3、M3になっている。50代も70代も一緒くたなのか? いや60代以上は終わった人たちなので、マーケティングの対象にならないということなのかもしれない。
 
私がこんなに60歳になるのに憂鬱だったのは、60歳という年齢が、老人と呼ばれる年代の入り口になるからだったのだ。
年はとりたくない。
でも、誰でも年を取る。
嫌でも嫌でなくても年を取る。
だったら、嫌な事ばかり考えずにいい所も見つけよう。
 
周りの自分よりも年上の人たちを見てみた。
みんな結構お気楽に楽しくやっている。
「この年になると、他人の目なんか気にしないで好きにやっても、何も言われなくなるからいいのよ」
私よりも少しお姉さんの人が言った。
彼女は毎日生き生きとしている。
私は世間的な「60歳」や「老人」のイメージに囚われすぎていたのかもしれない。
そうか、そういう世間のイメージから自由になっていくのが60歳のこれからの自分の課題なのかもしれない。
 
そして私は60歳になった。
特に変わったことはない。当然だけど、急に老人になったりはしなかった。
せっかくクーポンをもらったんだから、何か楽しくなれるものを買うことにした。60代、楽しく過ごしたい。
 
 
 
 
***
 
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2024-06-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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