本への恩返し
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鈴木(ライティング・ゼミ6月コース)
私は本を読むのが好きだ。
本を読み始めたのは、小学校高学年の頃。
当時仲が良かった(と思っていた)友だちから、仲間外れにされたことがきっかけだった。
休み時間といえば、友だちとサッカーをするか、校内で鬼ごっこをするか、おしゃべりをするかしか、過ごし方を知らなかった。
だがそんな私はある日突然、その仲間たち全員から無視されるようになった。
もちろんその時は相当なショックを受けたが、それ以上に重要な問題が目の前に現れた。
休み時間にやることがなくなってしまったのだ。
陰口を言ってくる同級生がいる教室で何もせず座っているのが気まずかった私は、本を読むことが好きな振りをしようと思った。
とりあえず、当時好きだった漫画に登場していたミステリー小説を読んでみた。
名前だけなら誰でも知っている超有名な探偵が出てくる作品だ。
大人ぶりたいかわいい子どもだったので、子ども向けに読みやすく書かれている児童書ではなく、大人が読む文庫本を親に買ってもらった。
とにかく面白かった。
子どもには少し過激な事件の内容、登場する探偵の推理力とそれを支える観察力、犯人の恐ろしさと情けなさ、そして時代も国も違う不思議な小説の中の世界。
時間つぶしのために読んでいた小説は、いつの間にか、親に声をかけられても気が付かないくらいに、集中してどっぷり入り込む魅力的な世界に変わっていた。
そうして過ごしている内に、子どもたちの興味は別の遊びに変わっていったようで、仲間外れはふいに終わった。
本はそのあとも読んではいたが、ペースはだんだんと落ちていった。
そして中学生。
小学校の頃と全く同じことが起きた。
思春期ど真ん中で行われる仲間外れは、小学生の頃以上に深刻なダメージを私に与えていた。
やっぱり私は、本に逃げた。
相変わらずミステリー小説を読んでいた。
人が死ぬ小説が多いので、どうやったら完全犯罪でいじめっ子を殺せるだろうか、と妄想しながら読むこともよくあった。
「中学生の自分に、アリバイづくりをする方法があるだろうか」
「指紋や凶器など、自分が現場にいた痕跡を完璧に消すには、どうしたらいいだろう」
「証言の中で、犯人しか知らないことを口走らないように気を付けよう」
ミステリー小説を読んでいたおかげで、さまざまな殺人パターンとそのあとの対処が浮かんだ。
しかしそれは全て、最後には探偵によって暴かれてしまう謎であることも、十分に知ってしまっているのだった。
「嫌いな奴のために犯罪者になって、小説の中の犯人と同じ展開になるのはいやだな」
と、苦笑いをして、思いとどまる。
そうやって小説と一緒に日々を乗り越えている内に、中学校生活はなんとか終了した。
そんなこんなでどうにか大人になった私は、今も本を読んでいる。
ただ、大人になってからの読書は、学生時代のように、どうしようもなくひとりの時間に本を読む、という感覚ではなくなってきた。
ひとり時間の過ごし方の選択肢の一つとして読書がある、という感覚で、それは空いた時間のご褒美的なポジションでもある。
そして、このひとりで楽しむ読書が、友だちを連れてくるなんてこともあった。
はじめはバイト先で知り合って、シフトが被れば話す関係性だった。
だがある日、お互いに本を読むということを知り、いくつかの本について話した。
本の貸し借りや感想の共有をしているうちに、本の話だけでなく、仕事や恋人の話もするようになっていった。
そうして出会ってそろそろ10年が経つ。お互い引っ越して生活も変わったのだが、今でも同じような付き合いが続いている。
最初に本を読み始めた時は、現実世界の苦しさを和らげるために、本の中の世界に逃げていた。
人と関わると苦しくてつらいことしかなくて、だから自分と本との間だけで完結する読書という方法で、現実逃避をしていた。
現実逃避のつもりで恐る恐る入ってみた世界はとんでもなくおもしろくて、逃げ込んだ先であることを忘れさせてくれた。
そしてそのおもしろい本の世界は、現実の世界にもつながっていた。
逃げ道として始めた読書が、自分の人生の楽しみになり、気の合う友だちまで連れてきてくれた。
読書が趣味だというと、えらいとか、頭良さそうとか、難しそうとか、友だちいなさそうとか、言われることがある。
だけど、私はただ楽しくて本を読んでいるだけなのだ。
昔自分を救ってくれた命の恩人だとも思っている。
あの時本を読んでいたから、人を殺さず、自分も死なずに済んだ。
ひとりの時間に何をしたらいいのかわからない人や、殺したいほど憎い誰かがいる人や、どうしようもない現状にぶつかっている人がいたら、とりあえず本を読んでみてほしい。
本の中には、人を殺す方法とそれがバレるまでの道のりや、どうしようもない現状に迷い込んでいる人間が、数えきれないほど出てくる。
現実と遠く離れた、魔法や、近未来や、大昔の世界に逃げ込むこともできる。
そしてそれは思わぬ形で、現実世界で過ごす私たちを助けてくれることがあるのだ。
私は、私を助けてくれた本に、恩返しをしたい。
私のように、本を読むことで助けられる人が、きっといると思う。
みなさん、本を読みませんか。
***
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