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助けてというチカラ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井出崎小百合(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
母が救急車で運ばれたと連絡があった。
外で作業をしていて転倒したとのこと。
 
母は、糖尿病やパーキンソン病を長らく患っていて、
体の揺れや筋力の低下があり、最近はよくこけるようにもなっていた。
 
ただ、体はどんどん病気にむしばまれているのだけど、
気力や食欲は旺盛で、だからこそ、私たちからすると
別にそんなことしなくてもいいのに、というようなことをする。
今回も竹を切ろうとして段差から落ち、
頭を切った上に、ろっ骨が6本も折れていた。
そんな状態だったが、自力で自宅に戻り、緊急時用のセコムを呼び、救急車を呼び、
近所の人を呼んだらしいが、一歩間違うと死んでいてもおかしくなかった。
 
病院での治療のあと、「入院してもいいし、絶対安静にするなら
自宅に帰ってもいい」と言われたが、ここで出てくるのがもっともややこしい父である。
 
義妹の「絶対に入院した方がいい」という言葉を振り切って、
「連れて帰る」の一点張りで連れて帰った。
連れて帰っても、母は絶対安静の上に、父は家のことは何もできない。
耳も遠く、母との会話も成り立たない。
その上、夜は酒を飲むと感情の抑制が効かず、
その日も心配した弟が仕事を終えて見に行くと、
「(みんなに迷惑をかけて)ごめんなさいと言え!」と言って
母の肩を叩いていたらしい。
 
これは、高齢者特有の前頭葉の機能低下によるものなのだそうだが、
このままではうちの家から、殺人者と被害者を生み出してしまうかもしれない。
 
一晩家で過ごしてみて、結局ベッドへの寝たり起きたりも
痛みで難しいということもわかり、
再度病院に頼み込んで、入院させてもらうことにした。
ただ、歩くことは普通に出来るので、トイレにも自分で行けるし、
病院では実際することがなく、結局早々に退院を言い渡されてしまった。
 
突然始まった介護。
いや、突然ではない。まだ大丈夫、まだ大丈夫と見て見ぬふりをしてきただけだ。
 
弟ふたりは、実家の近くにいるが、近いと言っても
車で1時間ほどの距離である。
弟ふたりも、義妹たちもほんとに父と母のことをよく見てくれてはいるが
それぞれに生活があり、父と母を四六時中見ておくことは不可能だ。
 
私は、今までわがまま放題、自由に生きてきた。
盆や正月には、子どもたちも一緒に必ず帰省したし、
弟や義妹たちの様々な相談にも乗ってきたが、でも、それだけだ。
いつか、両親に介護が必要になったら、仕事を辞めて家に帰ろう、
それまでは自由に生きさせてくれ、と思っていたのだが、
いざ、その時が来て、うーん、と悩んでいる。
ほんとに今あることをすべて投げ出して行けるのか、私。
 
そんなことも頭の片隅にありつつ、
とりあえずは、我が家から殺人者と被害者を出さないために、
仕事を1週間休みを取り、実家に帰ることにしたのだが、
実は我が家は子どもたちは皆独り立ちし、
夫は単身赴任で私は平日は、犬と二人暮らしだ。
 
ここで次に問題になるのは、犬である。
こちらもなかなかの老犬で、1週間ペットホテルに預けるのは忍びない。
私が実家に連れて帰るか?
夫の赴任先に連れて行ってもらうか?
いずれにしても、ペットホテルと同様、環境が激変することには変わりはない。
幸いにも外犬なので、散歩とエサだけ誰かにお願い出来たら、
犬の負担は一番少ないのではないかと思い、誰に頼もうかと考える。
 
しかしここに「助けて」というハードルが現れる。
 
こんなことなら、犬に我慢してもらって、ペットホテルに行ってもらい、
父や母も、さっさと介護施設に入ってもらった方がどんなに楽か。
 
世の中は便利になった。
少し行けばコンビニがあり、
お醤油やみそがなくてご近所さんに借りに行くこともなくなった。
病気やお産や火事なども、昔は地域みんなで助け合って乗り越えてきたので
助け合うことは日常にあり、当然であったのだと思う。
 
しかし今は、
人に迷惑をかけない。
自立した人間になる。
 
そんな言葉が世の中にはびこっている。
だが、ほんとに誰にも迷惑をかけずに生きていけるのだろうか?
ほんとに誰にも頼らずに生きていけるのだろうか?
 
若い時には、誰にも迷惑をかけずに生きていく、と思っていた。
でも、子どもを持って、そんなことはあり得ないし、
どうせなら、迷惑を迷惑と思われないような人間関係をたくさん作ろうじゃないかと思って生きてきたのである。
普段から周りの人に、「助けてほしい時には助けてって言っていいんよ」と言い続け、
子どもたちにも「助けてほしい時に、助けてと言える人になってほしい」と思っている。
でも、いざ自分が「助けて」という立場になると、これがまあ、難しい。
 
でもこれから年を重ねていけば、「助けて」と言わざるを得ない場面は
今後増々出てくるだろう。
その練習として、今回の困難はあるのだと思おう。
勇気をもって「助けて」と言おう。
 
そう思って、ご近所さんに犬の散歩を頼んでみた。
意外なほどに、「いいですよー」と返事が返ってきた。
犬を飼っていたことがあり、犬が大好きだけど、子どもが小さくて飼う勇気が
なかったのだという。
ご主人も「いいなー、いいなー」と言われているらしく、
「夫の休みの日には一緒に散歩していいですか?」とまで聞かれた。
そんな犬好きなご家族だったなんて、今まで全く知らなかった。
こんなに喜んでもらえたら、なんだかいいことをした気すらする。
 
勇気をもって「助けて」と言ってよかった。
きっと「助けて」と言われた人は、
自分が困った時に「助けて」と言いやすくなるに違いない。
これからも、勇気をもって「助けて」と言おう。
自分のために。そして、周りの人のために。
 
 
 
 
***
 
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2024-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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