えっ? この質問ライアーゲームだったのね。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:たかてぃー(ライティング特講)
妻は激怒した。
結婚式が差し迫った春。何度もウェディングドレスの試着に通い、妻は私に聞いた。
「どっちがいいかな?」
それに対して言った私の言葉がその後の激怒につながる。
「どっちでもいいよ!」
今思うとなかなかの失言だった。結婚式の準備でたくさんのことを判断し、選ぶことにつかれていたことは言い訳にならない。一生に一度の結婚式、怒るのも無理はない。
これは理解できる。しかし、普段の日に聞かれる「今日どっちの服がいいかな?」に対しても「どっちでもいいよ!」なんて言ってしまえば、ほんのり不機嫌になるのはわからない。基本、無地の白いTシャツばかり着ている私からすると、それが心の声なのだから。
もちろん、そっけなく「どっちでもいい」なんて言わない。冗談っぽく、お笑いのボケとツッコミのように、コミュニケーションの一つ、楽しい会話として言う。それなのに……
この質問、多くの方が一度は聞かれたことがある言葉ではないだろうか。私はその質問に対する答えを探し続けてきた。そして、正解が見つかった。大発見! と言っていいだろう。
「今日、どっちの服がいいかな?」
という言葉。実はこれ、ライアーゲームだったのだ。
もちろん、私の見つけた答えがすべての方に当てはまるわけではない。男性、女性で分けるのもちがうだろう。うちの妻は、どうやらコレがいいような気がするという憶測にすぎない。ただ、この憶測をあの時の私と同じ失敗をするかもしれないあなたにお伝えしたい。妻にばれないようにこっそりと、ここだけの話として。
子どもが生まれて、子どもの服について聞かれることが増えてきたが、結婚生活3年目というのに、「どっちがいいかな」と妻からまだ聞かr……いや、まだ聞いていただけることがある。
本心は「どっちでもいいよ」“だった”のだが、ほんのり機嫌が悪くなることがわかってきてから、そうは言わないようにしている。
そして、ある日言ってみたのが
「どっちも素敵だと思うよ」
という言葉。
「どっちか言ってほしいの」
と、それはそうだろうな、という予想通りの返事が返ってくる。
おそらく妻の中に自分の正解がある。これは、その2つに1つを当てるゲームなのだ。
意を決して
「じゃあ、こっちかな」
と返す。
「どうして?」
と、また質問が飛んでくる。
「うぅん、なんとなく」
なんて答えると
「何よそれ」
と言って、
「じゃあこっちにしよう」
と私が選んでいない方に決まる。どうやら2択を外したらしい。ほんのり機嫌が悪くなる。
その日のスタートが良くないというのは、2人の1日に大きな影響を及ぼす。なんとしても、2択を当てられるメンタリスト夫にならなければならない。
別の日。
しっかり意見を言うことにした。外した時のダメージを少し抑えることができるかもしれない。
「僕はこっちがいいと思うな」
と言ってみる。今度もまた
「どうして?」
と、もちろん聞かれる。
「今日は海を歩くかもしれないから、こっちの方が海に合っているような気がする」
その言葉を聞いて妻は
「なるほど。でも、今日はそっちの気分じゃなかったから、こっちにする」
と言って私が選んでいない方を着て出かけた。また2択を外してしまった。ただ、少し声に張りがあるような気もする。
また別の日。
ついに思いついてしまった。2択をバチっと当てる方法を。
「どうしてその2つを選んだの?」と、こちらから聞いてみるという作戦だ。ヒントをもらえば当たりやすくなるだろう。「質問に質問で返すな!」なんて怒られることも覚悟していたが、思いのほか妻はよく話してくれた。
「今日はね、ショッピングセンターでしょ。だから結構歩くから、スニーカーをはきたいのね。それに合う服だとこれかこれかなと思って、でもカバンも持ちたいやつがあって合う方を決められないんだよね」
と言っている。こんなにも服のことを考えていたのかと初めてその時に知った。いつも長いなと思っていた服を決める時間は、その1日に思いを巡らせ、楽しい時間にするためのイメージを膨らませている時間だったのだ。
「なるほどね。じゃあ、こっちの方がいいと思うな」
と理由を聞いたうえで、私なりに判断して伝えた。やっぱり私が選んだ方と逆を選んで出かけた。しかし、妻の機嫌は悪くない。
またまた別の日。
この日はどの靴を履くかで迷っている。いつものごとく聞かれる。
「この靴とこの靴どっちがいいかな?」
「今日の服は落ち着いた色だから、こっちの靴が合いそうだけど、カフェに行くから、ちょっと落ち着いた雰囲気のこっちもいいよね。迷うけど、こっちかな」
「ふぅうん」
と言った後に少しの間。
どんな言葉が返ってくるのか、顔の向きは変えなくても、私の目がついつい妻の顔を追ってしまう。そして妻はこくりとうなずき、一言。
「いいんじゃない」
私が選んだものを身にまとい、出かけることになった。なぜかうれしいこの気持ちを妻にさとられないように、
「じゃあ、いこっか」
と口に出す。
私がひねり出した理由が響いたのか、たまたま妻の中で決まっていたものを当てたのかはわからない。しかし、そんなことはどうでもいい。機嫌をそこねずに出かけられるのだから、それで十分。
ここまでの悪戦苦闘を通して1つの結論にたどり着く。
どちらかを当てることに一生懸命になっていたが、おそらくこれは2択を当てるゲームではなかった。妻は「今日、どっちの服がいいかな?」という言葉を使って「私の話に興味をもっている?」と聞いてくる。それに対して、私はどっちでもいいと思っているのに「どっちがいいかな」と一緒に迷っている。2人とも本音なんか何も言わない嘘の会話、いわばライアーゲームなのだ。
ただ、このライアーゲーム、やっていると驚くのだが、言葉に出しているうちに嘘の言葉が本当になってくる。いつのまにか「どっちでもいいよ」が「ちょっと一緒に考えたい」へと変わっていた。正直、朝ボーっとしている時に、うまく言葉を見つけられない時もある。しかし、これから始まる一日に、希望をもつ時間のお手伝いができると思うと少し嬉しい。
「今日、どっちの服がいいかな?」に対する正解の返し、そんな「言葉」はないというのが私の考えだ。ただ、そこに答えがあるとするなら「あなたのことが大切」という気持ちを込めて、言葉を贈る「心」だと思う。
その心が結婚式前にあれば……
ただ、今の私たちは“心で通じ合う”ことができている。
趣味のテニスの試合がある朝のこと。着替えようとパッと手に取ったのは、何年も着ていない赤のウェアと、いつも着ている紺のウェアだった。もう若くないのでいつも通り紺のウェアで行くと決めている。ただ、なぜかその日は自分も妻に聞いてみたくなった。
「赤と紺どっちがいいかな」
「そりゃ赤でしょ」
「うっうぅ……」
はっきりと逆の答えを、想像以上に素早く言われて、たじろきながらこう返す。
「いや、もう若くないから紺で行くよ」
いつも妻が私にかけてきた言葉だ。
「じゃあ、聞いてくるんじゃないよ! 試合なんだから強そうな赤でいきなさい!」
ほんのりどころではない、明らかに機嫌が悪くなる。
“心で通じ合う”ことができている……?
言うまでもなく、赤を着て試合に行った。すぐに負けて帰ってきた。その夜に食べた妻の料理はいつもより、ほんのりおいしく感じた。
***
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