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「忘れられない女」として生き続ける私


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:かたせひとみ(ライティング特講)
 
 
「ねぇ、みんなは誰にチョコレートあげる?」
小学校3年の冬、私たち仲良し3人組はバレンタインの相談をしていた。
 
「ひとみちゃんは?」
と聞かれて、私はT君の名前を告げた。背が高くてスポーツ万能、優しい男の子だった。
 
私達は、互いの意中の人を打ち明けた後、チョコレートと一緒に質問形式の手紙を渡す作戦を立てた。
 
質問は3つ。
1. 好きな色は何ですか? 
2. 好きな食べ物は何ですか? 
3. 好きな女の子は誰ですか? 
 
答えやすい質問から初めて、最後に核心に迫るというやり方である。
今にして思えば、なかなか小賢しくて積極的だった。
 
私達は、お気に入りの便せんに手紙を書くことにした。
相手を喜ばすには、相手が好きなキャラクターの便せんを使う方が効果的だろう。
しかし、幼い我等は、自分の大事なものを献上するのが相手への誠意だと信じていた。
 
当時、「キャンディ・キャンディ」という少女漫画が大人気で、私も大ファンだった。
主人公であるキャンディのイラストが描かれた便せんは、一番の宝物。
「ここぞ!」というときのために大事に取っておいた。
今が、その「ここぞ!」に違いない。この便せんを使うことに迷いはなかった。
 
「好きな女の子は誰ですか?」
答えは「ひとみ」だと良いな。
そう願いながら、私は便せんに3つの質問を書いた。
 
バレンタイン当日、学校の帰り道、ドキドキしながらT君にチョコと手紙を渡した。
渡した瞬間、恥ずかしさに耐えられず、「きゃー!」と叫びながら走って逃げる小学女子3人組。
まるで漫画のワンシーンだった。
 
翌日から、いつ手紙の返事をもらえるかと、ソワソワする日が始まる。
授業中、そして休み時間、T君からの視線を感じることが増えた。
時折、目が合うこともあった。
 
もしかしたら、あの「好きな女の子は誰ですか?」の質問の答えは、私かもしれない。
そんな期待に胸が高鳴った。
 
数日して、学校の帰り道、T君に呼び止められた。
「これ……」とT君が、おずおずと折り畳んだ紙を私に差し出す。
バレンタインに渡したキャンディの便せんだ! 
私が手紙を受け取ると、T君は何も言わずそのまま走っていった。
 
ドキドキしながらその場で手紙を開いてみる。
そこで、私は目を疑った。
自分が書いたはずの質問が、全く別のものに変わっていたからだ。
 
3番目の質問には「好きな女の子は誰ですか?」と書いたはず。
ところが、なぜか「おち〇ち〇の長さは何センチですか?」という質問に書き換わっていたのだ! 
 
混乱しながらも、私は手紙を途中で書き換えたことを思い出した。
バレンタインの前日、ふと思ったのだ。
T君を好きな女の子が他にもいるかもしれない。もしかしたら、思った以上に人気があるのでは? 
そう思うと、「好きな色、好きな食べ物、好きな女の子」の質問が、急にありきたりで陳腐なものに思えた。
 
このままだと、「その他大勢」の中に埋もれてしまう。
もっと目立って自分を印象づけなければ! 
私は「好意を伝える」という本来の目的を忘れ、「目立つこと」を優先してしまった。
 
考えた末に、「その他大勢」と一線を画す質問として浮かんだのが、「おち〇ち〇の長さ」だった。
こんな質問をする女子は他にいないだろう(そりゃそうだ)と、自信満々に手紙の内容を書き換えたのだった……。
 
興奮していた私は、手紙の内容を書き換えたことをすっかり忘れ、当初の予定通り「好きな女の子は誰ですか?」と質問した手紙を渡したつもりでいた。
 
可愛らしく微笑むキャンディの横に踊る「おち〇ち〇」の文字……。
なんてアンマッチなんだろう。
キャンディが泣くよ……。心の中でキャンディに詫びた。
 
T君からの返事には「測ったことがないのでわかりません」と、書いてあった。
私だったら「知るか、バーカ!」とでも書きそうなところを……。T君は誠実だった。
 
何も本気で長さを知りたかったわけじゃない。
その他大勢に埋もれず、自分を印象づけるために、差別化を図った私なりの戦略だった。
しかし、この戦略が失敗だったことは、子供心にもはっきりとわかった。
仲良し3人組に手紙を見せて報告したら、絶句したあと爆笑していた。
 
そして、この失敗は、私とT君の間だけで終わらなかった。
翌日から私は、クラスの男子から「ヘンタイ」と呼ばれることになったのだ。
どうやら、手紙の内容が情報漏洩してしまったらしい。昔はセキュリティも甘かった。
 
私は「ヘンタイ」と呼ばれることを甘んじて受け入れた。
自分が蒔いた種は自分で刈り取るしかない。
「おい、ヘンタイ」と呼ばれたら、素直に「何?」と返事した。
 
失敗の余波は思わぬところにも広がっていった。
タイミングの悪いことに、ちょうどこの時期、算数の授業で定規を使っていた。
ヘンタイ事件をヒントに、男子の間で股間に定規を当てて測るという悪ふざけが流行り始める……。
意図せず、私はクラスに一大ムーブメントを巻き起こしてしまったのだ。
 
わざわざ私のところにやって来て「〇〇君は、〇センチだよ」と教えてくれる男子もいた。
私がデータ集めをしているとでも思ったのだろうか……。
 
一度の失敗が後々まで尾を引く。そう胸に刻んだ小3の冬だった。
しかし、こうも思うのだ。
T君に、こんなインパクトのある愛の告白をしてきたのは、後にも先にも私だけだろう。
だとしたら、私はきっとT君の中で「忘れられない女」として生き続ける。
 
別の意味での「忘れられない女」かもしれないが、「忘れられない女」というのに変わりはない。
なんと女冥利につきることだろう。
 
そしてあの大胆な差別化戦略も、短期的に見れば大失敗だったが、長期的視野に立つと、なかなか良い戦略だったのかもしれない。
「その他大勢に埋もれない」という目的を、見事達成出来たのだから。
 
T君、私のこと忘れてないよねー?
 
 
 
 
***
 
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2024-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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