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「褒められスパイラル」で心も体も変わる もっと「綺麗」って言って


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:かたせひとみ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
診察室に入ると、先生はうっとりした目で私を見つめる。
「相変わらずお綺麗ですね」
「こんなに綺麗な人、見たことがないですよ」
 
一瞬、ドキッとする。
「え、私?」と驚いた瞬間、すぐに冷静になり、「あー、『胃』の話ね」と我に返る。
毎年のことなのに、つい忘れる。
 

先生は消化器外科の医師。
彼が見つめているのは、正確には「私」ではなく、「私の胃カメラの画像」だ。
私の顔を見る時間よりも、画像を見る時間の方が圧倒的に長い。
比率で言えば、2対8といったところか。
 

消化器外科の医師をしているくらいだから、一般の人に比べたら、多少は胃フェチの要素があるのだろう。
先生は私の胃が大層お気に入りのようで、画像を見つめ、褒める、褒める。
このまま胃カメラの画像をスマホの待ち受けにしそうな勢いだ。
 

先生によると私の胃は抜群に綺麗らしい。
「今まで何千人もの胃を見てきましたが、こんなに綺麗な胃を持っている方はなかなかいないですよ!」
「綺麗なピンク色で、まさにお手本のような胃です!」
 

いつもこんな調子で、私の胃をべた褒めする。
他の人の胃を見たことがない私からすると、綺麗かどうかもわからない。
仮に綺麗な胃だとしても、私にとってはグロテスクな画像にしか見えない。
先生がプロとしての観点から褒めているのはわかるが、私との温度差に毎年笑いそうになる。
 

先生の胃カメラ検査を受けるようになって約10年になる。
それまでは、バリウム検査を受けていたが、年を追うごとにきつくなっていた。
 

検査技師の方が「飲んで、飲んでー!」と、飲みコールで盛り上げてくれるのだが、ビールと違って一向に進まない。
 

バリウムを飲み終えた後は、検査台の上で様々なハードなポーズをしなければならない。
台の上に横たわり、右に左に体を回し、時には台が傾く。
滑り落ちないようにバーを掴んで踏ん張る体勢は、特にきつい。
検査が終わった後は、いつもぐったりしていた。
 

ベッドの上に横たわっているだけで済む胃カメラ検査の方がずっと楽だった。
幸い先生は検査が上手で、世間で言われているような苦痛もあまり感じたことはなかった。
 

胃カメラを受けるようになって、自分の胃がかなり綺麗な部類に入るということを知った。
最初は、先生の褒め言葉も、軽いリップサービスかと思っていた。
しかし、どうやら本当に綺麗らしい。
「医者は『絶対』って言っちゃいけないんだけど、この胃は絶対ガンにならない胃ですよ」と言われることもあった。
 

過去の私は、よく胃が痛くなった。
胃薬を飲んでもなかなか良くならず、おかゆやうどんを食べて凌ぐこともあった。
それが胃カメラ検査を受けているうちに、不思議と胃が痛くなることが減っていった。
 

先生に毎回褒めてもらっているうちに、自分を見る目が変わっていったのかもしれない。
なんてったってお手本のような胃で、絶対ガンにならない胃だもの! 
自己肯定感ならぬ、胃の肯定感が確実に上がった。
 

昔は、胃が痛くなると、決まってインターネット検索をした。
「もしかして、悪い病気かも……」と不安になって、安心できる材料を探すために画面を追った。
けれど、逆に良くない情報ばかり拾って、不安を更に大きくする。
そんなことを繰り返していた。
 

それが、先生の言葉を思い出すと、胃の不調が出てもさほど気にならなくなった。
自分の胃に自信が持てるようになり、不安が沸いてもすぐに消せる。
気づけば胃痛とも胃薬とも無縁になった。
 

これって、女性が「綺麗」と言われ続けると、ますます綺麗になると言う話と同じなのかもしれない。
「綺麗」と言われることで、自己肯定感が高まり、自信がつく。
そしてこの状態を維持したいという思いが生まれ、さらに綺麗になろうとする。
結果として、良い循環が生まれ、ますます綺麗になるという仕組み、いわば「褒められスパイラル」だ。
 

私の胃も、先生からの言葉を聞いて、「きゃー! 嬉しい!」と喜ぶのだろう。
そして、自身の存在を肯定し、自信を持ち、今の健康な状態を保とうと働く。
その胃を見た先生が、また褒めてくれ、また自信をつける……という循環が繰り返されているのだろう。
ここにも「褒められスパイラル」が発動している。
褒められたら内臓だって嬉しいし、張り切るのだ。
 

そういえば、肝臓を褒めて、飲みすぎをにし払拭たこともあった。
「明日は間違いなく二日酔いだ……」と飲みすぎを後悔した夜に、とにかく肝臓を褒めまくった。
「私の肝臓はとっても強い。大丈夫。これくらいのアルコール、たいしたことない!」と、自分に何度も言って、床についた。
すると、翌朝にはびっくりするほど綺麗さっぱりアルコールが抜けていた。
肝臓が私の褒め言葉にきちんと反応してくれたのだろう。
 

言葉の力は、私が想像する以上に身体に大きな影響を与えている。
これからたくさん自分の身体を褒めて「褒められスパイラル」を作っていこう。
風邪かな? と思ったら「私の免疫力はウィルスよりずっと強い」
肩こりかな? と思ったら「私の筋肉はとってもしなやかで柔軟」というふうに。
 

どんどん褒めちぎって、心と体に良い循環を生み出せば、今以上に自分の身体を信頼できるようになるだろう。
小さな不調にも動じない、大木のようなドーンと構えた気持ちで、毎日を快適に過ごせたら最高じゃないか。
 

今年もそろそろ健康診断の季節がやってくる。
胃の褒め担当はもちろん、いつものあの先生だ
先生、今年もたくさん「綺麗」って言ってね。
 
 
 
 
***

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2024-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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