メディアグランプリ

江戸のUFOいとおかし~歪められた怪談の扉をひらく~


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記事:Ranun(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
夏といえば、怪談です。
ゾゾっと、身の毛もよだつような話を聞いて、冷気を浴びたくなります。
 

子供のころ、夏休みになると「稲川淳二の怪談」を聞くのを楽しみにしていました。怖がりのくせに強がって、テレビの前で三角座りし、ドキドキしながら聞いていたのを思い出します。
 

大人になると、怪談を聞くというよりは、むしろ見るほうにハマっていきました。とくに江戸時代に描かれた妖怪画や、幽霊をモチーフにした浮世絵などは、おどろおどろしくも、コミカルなものも多く、つい見入ってしまいます。
 

当時の人々は、このような怖い話を持ち寄って、ひとりずつ披露する「怪談会」なるものを開いていたようです。
 

まるで全員が稲川淳二になったように語り、全員が前のめりで聞くというスタンス、想像するだけで興奮しますね!
 

このような会は、口承文学のひとつといえますが、聞いたお話を書きとめる人や、絵にする人もいて、少しずつ違ったバージョンの写本が作られていきました。似通った伝説や民話があるのはこのためなんですね。
 

もちろん怪談だけに限らず、日々の出来事や、ちょっとした噂話も、文字や絵に記録されてきたおかげで、現代の私たちもそれを見て、楽しむことがでるのです。
 

今回は、その中から「うつろ舟伝説」という江戸のミステリーを紹介したいと思います。江戸の庶民を震え上がらせた、有名なお話です。
 

私がこの話を知ったきっかけは、ある夏の日、勤めていた大学図書館の先輩が、ゾゾっとするような発言をしたことです。
 

「夏はやっぱり怪談だなあ、
えっと、コウブンコってやつに、
あれが載ってたな、そうそう、UFO……。
ウツロブネって知ってる? あはは~」
と笑い、彼はスーっと消えていったのです。
 

「え? UFO? ウツロブネ?」
新米だった私は「コウブンコ」の意味も分かりませんでした。
 

「廣(広)文庫」というのは、明治以前の文献の引用を集めた、いわゆる百科事典のようなものです。
 

その後こっそり「うつろ舟」を引いてみると、世にも奇妙な物体が記されていました。これはおもしろい!
 

たしかにUFOにも見えますが、ちょっと貧相で、まるでドラえもんのポケットから出てきた道具のように見えてしまい、ニンマリしたのを覚えています。
 

これはいったい何!?

 
ということで、原典のひとつ「虚舟の蛮女」(『兎園小説』曲亭馬琴著 1825)を見てみると、このようなことが書かれていました。
 

「享和3年(1803)2月、常陸国(茨城県)の海岸に、うつろ舟という円盤の形をした舟が現れた。
 

いったん姿を消したが、その夏、再び海岸に打ち上げられた。
 

うつろ舟は、木をくりぬいたような舟で、その中から女が一人出てきた。
 
 

美しい白人女性で、赤毛。年は20歳前後、身長は180センチぐらいで、声は大きくて甲高い。
 

60センチぐらいの箱を大事そうに抱えていて、誰も寄せつけなかった」
 

えぇー!? 180センチの女性って大きくない? 甲高い声でなんて言ったの? 日本語? 女性がもっていた箱って玉手箱? などといったモヤモヤ感が残ってしまいます。
 

ちなみに円盤は相当大きく、高さ3メートル、幅は5メートルあったと言われています。しかも、上半分は水晶やビロードの窓があり異国感あふれる装い。
 

舟の中が空洞(虚ろ、空ろ)なことから、「うつろ舟」と名付けられたのでしょう。
 

ただ、このお話は、実にさまざまなバリエーションがあり、流れ着いた海岸は愛知県だという説や、乗っていたのは女性だけでなく、男の生首もあったとか……。
 

ひとつの目撃談が、噂となって広がり、話が膨らみ、脚色され、怪談やミステリーに発展した可能性もあります。
 

しかし、肝心のうつろ舟の図絵は、どれも構造が一致しているので、これだけは正確に伝わっていったのでしょう。ある意味ミステリーです。
 

そんなわけで、うつろ舟は、現代でも多くの人の関心を呼び寄せています。これって、もしかしたらUFOだったのでは? という説が出回ったのは実は近代になってからのこと。
 

茨城県にある常陽史料館では、昨年、うつろ舟を再現したものを展示されていました。その画像を見ると、まさに空飛ぶ円盤、UFOにしか見えません! 
 

科学的な根拠はないそうですが、UFOが空からではなく、海を渡ってくるとなると、乗っている人は「宇宙人」とは呼べなくなりますね。

民俗学研究家の折口信夫氏(1887-1953)も、このように言及しています。
 

「これは小さい神様の出現であり、他界から来た神様が、この世の姿に変身するために、入れ物のような空洞のある乗り物が必要だった。柳田国男先生いわく、潜水艦のようなものではないかと言っていた」
 

こうなると、もう言いたい放題な感じもして、なにが本当かなんて、誰にもわかりません。
 

しかしこのように、ひとつの絵がきっかけとなり、日本の文化、歴史を掘り下げ、知見を広げられたことは、非常に有意義な時間でした。
 

みなさんもこの夏、日本の伝承文学に親しんでみてはいかがでしょうか。
 

ゾゾっとするような画像は「国立国会図書館のデジタルコレクション」や、「怪異・妖怪画像データベース」からも無料で見ることがでます。
 

これらの貴重な資料群が、新たな興味への扉となって私たちを出迎えてくれることでしょう。

 
 
 
 
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2024-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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