トラブル対応を学ぶには舞台に立て
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉田珠翠 (ライティング・ゼミ6月コース)
20代の頃、私はミュージカルが好きで、好きが高じて自分もミュージカルをするようになった。そして1年に数回、舞台に立っていた。
舞台は見るととても楽しいものだが、自分がするとなると、とてつもなく大変だ。
表で歌やダンス、演技を頑張るのはもちろんのことだが、舞台裏でも、とても多くの注意点がある。
例えば、衣装をどのタイミングで着替えなければならないか。
衣装の早変わりはどこでするのか。髪型や靴、アクセサリーは衣装に合ったものになっているか。
小道具はどこに準備しておけばいいのか。
共有する小道具は、どんなタイミングで渡さなければならないのか。
自分の出番では舞台のどこで待機するのか。
など、事前に決めて頭の中に入れておくことがたくさんある。
さらに「舞台は生もの」と良く言われる。
これは、同じことをしていても、思いもよらないトラブルが発生することがあるので、その時その時で対応しなければならないことがある。なので「生もの」と言われる。
そして先述した注意点を怠るとほとんどの場合、トラブルにつながる。
このトラブルがやっかいだ。私の経験を少しだけ書くと、
小道具を忘れて舞台に出てしまい、意味のない動きになってしまう。
出番を間違えて予定時間より30秒早く出てしまい、お客様の前で固まる。
舞台上で転んでしまう。他の出演者に小道具を渡すことを失敗して相手が顔面蒼白になる。
早変わりに失敗して靴を履けずに素足で踊る。
人のセリフを自分が言ってしまい、相手の人がアドリブでつなげる。
自分だけではなく、他の出演者もトラブルを起こすことがある。
とあるその人は、緊張してしまって動きが固くなり、舞台上で足をくじいてしまった。その時、私も舞台上にいた。とっさに私は、自分の役のイメージを保ったまま笑顔で、倒れた出演者をかかえて舞台袖まで連れていったことがある。
このようなトラブル対応は、舞台を見ているお客様が気づく人もいれば気づかない人もいる。
ある意味、そんなに重要なことではないと思われるが、出演している方は冷や汗ダラダラものだ。お金を払って見に来て下さるお客様に対して、お客様が満足するように舞台をきちんと努めなければならないからだ。そのため、舞台の最中はずっと集中していなければならない。
舞台は時間が秒単位で流れていく。秒単位で幕が下りる瞬間まで、出演者や裏方の人も含めて全員がすべきことをしなければならない。途中でトラブルがあった場合は、すぐさま解決策を瞬時に考えて、できることをしなければならないのだ。
このトラブル対応の経験が、ビジネスでもとても活かされている。
仕事の場で、このようなことがあった。
研修講師の仕事で当日は、後輩が講師としてお客様の前に立っていた。私は、後ろでオブザーブをしていた。数名のお客様を前にして後輩の説明中、いきなりお客様が唐突な質問をしてきた。
その時、後輩はきちんと答えることができず、質問をしたお客様は少し不満そうだった。そこで私は、後ろから大きな声で補足情報をお客様に伝えた。
私の補足があったからか、お客様は回答に満足してくれた。そして、研修は滞りなく進めていくことができた。
研修終了後、私が後輩にフィードバックをした後、後輩からこんなことを言われた。
「先輩はいつも、研修のトラブル対応や、お客様の質問でもすぐに完璧な対応をされますよね。そこが凄いなっていつも思います」
後輩に言われて、私は初めて気が付いた。そうだ、何かトラブルがあった時、私はまず動いていた。なぜ動いているのだろう? と考え、舞台の経験があったからだ、ということに気づくのに、そんなに時間はかからなかった。
通常のビジネスの場でトラブルがあった時は、まずトラブルを正確に把握し、次にトラブルの原因は何かをつきとめる。原因が分かると、その対応策を考えてから実行する、という流れが通常ではないだろうか。私も会社で、そのように教えられてきた。
しかし私は、実際の現場でトラブルがあった時は、すぐに何かの行動を起こしていたのだ。
これこそが、私が舞台をしていた経験が活かされている。
私が、すぐに何かの行動を起こすことで、たとえそれが最善策でなかったとしてもお客様からは、トラブルに対して解決しようという姿勢を見せることができる。
この行動がお客様からは、誠意と捉えられることが多い。こうした行動で私は、様々なトラブルを解決してきた。
秒で流れる舞台でトラブルがあった場合、原因は何か、などということを考えていたら舞台は成立しない。
小道具が手元になければ、ないなりに演技をしなければいけない。なぜ小道具がないのか、手渡すべき人がなぜ渡してくれなかったのかなど、悠長に考える時間などはないのだ。幕が下りるまでは目の前の事に集中して全力で動く。これに尽きる。
トラブルがあればどのように対応すべきか、これを舞台が教えてくれたと、私は思っている。
舞台に鍛えられたこの教えは、今も私の心の中にあり、ビジネスの中で活かされている。
***
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