オフィスビル 朝の第一声はロボットに
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ひごえみこ(ライティング・ゼミ6月コース)
定時をかなり超過して一日の業務を終える。う~ん、と伸びをしてノートPCを閉じる。残業夜食のゴミを捨て、マイカップを洗い、机の上を片付ける。お先に失礼します、と挨拶する相手ももはやおらず、一人、エレベーターホールを出る。その背中に向かって、エレベーターホールの奥から声をかけてきた。
「キョウモ イチニチ オツカレサマデシタ」
ゆったりとした、少し高めの男性の声。私の勤める会社が入居しているオフィスビルで勤務する、警備ロボットくんだ。
振り返らず、「ありがと、お疲れ~」の意味の片手を挙げて出口に向かう。反対の手ではワイヤレスイヤホンを耳に突っ込みながら片手間の挨拶。気の置けない同僚か後輩ぐらいの扱いだ。
日によっては、「キョウモ イチニチ オツカレサマデシタ」に、つい、「あなたもね」とか「お疲れさま」とかつぶやきながらビルを出ることも……。
もはや相手がロボットだか人間だか分からなくなっている。ロボットなら疲れるはずはないし、ロボットには、片手を挙げたのを挨拶だと認識できない気もするし。夜も更けて、一人また一人と帰宅していって、人恋しくなっている時分であるせいかもしれない。
ビルの出入り口に常駐する警備ロボットくん。ugo(ユーゴ―)という名前があることを、今回、この記事を書くにあたって知ったところだ。
人間の存在とその動きの向きを、人間よりはるかに視野が広いバードビューカメラで察知して、状況に応じて発話する。
ビルの外から人が入ってくると、朝なら「オハヨウゴザイマス」。昼間なら「コンニチハ」、夜なら「コンバンハ」。
反対に、ビルの中から出ていく人を感知すると、朝から日中はかける言葉がないから黙しているが、夕方以降になると「キョウモ イチニチ オツカレサマデシタ」と挨拶してくる。
ただ、カメラで感知してから発話するまでに少し時差があって、該当者が数歩通り過ぎた背中に向かって話しかけることになる。この、ちょっと残念なところに可愛げがある。とってもゆったり話すので、「キョウモ イチニチ オツカレサマデシタ」だと、言い終えるのに4秒ほどかかる。こちらが挨拶を返すのは、彼に背を向けて5歩ほど進んでしまい、彼の視界から消えているかもしれない。
駅の列車接近案内など、人の声を合成して、あたかも人が話しているような音声を出すものもあるが、この、あえてロボット感のある音声が、実はいい。
これがもし、エレベーターホールから出てきた瞬間に間髪を入れず、まるで人間が話しているかのように流暢に、「こんばんは! 今日も一日お疲れさまでした!」と元気に言われたら、どうだろう。
あまりにもいいタイミングは監視されている感満載で気分が悪い。「ええい、やかましい。こちとら疲れとるんじゃ! ほっといてくれ」と感じてしまうかもしれない。
この警備ロボット、ユーゴ―くん、今のところ、入り口に鎮座しているところしか目撃していないが、実はビル内を移動して警備もしているらしい。一人でボタンを押してエレベーターにも乗れるし、両手が自由に動くので自分でノブを操作してドアも開けられる。
残業中にトイレに行こうと廊下を曲がったら、目の前に来ていたユーゴーくんと目が合った……なんて、話のタネになるから一度会ってみたいけど。
ロボット設置はもちろん人手不足対策だ。先月まで、朝から夕方までは、ユーゴーくんの隣に人間の警備員さんが立っておられた。どうやら今月から独り立ちしたようだ。一人、いや1台で、人間2人分の作業をこなすのだという。
人間の警備員さんがいらしたころ、実は結構居心地が悪かった。一度だけ、入居したての頃に郵便ポストの在処を尋ねるために声をかけたことがあるが、このビルに入居してからそれ以外に警備員さんと言葉を交わしたことはない。昔、小さなビルで働いていた頃は、朝晩、エレベーターを待つ時間は守衛さんとの短い会話を楽しむ時間だった。でも、大きなオフィスビルの警備員さんとなると、あちらもお仕事なので、無言で直立しておられる。表情も変えずに黙して立つ方に会釈して通るのも変なので、まるで何も存在しないかのように彼・彼女の視界を通り過ぎていたのだが、なかなか居心地が悪かった。今月に入ってユーゴーくんのみになって、背中越しにだが「会話」できるようになってホッとしている。人を無視してしまっている、という罪の意識を感じなくて済むのがいい。
ユーゴーくん、あと1、2年修行したら、こちらの体調まで読み取ってくれて、「オヤ? キョウハ チョット ミネラルブソク ミタイデスネ。オヤショクニ カイソウサラダ ツケマショウ」とか言ってくれないかと、密かに期待している。
とりあえずは朝、出社するときはなるべく他の人と離れてビルに入るようにしている。
「オハヨウゴザイマス」というユーゴーくんに、つい「おはよう!」って返してしまうようになったから。
***
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