メディアグランプリ

「サンドバッグになるな」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:阪本 沙衣

 
 

『バシュッ、バンバン』
心の中で、そんな音が聞こえた。
「お前が理解してなかったら、教えられないだろ」
上司からの言葉を聞くたびに、頭の中にあるサンドバッグを打たれるような、頭がグワングワンと揺れているそんな感覚になる。
 

そもそも、上司だって私に理解できるように説明するべきだ。メールだけで伝わるわけないだろう。そう心の中で反撃しても、届くわけがない。
 

仕事をしていると、出世することもあるだろう。その中で、よく言われることは、中間職が一番精神的につぶされやすいとうこと。
特に、工場の現場で仕事をしていた私は、男並みに女性だって仕事が合ったりもする。
上司からも文句を言われ、部下からも不満を吸い上げて、話しを聞かなければいけない。
その中で、上司と部下の思い違いも、中間職である人がパイプ役のように伝えて、自分の意見ではなく、他人の意見を伝えているだけなのに、理不尽に怒られてしまうことがある。
 

「リーダーは上司と部下のパイプ役」
そういって、リーダー職を補うことになった時に、研修で言われた言葉だ。
リーダーになったらなったで、今度は先輩だった方々を扱うポジションになる。
私がリーダーになった瞬間、今まで挨拶してくれていたパートの方も、挨拶を返してくれなくなった。
自分より、10年も後から入ってきて、それも女がリーダーになるなんてって、妬みを買ってしまった。サラリーマンなんだから、上司からリーダーになれって言われたら、自然となってしまうのだ。
今の時代は、そうではないが…
上に上がりたいと思わない後輩たちも何人も見てきている。最近は嫌だと言ったら、上に上がらなくていいというループが出来上がっているため、昔とは違うけど、私の時はパワハラをパワハラに思われない時代も経験している。
始めは、リーダーの仕事も覚えるところから当たり前だけど始まるのだが、周りはそう思ってくれない。
「リーダーなのにできないの?」
『バシュッ』
また、サンドバッグで打たれたように頭が揺れる。
「班長呼んでくるので、掃除していてください」
そう、指示しても、班長と戻ってくると、ベラベラしゃべってる作業者たち。
「なんで、やることちゃんと指示していないんだ?」
「掃除してって言いました」
「言っただけで、確認したのか?」
そんなの、指示したらやってくれていると思うじゃないか。
そして、上司に注意された作業者たちは渋々掃除を始める。
 

こんなんじゃ、パイプだってつぶれてしまう。つぶれたら、何も伝えたりなんてできなくなる。頭の中のサンドバックは、余韻を残すようにゆらゆら揺れている。
私は、サンドバッグになりたくてリーダーをやってるんじゃない。
かわらないと、変わらないとパイプはつぶれてしまう。
どうしたらいいんだろう。
 

そんな悩みを抱えながら、家にいたときふとクラッと立ち眩みに襲われた。
足がもつれたときに、ソワーのクッションに埋もれた私は『助かった』と心の中で呟いた。
モコモコでふわふわしたクッション。つぶしても形状記憶があるのだろうか、元の形にすぐに戻ってくる。
「これだ」
私はクッションを見つめながら、悩みの解決の糸口を見つけた。
『ワンクッション』
そんな言葉がある。
直接、苦手な人に話すよりも、ワンクッション置いて、話しやすい人に言う。そう言う人多いのではないだろうか?
言いにくい話や聞きたいことこそ、何故か人は人づてを伝いたがる。
私もクッションみたいな人間になろう。
つぶされても、元に戻るような、みんなのワンクッションになれば、みんな認めてくれるのではないだろうか。
そう思った私は、もう、人に気を使いすぎるのをやめた。
「おはようございます」
「…」
かまわない。
「今日暑いですね」
私は挨拶以外にも、応えないと気まずい会話を繰り出した。
「そうね、暑いわね」
無視していたパートさんも一人が応えると、次々に反応を示してくれる。
 

問題が起こったら、すぐに聞きに行き、作業者ファーストでまずは、結果をしっかり伝える。そういうことを繰り返していると、次第に、無視していたパートさんたちも、愛想よく私に自分から挨拶してくるようになった。
そして、上司に言いにくい案件を私に聞いてkてくれないかと、上司とのワンクッションとして私の存在が成り立っていった。
上司にも、
「なんでこれできないんだ」
「長くいるからって、教えてくれないとできないに決まってるじゃないですか」
と、口答えするようになった。
「教えてくれないと覚えれません」
そうはっきりいえば、上司も「そうだったか」と、納得してちゃんと教えてくれるようになった。
それからというもの、私はリーダーとの仕事も慣れてきて、いろんな部署の人とも仲良くなってくると、自然と私を忌み嫌う人は、そんなに表立ってこなくなった。
腹の底ではどう思っているか分からない。けれど、私はいいクッションになって来たと思う。私自身もきつい物を言いそうになる時、一息ついて、心の中のクッションにバウンドしてみる。モフモフのクッションを思い浮かべながら、リーダーの仕事をこなしていく。
この経験が私の基盤となり、今でも転職してもリーダーを任される、そんな人間になった。
サンドバックになってると思ったら、一息ついて自分の心を守ることを第一に考えて、上司と部下の関わり方を考えてほしい。

 
 
 
 
***
 
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2024-09-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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