何かを知ることは、何かを疑うことなのかもしれない
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記事:鈴木(ライティング・ゼミ6月コース)
30代半ばの今になって、歴史が楽しい。
きっかけは、歴史系のポッドキャストやユーチューブを聞き始めたことだ。
高校生のころ、大学受験の科目で地理か日本史か世界史のどれかを選択する時には、日本史を選んだ。
理由は、方向音痴の私が地理を覚えるのは到底無理であろうことと、カタカナばかりの世界史の人物名が全く頭に入ってこなかったことだ。
消去法で選んだのが日本史だった。
だから、もともと歴史が好きなわけではない。
それでもドはまりしてしまったこの、歴史、というものの魅力について、少し話していきたい。
以下の歴史に関する話は、諸説あります。さらに私の感情が加わっています。「そんな話だっけ?」と思われるかもしれませんが、それも諸説とお受け取り下さい。
私が歴史を学んでいて「歴史っておもしろ……」と思うのは、「自分にとって当たり前の常識が崩れる瞬間」である。
例えば、私たちが当然のように持っている人権。昔、人権は存在しなかった。
古代ギリシアのスパルタという国では、強い戦士であること、戦いに勝つことが、全ての価値基準になっていた。
子どものうちに戦士として優秀かどうかを判断されて、身体が貧弱そうだったら即刻農家に。最悪の場合、崖から落とされることもあったとか。
戦士として認められたものは、すぐに戦士養成所へ入って過酷な訓練の日々をすごし、いつか戦場で死ぬ。戦場で死ぬことが、家族にとっても、本人にとっても名誉な死に方だった。
この事例を聞いて、「人を国の道具として扱うな!」とか「かわいそうな人生だ」などと言うのは、今の価値観に基づいた人間の、自分勝手な言い分である。
ご存じかと思うが、この時代のスパルタは最強だった。力がすべての時代であっても、この国としての方針は、間違っているのだろうか。
もし自分がスパルタで生まれ育っていても、同じように言えるだろうか。
ちなみに、スパルタはその後滅亡するが、結末を知っている私たちが「政治ができる人を育てなかったからだ」などと言うのは、見当違いも甚だしい。
あとからだったら、なんだって言える。
今、私たちが抱えている到底解決できなさそうな問題や、素晴らしいと思われている価値観も、2000年後の人類からしたら「あの時代の人たちはいったい何を考えていたんだろう」と言われたっておかしくないのだろう。
そして、そんな歴史を見ていると
「スパルタ人から見たら今の自分って幸せなのかな」と謎の視点で自分のことを考えたり、「今を生きる私たちには、第三者的に今の状況を見ることって不可能なんだろうな。それでも一生懸命考えて生きるしかないか」と開き直ったり、
「人からどう思われるかとか、あとからなんて言われるかとか、ちっぽけなことだよな」などと壮大な考えにたどり着いたりする。
もう一つ、個人的に歴史っておもしろいな、と思うことを紹介させてほしい。
それは、「偉人たちの人間味あふれるエピソードを知った時」である。
例えば、ガンジー。
非暴力不服従を掲げて、戦闘をしないで革命を成し遂げた人だ。
「尊敬する人物はだれですか?」と聞かれて「ガンジーです」と答えれば、悪い印象を持たれることはいないだろう。
このガンジーが、自分の妻や子どもたちとどんな関係を築いていたのか、知っている人がどれだけいるだろうか。
率直に言うと、ガンジーはほとんど家に帰ってない。だから子育てもしていない。お金を稼いでいないから、家にお金を入れたりもしていない。
「塩の行進」といわれる行進をしたり、さまざまな活動をして牢屋に入れられたりしながら革命を進めていったので、当然と言えば当然のことである。
しかし、息子はグレた。常にガンジーの思想と反対の行動をしていたそうだ。
このガンジーの家族に対する接し方は思想に基づいた行動なので、「ガンジーって実はひどい人だったんだ!」などと言うつもりはない。
ガンジーの一連の活動がなければ、今でもインドは植民地のように扱われ、カースト制度がもっと強烈に残っていたのかもしれない。
すごいことを成し遂げた事実は変わらない。今でも偉人伝がそこら中に残っているのが、何よりの証拠だ。
大義を果たすには犠牲が必要なのかもしれないが、だとすると、犠牲になった側の人間が存在することになる。
犠牲になった側の気持ちは、いったい誰が聞くことが出来るのだろう。
それは、知る必要がないことなのだろうか。
こうして歴史を学んでいて最も感じるのは「歴史って人がつくってきたものなんだな」ということだ。
教科書の歴史には温度感がなく、年号と事実が並んでいるだけだった。
今自分が学んでいる歴史には、熱さやドラマがある。誰かの思惑と大きな流れが絶妙に絡み合って、歴史に残る大事件が起こっていく。その過程もおもしろい。
だけど、知れば知るほど、私たちが知る歴史というのは「勝者の歴史」だということを突き付けられる。
負けた者は消え、勝った者が残っていく繰り返しの中で、その勝った者たちしか歴史を残すことは出来ない。
果たしてそうして残されてきた歴史は、どれだけ信じられるものなのだろうか?
人間が作った歴史なのだから、何者かの思惑が反映されていたって、何もおかしなことはない。
歴史をよく知らない頃は、歴史を疑うということも知らなかった。
今は、それを疑うことが出来る。
何かを知ることは、何かを疑うことにもつながるのだな、と考えたりもする。
逆に、何も知らなければ、何もかもを信じて、全てを何かのせいにして生きることもできるのかもしれない。
だけど、歴史を学んでしまった私には、もうそういう考え方はできなさそうだ。
それが幸せなのかそうでないのかを決めるのは、歴史を作っていく自分自身だということにして、日々を積み重ねていこうと思う。
勝者にも敗者にも、歴史は存在するのだから。
***
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