キャラの違う二人が紡ぎ出す刑事のような夫婦の物語
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
パナ子(ライティング実践教室)
秋のシルバーウィークを利用して、夫の実家へ帰省しようと荷物をまとめていた。午前10時、家族四人分の着替えやらなんやらをキャリーケースに詰め終わり、リュックサックにはそれぞれが飲むお茶も入れた。貴重品が入った小さいボディバッグを身に着け、さあ行こうかと玄関に向かった時だった。信じられない一言を8才の長男が放った。
「おれ、実は……ちんちんが痛い」
えーーーーーーーーーーーーっ!! いつから? ねえ、それはいつからなの?
聞けば、朝起きた時から既に痛かったらしく、これが原因で大好きなおじいちゃんちに行く話がなくなったらと思うと心配で、自分のおちんちん「気のせいだ!」と言い聞かせていたという。
もっと、はやく、言わんかーーーーーい!! とリビングの真ん中で絶叫しそうになるのを、すんでの所でなんとかせき止めた。こうなりゃ、家族会議だ。私は夫を呼び説明した。
「かくかくしかじかで、おちんちんが腫れたらしい」
日々の子育てについては奮闘していると胸を張って言えるのだが、いかんせんおちんちんについては自信がない。私はそれを持ち合わせていないのだ。8才のおちんちんを囲み夫婦で検証が始まる。
夫「うーーーん、こんなもんじゃない?」
私「いや、いつもは、こう……もっと真直ぐな感じで」
夫「ほうほう、なるほど……腫れている?」
私「うん、腫れている」
夫「あぁ確かに、いつもに比べて丸みを帯びているな」
検証した結果、夫は船を出すとき船長が「出航だ!!」と掛け声をかけるみたいにはっきりとした口調で「受診だ!!」と言った。
新幹線の時間は迫っている。しかし、このまま何の処置もせず新幹線に乗り込み、本人の痛みが増したら困る。早速泌尿器科を受診することにした。病院に連れて行くのは、私の役目である。おちんちんに関してはわからない事もあるが、子供の受診に付き添うのは専業主婦である私がほぼ100%担っている。症状に合わせて、どこの病院に連れて行くべきか頭にリストはある。まかしておけ。
夫と5才の次男に留守番をしてもらい、私と8才は泌尿器科に急いだ。結果、ばい菌が入ってしまったのか確かに腫れていると医師は言い、今は経過の途中かもしれず、もしかしたらこれから右肩上がりに腫れが増すかもしれないなどと末恐ろしい事を言った。でも、そういう事なら尚更いま受診してよかったと胸を撫で下ろす。抗生物質が入った軟膏を出してもらい、今度は自宅へと急いだ。
自宅に戻ると、夫と5才は全ての荷物を持ってマンションのエントランスまで出てきていた。ナイス! これで数分の短縮ができたはずだ。今度は駅までの道を急ぐ。みんなの荷物が入った重たいキャリーケースを引きながら夫が「パナちゃん、お疲れ!」と声を掛ける。「うっす」私は手短に返事をした。
自宅を出るギリギリの時間になっても受診できたのには、理由があった。毎度、家族でお出かけをする際、夫が時間に余裕を持った計画を立てるのだ。夫は丁寧な暮らしを代表する者のように、バタバタと気忙しく行動することを嫌う。おかげで何でもかんでもギリギリの癖が抜けない私をフォローしつつ、ゆったりとした出発が可能なのである。
しかし、まだ気は抜けなかった。
いくら余裕を持たせていたとはいえ、新幹線出発の10分前に駅に滑り込む形になる。大きな駅は乗るまでにエスカレーターをいくつか乗り継ぎ、改札口までは大人の足でも数分かかる。しかも、私たちには駅についてから弁当を購入するというミッションも待っていた。ちょうどお昼時に差し掛かるため、新幹線内で昼食をとるのだ。
新幹線駅までの移動で地下鉄に乗っていた時、またもや作戦会議が始まった。
夫「俺が先に走っていって全員の弁当を買う」
私「OK。じゃあ私はキャリーケースを引いて後を追う」
夫「待ち合わせは新幹線の改札口の前。また後で!」
私「了解!!」
挟み撃ちして犯人を仕留める時の刑事のように、無駄のないコンパクトな作戦会議だった。我ながら自分たちの華麗な会議の運びに惚れ惚れした。
新幹線の改札口に着いてすぐ、弁当を抱えた夫と無事に落ち合う。ホームに着いた途端、新幹線が滑らかに登場した。夫が予め取っておいてくれた指定席に座り、やれやれと安堵の気持ちで弁当を受け取る。
完全におまかせで買ってきたもらった弁当が、私好みの松花堂弁当だったのを見てほくそ笑んだ。ふーん、よくわかってんじゃん。走り出した新幹線のなか、心ゆくまで弁当を堪能したのだった。
日頃、相性が合わねえだの、考え方が違うだの喧嘩もたくさんしてきた私たちが、アクシデントもあるなかこうやってスムーズに事が運べるのは、知らないうちに積み上げたものがあるからじゃないのか。改めて二人の過ごしてきた年月に思いを馳せる。
お互い全然違うキャラクターで、私はすぐにふざけてノリと勢いを大事にするタイプだし、それに反して夫は、面白みには欠けるが思慮深くて中長期的な計画を立てるのが上手だ。日頃全然キャラクターの違う二人がやっていけるのは、お互いの個性を信頼しているからではないかと思ったりする。
長い人生、これから何度でもアクシデントに見舞われることだろう。そんな時はまた作戦会議と検証で信頼し合える刑事の相棒のように夫婦で乗り越えられたらと思っている。
***
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