メディアグランプリ

羽毛布団で包まれる幸せを受け継ぐ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:izmy(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

健やかなるときも、病めるときも、私を包み込んで温めてくれた。
出会ったときはあんなにつやつやとふっくらとしていたのに、今はすっかりよれよれのこの布団も気づけばもう20年も使っている。
 
私は「布団の打ち直し」という、人生初の経験に二の足を踏んでいた。
お店選びや打ち直しの費用などの不安もあり、いつも決断を先延ばしにしていた。
 
新しい布団を買ってしまった方がいっそ早くて安いのでは? 
だけど、あっさりとは捨てられなかった。
自分の身体に馴染んだような気もして愛着があった。そして、最大の理由は、母が苦労して働いて貯めたお金で買ってくれたプレゼントだったからだ。
 
今年こそは、布団をなんとかする。
 
新聞のチラシを見ていたら、
「羽毛布団リフォームキャンペーン ご相談承ります」
地元の駅ビルのテナントに入っている布団屋さんのお知らせが目にとまった。
割引などはなかったが、明るくしっかりとしたデザインと、大手布団メーカーの店舗であるという安心感に惹かれた。
どうしようか……正直、休日は家でゴロゴロしていたいが「発生した課題を、発生したその時に片付けるようにする」という、先延ばし体質を変えるべく立てた私の今年の裏目標を思い出し、「えいや!」と相談会の予約を入れた。
 
相談会当日。
布団を入れるような気の利いた袋を持ち合わせていなかったので、ビニール紐でなんとなく括って、布団をなんとか持ち運び可能な状態に丸めた。
 
どきどきしながらお店に向かって声をかけると、優しい雰囲気の女性スタッフさんが「はーい」と笑顔で迎えてくれた。
 
持参した布団を渡し「その掛け布団カバーを開けると羽毛が飛び散るかもしれないので、すみません、気をつけて確認してください」と伝えると「はーい、大丈夫ですよ。では、さっそく状態を見てみますね」と優しく答えながらカバーを開け、布団にハサミを入れ、羽毛をピンセットで取り出す。その羽毛を透明な筒に入れてシャカシャカとおみくじのように筒を振る。筒の中でふわふわと踊る羽毛をじっと眺め、スタッフさんは説明を始めた。
 
「良いお布団ですね。表地はシルクなので多少の経年劣化は仕方ありません。この筒の中を見てみてください。たんぽぽの綿毛のように中心から毛が生えて、毛足が長いものが今後も使える羽毛です。たんぽぽのような構造で空気を含むから、温かさが保てるのです」
「わー。こんなふうになっているんですね。わかりやすい」
「そして、この糸くずのような毛は、もう切れてしまって使えない毛です」
「これもたくさんありますね」
「はい。でも、状態の良い羽毛がまだまだあるので、それを洗浄して再利用し、切れてしまった分の羽毛を補充すると、ふっくらとしたお布団になりますよ」
 
冒頭で布団を褒められた嬉しい思いと同時に、他者からの説明を受けて初めて、母は高品質な布団をプレゼントしてくれていたんだ、と気づいた。
 
さて、気になるのはお値段だ。
料金表を見るとシングル2万円から20万円以上。表生地や、羽毛の種類・補充する量で値段が変わる。桁数の多さに目がくらむ。店内には安価な既製品も並び、迷いが生じた。
 
スタッフさんは疑問や不安に丁寧に答えてくれ、プレゼンも上手だった。
例えば、表生地はゴアという加工繊維。価格はお高め。ゴアの特徴は、ダニやノミが羽毛部分に入らず「アレルギーの方にも好評」慢性鼻炎の私にはここが刺さった。また、汗や油も浸透しづらいから、恒久的に布団のクリーニングは不要。表の汚れをキャッチするために掛け布団カバーは必要だが、カバーを洗うだけで良いなんて、すごく楽チンでいいじゃない!
表生地はゴアに決めた。
 
羽毛はポーランドグースが良いらしい。土地柄、農業が難しいポーランドは国を上げてダウンの生産に取り組んでいて、高品質なものを提供しているのだそう。ポーランドを応援し、国品質に期待することにした。
ちなみに、格安布団は中国産羽毛の端切れを使っていることも多いらしい。
 
表生地+羽毛洗浄+打ち直し費用+ポーランドグース補充で約13万円也。なかなか、であるが、打ち直し後にまた20年使うとして、1年で1万円もかからないのだ。
今後の身体のメンテナンスのことを思うと、実はリーズナブルで効果の高い投資なのではないか?! と思い、打ち直しを決めた。
 
帰り道に同行していた母から「てっきり既製品を買うのかと思っていたよ。打ち直しするとは意外だった」と言われた。
「うん、お値段もあるし迷ったんだけどね。でもさ、あの当時は学費とかで出費もあるのに、本当に良いお布団をプレゼントしてくれたんだな~と、気づけたんだよね。これからも大事にしたいな、と思った。これまで価値を知らなかったのはちと恥ずかしかったけど、自分でメンテしようと思うと価値がよくわかるね。素敵なプレゼントを、本当にありがとう」
 
1か月後、つやつやとふっくらした姿でうちに戻ってきた。
母からのプレゼントを自分の手で受け継ぐことができたこと、ふわっと温かく私を包み込んでくれる幸せが続くこと、に嬉しさをかみしめながら、深い眠りについた。
 
 
 
 
***
 
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2024-10-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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