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個人経営の飲食店を楽しむ方法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川瀬健二(ライティング・ゼミ9月コース)
 
 

つい先日テレビを観ていたら、ワイン、トリュフやチョコレートを試食して最も高級なものを当てる番組がやっていた。一流芸能人が目隠しをしながら試食をして高級食材を当てる、年末年始に放送されるあの番組とよく似ている。
 
何気なく観たその番組は、フランス人とイタリア人それぞれ10人で競い合うものだった。「ワインならイタリア人に負けるはずがない」とお互いにプライドをかけて自信満々に挑む様子は、視聴者を楽しませる演出だ。結果は1勝1敗1分けというオチだったが、面白かったのは実に半数以上の人が全く当てることができなかったのだ。
 
例えばワインなら1本3万円、5千円、5百円の3種類を順番に試飲する。3万円と5千円では、味や香りの差が微妙で迷ってしまうのかなと思いきや、5百円のワインを選ぶ人が多いのに驚いた。毎日ワインを飲むお国柄なのに、10人中3~4人しか当てることができない。トリュフやチョコレートでも結果は同じで、美食の国を自負する人たちの半数以上は当てることができなかった。
 
「5百円のワインや百円のチョコレートなら、さすがにわかるでしょ」と思いきや、実際には「これが最も美味しいよ」と自信満々に選ぶ人が多かった。フランスやイタリアではなく日本製なのだが、元々安い材料をいかに美味しく感じさせるかという技術力が高いのかもしれない。香りが良いから高級なのではなく、香料の技術が優れているのだ。
 
もちろん僕も、最も高級なワインやチョコレートを当てられる自信はない。プロの料理人やソムリエでない限り、食感、味や香りだけで正確に判断するのは難しいと思う。居酒屋で友人たちと、ビールや日本酒を飲み比べて銘柄を当てるゲームをやったことがあるが、びっくりするほど当たらない。酔っぱらってから始めれば、なおさら当たらない。
 
しかし偶然入ったお店に2種類のビールが置いてあれば、「じゃあ、ヱビスで」と注文する。そして飲んだ後に「やっぱりヱビスは美味いな」と呟くのだ。ワインであればラベルやブランドを通して、より多くの情報を得ることができる。作り手、産地、ブドウの品種や生産された年などを知ってから、その味や香りを楽しむ。うんちくと言ってしまえばそれまでだが、ワインを口に運ぶ前にインプットする様々なストーリーが期待を膨らませ、飲んだ時により一層美味しいと感じさせるのだろう。ラベルやストーリーは、最高の調味料だ。
 
時間がない平日の昼間は大手チェーン店を利用することも多いが、僕は2度、3度と同じ店に行くなら個人経営の飲食店と決めている。高級なお店だとそれほど頻繁に通えないから、安くて美味しいお店を探す。できればカウンターに座り、料理している店主の顔を見ることができるお店がベストだ。
 
個人経営の飲食店を初めて訪れる時は、まさに大人の探検だ。一人でも多く集客しようという気がないお店だと、まず外観からして入りにくい場合も多い。中に入ってメニューを見れば金額はわかるが、予想を超えて美味しいこともあれば、残念ながら予想を裏切る場合もある。ある程度の味が約束されている大手チェーン店とは違うのだ。SNS上に口コミやレビューという便利な情報が増えている昨今では、期待外れな結果に陥るリスクが以前よりも減っているかもしれない。それでも最後に信じるのは己の勘だけ、やはりお店に入る瞬間はドキドキする。
 
この楽しさを広く世に知らしめたのは、「孤独のグルメ」の功績が大きい。井之頭五郎は毎回新しいお店に飛び込むのだが、そのお店に何度か通って店主に顔を覚えてもらえると、得られる情報が少しずつ増えてくる。その店主が話好きだと、例えば野菜の産地はこことか、市場で魚を選ぶときはどこを見ているとか、このひと手間でお肉が柔らかくなるとか。ワインのラベルやブランドとは異なるが、料理の作り手から聞く様々な情報もまた、最高の調味料だ。目の前で作ってくれるから、待っている間に視覚や聴覚も刺激されて、さらに期待が高まる。こだわっている調理方法まで店主が話し始めてくれたら、あなたも常連の仲間入りだ。
 
常連になると、さらに別の楽しみもある。「はい、これはおまけ!」と言って、一品サービスしてくれる日もある。お寿司屋さんでは大将が「これは今日絞めた鯖、こっちは2日前に絞めた鯖。味が全然違うから食べ比べてみな」と言って出してくれることもある。夜のバーではそこに集うお客さんとも仲良くなり、飲みながら会話を楽しむことができる。そういったコミュニケーションを楽しめるのも、魅力の一つだろう。
 
このような個人経営のお店は決して派手に主張することはなく、今日もひっそりと佇んでいる。店主のこだわり、人柄やお店の雰囲気が、料理やお酒をより一層美味しく楽しむことができる。

 
 
 
 
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2024-10-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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