5年ぶりのライブで改めて知る、好きでい続ける理由
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:むぅのすけ(ライティング・ゼミ9月コース)
私には、25年以上前から大好きなバンドがいる。
個人的なことで恐縮だが、「推し」というにはあまりに別格過ぎて、私の中では完全に別枠の特別扱いである。
いつしかずっと、私の人生に寄り添ってくれているように感じている。
当時、まだ付き合い始めた頃の彼氏がラジオで聴いて、即ファンになったらしい。
興奮しながら教えてくれたそのバンドに、私もすぐにハマった。
そして彼ら4人は同い年で、私より若いアーティストだった。
それまでの私は、自分が好きになるアーティストが年上ばかりだったので、とても新鮮な気がしつつも、20代半ばになった自分の年齢を意識したことを覚えている。
その後、新曲やアルバムが出る度に喜んで聴いた。
ライブにも何度も行った。
当時の彼氏は夫となり、生まれた息子は彼らの楽曲を子守歌のようにして聴いて育った。
その息子も、いつしか自分の意思で聴き始め、歌詞を彼なりに味わうようになっていった。
きっかけは親の影響だったのだろうが、今や、れっきとしたファンである。
初めて家族3人で行ったライブは、5年前だった。
中学生で思春期と反抗期真っ盛りだった息子は、親と出かけるどころか、家で共に過ごすことすら嫌がることが多かった。
一応、声だけはかけるつもりでライブに誘うと、意外にも行きたいと答えた。
それからしばらくは、彼らの楽曲やライブにまつわる話題で盛り上がることが増えて、ややこしかった時代の、家族のいい思い出になっている。
そして昨日、久しぶりに3人でライブに行ってきた。
今や大人気となっている彼らは、さらにチケットが取りにくくなっているらしく、とてもラッキーだった。
チケット獲得のために、何度も挑戦してくれた夫に感謝しかない。
3人で思い思いのツアーグッズを購入して、久しぶりに味わえたライブは本当に素晴らしかった。
客層は幼児から60~70歳代までと幅広く、多くの人々に愛されていることが窺えた。
そしてライブの最後、アンコールの曲も終わってからバンドメンバーが感謝の挨拶をして去ってから、楽曲を作っているボーカルメンバーが、一人でぽつぽつと思うことを話してくれた。
「みんな、鏡って見るよね」から始まった話を聞いて、私がなぜこんなにも彼らの楽曲に魅せられるのか改めて理解した。
鏡を見ることは日常に当たり前にある。
夜、寝る前に歯を磨く時とか、朝、出かける前に顔を洗う時とか、特におしゃれを意識せずとも鏡を見る。
その鏡に映る自分の顔を見ながら、ふと
「アレ? 自分ってこんなだっけ? もっと違う、なんか、こうじゃない自分でいたいんだけどな」なんて考えが頭をよぎる。
でも……こうじゃない自分って、なんなのさ?
自問したところで、自分でもハッキリわかっているわけではないのが、余計に悩ましく、ただモヤモヤする。
顔の角度を変えてみたり、表情を変えてみたりしてみても、自分が思うような、こうありたい自分の姿はどこにもない。
鏡の中には、いつも見慣れた、どこか冴えない自分の顔しかなくて、結局なんだか諦めてしまう。
そして、何もなかったかのように、また平気な顔をして自分の中のパブリックイメージ
のようなものを守りながら過ごしていく……
例えばこんな風に
特に誰かに話したり、説明したりできる程でなくて、一見、大したことではないんだけど、知らず知らずのうちに心の奥に溜まっていく『なにか』が、少なくとも私には、確実にある。
その『なにか』は、声に出来ないような僅かなことだったり、家族を含めて他人様には、どうってことの無いようなことかもしれない。
だから、出来るだけ見ないようにしていれば、これくらい大丈夫だと思いながら生きてはいけるのだろう。
実際、私もそうやって生きている。
だがしかし、である。
彼らの楽曲は、その僅かな、自分でも無自覚で気づきにくい『なにか』を拾って、見せて、いつしか癒してくれるのだ。
若い頃は、そこまで感じていたわけではなく、ただ楽曲のノリと歌声と歌詞の世界観が好きなんだと思っていた。
でも結婚生活と子育てを通じて、幸せなんだろうけどままならない日々を過ごすうちに、
いつしか私は、心に溜まる『なにか』を彼らの楽曲に救われている気がするようになっていった。
息子が大きくなるにつれ、私は必要以上に口やかましくなってしまっていた。
当然のように、どんどん関係は悪くなっていった。
大切な我が子なのに、どうしてこんなに優しくできないんだろうか……自分がちゃんとした母親じゃないからだ、と自分を責めることを繰り返していた。
そんな時、たまたま久しぶりに彼らの古い楽曲を聴いた。
過去に何度も聴いて、好きだった曲だ。
改めて聴いた時に、それまでただ単純に覚えていただけの歌詞が刺さった。
歌詞そのままは載せられないが
優しくありたいと願う人が既に優しい気持ちのある人じゃないか、というようなことが歌われていた。
こんなことを言ってくれていたとは、全然わかっていなかった。
当時、私はこの曲に癒されて救ってもらった。
すぐ息子に優しくできたわけではなかっただろうが、自分を責めることは減らせたと思う。
いつか、私のお気に入り曲集を作るなら、きっと1曲目に入れるだろう。
時を超えて私を救ってくれる……彼らのこんな楽曲が、私にはいくつもある。
とはいえ、癒しとは、人によってはすぐに感じられるものではないだろう。
無自覚に気づかなかった、ということは、心の奥底にあって、本人も実は気づきたくないことであるかもしれない。
彼らの楽曲を聴くことで、図らずも自分の中の『なにか』を理解してしまったり、寄り添ってくれる歌詞が、蓋をしておきたかった気持ちに届いてしまったりすると辛いと感じることもあるようだ。
だから、彼らのことを好きだったけども辛くて聴けなくなった、という声も、一定数あるという。
私には、そんな心情も理解できる気がする。
このバンドは、BUMP OF CHIKIN
それほどまでに、繊細な心の内をわかってくれるような楽曲を作る彼らには、そんなファンの辛い心の内も理解して包んでくれるように思えてならない。
ボーカルの藤原基央氏は、鏡の話の最後にこんなカンジのことを言っていた。
「その鏡に映ってる、自分では冴えないと思ってるのかもしれないけど、お前たちの顔を見て、俺たちは今日、演奏してきたんだ。俺たちをここに連れてきてくれてありがとう」
そして力強く、これからも私たち聴く人のために歌を通り続ける、とも言ってくれた。
その言葉は、私たちファンの心に、どこまでも寄り添い続けると約束してもらえたような気がした。
さぁ、楽しみにしていたライブは終わってしまった。
次はいつ行けるかわからない。
もう二度と会えないかもしれないが、それでも楽曲を聴くことはいつでもできる。
これからもたくさん聴くことだろう。
でもここで私に、今までにない気持ちが沸き起こってきた。
聴いて癒してもらったり、元気にしてもらうばかりだった自分を卒業したい。
鏡に見る、冴えないと思っていた自分の顔に、これからの約束をしてくれた彼らに恥ずかしくない自分でありたいと願ってしまった。
今私は、なんだかこれまでとは、少しだが違う自分になれる気がして、密かに浮かれている。
***
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